【蔵出し】安寧の館

 仕事を辞めた。
 正確に言えば、辞めざるを得なくなった。
 真面目で辛抱強く。頼まれれば快く引き受け、嫌な顔もせず、損の先に得があるのだと、そう言い聞かせて。
 自分に何ができるのか。自分の役割とは。どうすれば役に立てるだろうか。何をすればいいのだろうか。
 納期。報告。管理。改善。人脈構築。自己研鑽。お給料と円滑な人間関係のために、自分が持つ全てのリソースを捧げる日々。
 そうやって、頑張って、頑張って、頑張って。
 結果得られたものは、身体を壊し、心を壊し、ズタボロになった熾月佳織(しづきかおり)という絞りカスと。終ぞ使い道のなかった紙切れ。

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