その国は平和だった。 他国に誇るような名所もなく、名産品もない。その代わり、争いもない。 あるのはただ永い永い国の歴史と、穏やかに流れる時間。 だから、それは降って湧いたような幸運で。 だからこそ、国中を襲う不運となった。 「なんだ……これ……」 見つかったものは、見惚れるほど美しい太古の煌めき。 人々が求めてやまない、力の根源。 「……」 いっそ、価値を知らなければよかったのに。 そうすれば、それを巡り争うこともなかった。 否、価値を決めるのも、また人なのだ。 であるならば、やはりそれは必然だったのだろう。 「ひとまず、報告しねぇと……!」 一人の炭鉱夫がもたらした報は、国の中枢を震撼させ、すぐさま秘匿とされた。 それでも、事実は消えない。 人の欲に、隠し事は通用しない。 少しずつ、少しずつ。 キリキリと音を立て歪み始める運命。 その皺寄せは、一人の少女に委ねられることになる。
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