あたしはメイド。 このお屋敷の、ご主人様であるフォルハイム様に雇われているメイド。 あたしは居候。 どこにも行く当てがないから、このお屋敷に住まわせてもらっている。 あたしは奴隷。 身体にも、戸籍にも、心にも、それは刻まれている。 そしてあたしは、信奉者だ。 地獄のような場所から救い出してくれたあなたの。 心をなくしたあたしにもう一度心をくれたあなたの。 いつまでも、優しく見守っていてくれるあなたの。
「……どうした?」 「いいえ、何でもありませんっ」 きっとあなたは気付いていない。 あたしがどんな思いであなたを見ているのかを。 あなたがどれだけこの胸の中に満ちているのかを。 それは、救ってくれただけでなく。 それは、育ててくれただけでなく。 今もあたしを生かしてくれている全てであり。 あたしのこれから一生を生きる意味でもある。 「よく分からんが、無理せずほどほどでいいんだからな」 「大丈夫です。あたし身の回りのお世話するの大好きなので」 「……変わったやつだな」 「そうですか?」 「多分な」 「うーん。でもあたしがしたいので、素直にお世話されてください」 「何か裏が……。欲しいものでもあるのか」 「素直にって言ったばかりですよね?」 あなたがお腹いっぱいのご飯をくれたから、あたしの身体はここまで育った。 あなたが仕舞い切れないほどの服をくれたから、あたしの気持ちは晴れやかになった。 あなたが抱えきれないほどの愛情をくれたから、あたしの心は人を愛せるようになった。 だからこの身体はあなたのために。 だからこの気持ちはあなたのために。 だからこの心はあなたのために。 すべては、あなただけのために。 「おい、それは重いだろう。重たいものを持つときは俺に言えと言っただろ」 「えへへ、重いですね。でもだいじょう……っと、わっ!?」 「っ! ほら、言わんこっちゃない」 「え、へへ……。ごめんなさい、……そ、その、迷惑、かけて……」 「……? 何言ってるんだ、これくらいで」 「……」 「ほら、大丈夫か」 「は、はい……」 気が付くとそんなことばかり考える。 たまらなく醜く。たまらなく自分勝手で。……たまらなく本心だ。 どうしようもなく自分が嫌いで。でも、あなたが好きだと言ってくれる自分は好きで。 だからあなたに好かれようとしているようで、それが酷く打算的に思えて、気持ち悪くて。
「……よかった」 「壺が割れなくてですか?」 「怪我がなくてに決まってるだろ。分かってて聞くな」 「……。あ、愛があるかどうか試したんですよ~」 なのにこうして触れてもらえるだけで、余計な考え事は全部どこかに吹き飛んでしまって。 ただただ好きが溢れる。これさえあれば他に何もいらないと思える。 単純な盲目信者になり下がる。 「……。さて、仕事してくるか」 「あ、逃げた」 だけど、そんな単純な自分はなんだか嫌いじゃないから。 これからもずっと、あなたのそばにいさせて欲しい。 そのためなら、あたしは……。
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