彼女はヒカゲ。孤児院から引き取り、私の屋敷で働いている。 本来ならまだ学生である年齢だが、本人の希望もありメイドとしての仕事を任せている。 「ご主人様、こちらに」 「……耳かきはいい」 「あたしがやりたいんです。さ、こちらに」 柔らかなショートヘアをふわりと揺らし、少し茶目っ気のある笑顔を浮かべるヒカゲ。 ここに来て6年ほどになるが、彼女は本当によく笑うようになった。
「すごく嫌そうですね。あたしじゃご不満ですか?」 「そうじゃない。耳かき自体が、何というか、他人に命を預けているようで落ち着かないんだ」 「あはは、大げさだなぁ」 茶化すような笑みも、言葉も、彼女にとてもよく似合っていて、嫌味じゃない。 エプロンドレスに包まれた太ももに頭をのせ、彼女に見えないところで少しだけ口角を緩める。 「……でも、分かります」 これは、いっそ親心と言ってもいいのかもしれない。 彼女が本当のところでどう思っているかは知らないが、私は彼女をここに引き取ることができてよかったと思っている。 「だからこそ、あたしに任せてください。あたしは、絶対にご主人様を傷つけたりしませんから」 彼女の本心は、どこにあるのだろう。 ウソに慣れ、汚い感情に振り回されてきた彼女の心は、誰の手にも届かない場所へ隠れてしまった。 私は、それを少しでも陽の当たる場所へ連れ出せているのだろうか。 「……絶対に」 伺い見たその表情と声色は、さっきまでと全く同じだった。
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