たとえ冥闇に沈もうとも【6】

 あたしはメイド。
 このお屋敷の、ご主人様であるフォルハイム様に雇われているメイド。

 あたしは居候。
 どこにも行く当てがないから、このお屋敷に住まわせてもらっている。

 あたしは奴隷。
 身体にも、戸籍にも、心にも、それは刻まれている。

 そしてあたしは、信奉者だ。
 地獄のような場所から救い出してくれたあなたの。
 心をなくしたあたしにもう一度心をくれたあなたの。
 いつまでも、優しく見守っていてくれるあなたの。
「……どうした?」
「いいえ、何でもありませんっ」

 きっとあなたは気付いていない。
 あたしがどんな思いであなたを見ているのかを。
 あなたがどれだけこの胸の中に満ちているのかを。

 それは、救ってくれただけでなく。
 それは、育ててくれただけでなく。

 今もあたしを生かしてくれている全てであり。
 あたしのこれから一生を生きる意味でもある。

「よく分からんが、無理せずほどほどでいいんだからな」
「大丈夫です。あたし身の回りのお世話するの大好きなので」
「……変わったやつだな」
「そうですか?」
「多分な」
「うーん。でもあたしがしたいので、素直にお世話されてください」
「何か裏が……。欲しいものでもあるのか」
「素直にって言ったばかりですよね?」

 あなたがお腹いっぱいのご飯をくれたから、あたしの身体はここまで育った。
 あなたが仕舞い切れないほどの服をくれたから、あたしの気持ちは晴れやかになった。
 あなたが抱えきれないほどの愛情をくれたから、あたしの心は人を愛せるようになった。

 だからこの身体はあなたのために。
 だからこの気持ちはあなたのために。
 だからこの心はあなたのために。

 すべては、あなただけのために。

「おい、それは重いだろう。重たいものを持つときは俺に言えと言っただろ」
「えへへ、重いですね。でもだいじょう……っと、わっ!?」
「っ! ほら、言わんこっちゃない」
「え、へへ……。ごめんなさい、……そ、その、迷惑、かけて……」
「……? 何言ってるんだ、これくらいで」
「……」
「ほら、大丈夫か」
「は、はい……」

 気が付くとそんなことばかり考える。
 たまらなく醜く。たまらなく自分勝手で。……たまらなく本心だ。
 どうしようもなく自分が嫌いで。でも、あなたが好きだと言ってくれる自分は好きで。
 だからあなたに好かれようとしているようで、それが酷く打算的に思えて、気持ち悪くて。
「……よかった」
「壺が割れなくてですか?」
「怪我がなくてに決まってるだろ。分かってて聞くな」
「……。あ、愛があるかどうか試したんですよ~」

 なのにこうして触れてもらえるだけで、余計な考え事は全部どこかに吹き飛んでしまって。
 ただただ好きが溢れる。これさえあれば他に何もいらないと思える。
 単純な盲目信者になり下がる。

「……。さて、仕事してくるか」
「あ、逃げた」

 だけど、そんな単純な自分はなんだか嫌いじゃないから。
 これからもずっと、あなたのそばにいさせて欲しい。

 そのためなら、あたしは……。

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