仕事終わりの20時頃。
「来たよ」
「いらっしゃーい。入って入って」
都心から少し離れたところにある、少しお高めのマンション。勤め人としては少し贅沢な気もするけど、女性の一人暮らしだ。ある程度セキュリティがしっかりしているところがいいと、二人とも似たようなところを借りた。
幸い、ある程度は会社から補助も出ている。ありがたいことだ。
「ごめんね、急に押しかけて」
「いいよ~。というか、毎日来ても良いんだけど」
「毎日はちょっと」
「なんでさ。そもそも、別居してるのもどうかと思うけどな、あたしは」
「別居言うな。結婚しとらんわ」
部屋の扉を開けてもらって、中に入る。
出迎えてくれたのは、あたしの親友で幼馴染の碧(みどり)。髪を低めのツインテールにまとめた彼女は、相変わらず悪戯っぽい笑みを浮かべてニコニコと楽しそうだ。
「……散らかってるね」
「いや、ほら、最近忙しいじゃん。業績伸びてるのはいいけど、人足らなくてさ」
「でもあんた在宅ワークでしょ。合間に掃除できるじゃん」
部屋に入った途端、ふわりと香る甘い柔軟剤の香り。
……碧の、匂い。
思わず立ち止まってしまいそうになるのを誤魔化すように、コートを脱いでいつものハンガーに掛けた。
「それとこれとは違くない? あくまで勤務時間中に家事なんてできませんよ!」
「急に良い子ぶるな。あと勤務時間外でもやってないでしょ」
「あーもー、わざわざそんなこと説教しに来たの!?」
「ご、ごめん……」
「なーんてウソウソ。明日やろうと思ってたんだって」
「……それも嘘っぽいな」
溜息をつきながら、散乱する小物や脱ぎ捨てられた服を片付けていく。
ふと碧に目をやると、椅子に座ってニコニコとこちらを見ていた。見てるなら手伝え。
「でもさ、本当になんで部屋別にしたの? 一緒が良かったのに」
「会社に申請しづらいでしょうが。何て説明するのよ」
「あたしたち付き合ってまーす、って」
「おバカ」
「バカじゃないもん! 菫(すみれ)ちゃんのこと好きなだけだもん!」
「はいはいありがと」
ぷーっと膨れる碧は子どものようだ。これでも会社では誰にでも人当たりが良く仕事もできる有能な人材として通っている。私の前だと全然そんな風には見えないけど。
「あ、菫ちゃんご飯食べた?」
「今日は会社から直接こっち来たからまだ」
「残り物だけど食べる? パスタ」
「ありがたいけど何でパスタ残したの」
「冷凍なんだけど、安いと思って大盛り買っちゃったんだよ~」
「まぁいいけど」
「お酒もあるし飲も~」
「飲めるんなら残さず食え」
粗方片付けた私は、勧められるがまま食卓につく。
温め直したパスタは結構残っていて、改めて碧って小柄なのよねと変なことを思った。
開けてくれたワインはそこらのスーパーで売っている安物だけど、ほろ酔いで気持ちを解すには十分だ。
「……」
「どったの?」
「……いや、別に」
ワイングラスを揺らしながら、視線を碧に向ける。
彼女が好きそうな、ガーリーなワンピースにカーディガン。外は少し冷えるけど、暖房が利いているからか少し薄手の部屋着だ。
無防備なその姿が、緩んだ心に邪な気持ちを連れてくる。
「そういえば、明日休みだよねぇ。どっか行く?」
「……碧」
「会社の子に聞いたんだけど、駅ビルに新しい店が……って、菫ちゃん?」
確かに、一緒に住むって選択肢もあった。
でも、さっきの碧の言葉は確信犯的で。分かってて言っているんだろう。
そんなこと、今の私にできるわけない。
「今日は、モデルになってよ」
「……はい?」
だって、四六時中一緒にいたら、社会人として終わってしまうから。
▼
「顔こっち。身体はそのまま。少し目線上げて」
菫ちゃんの指示が飛ぶ。あたしは言われるがままポーズをとって、レンズに視線を向ける。
「笑って。……違う、もうちょっと憂う感じで」
「こう?」
「だめ、引きつってる。もっと自然に」
「難しいよ~」
菫ちゃん、酔ってるな。会社の飲み会じゃ、いくら飲んでもしれーっとしてるのに。
同じ会社の、デザイン関係の仕事。部署は違えど、同じ会社で働けてあたしは嬉しい。バリキャリでクールビューティーな美人さん。完璧すぎて少し取っ付きにくく感じられてるみたいだけど。さっぱりとしたショートヘアと中性的な見た目、モデルみたいなスラっとした体形。男女問わずファンが多いのは知ってる。
でもそんな菫ちゃんの酔った姿を見れるのは、あたしだけ。
「こんな写真何に使うのさ~」
「仕事」
「ウソ、うちに今そんな案件無いでしょ」
「……内部資料」
「それで誤魔化せると思ったのが逆に可愛いよ……」
そもそも仕事用のカメラじゃなくて、個人のスマホで撮ってるし。どう考えてもプライベートだった。
「待ち受けにでもするの?」
「もうしてる」
「マジ? いつの?」
「この間先に寝ちゃってた時の」
「寝顔はやめてって! 消して!」
「ダメ」
写真撮影は一時中断。どたばたとスマホを奪いあいじゃれ合う。
別に、本気で消してほしいとは思ってない。むしろ、大事にしてくれているなら嬉しい。でも恥ずかしいのも本当だから、抵抗はする。
あたしってば、可愛い女だね。
「そんなに暴れるなら、大人しくさせる」
「何、やるの? っていうか、さっきから目が据わってて怖いんだけど」
「碧、おすわり」
「犬じゃないんだから」
「お・す・わ・り」
子どもに言うように、じゃない。
ペットに言うように。
「……はい」
そのニュアンスが分かったから、素直に従ってしまった。
「碧は悪い子。躾けないと」
「ちょ、どうしたのさ。変な酔い方してる?」
「今日リモートでずっと喋ってた子」
「へ? あ、ああ、総務の子ね。別に、世間話というか」
「あの子、可愛いよね」
「ま、まぁ、そうかな」
「私より愛想良いし、華があるし」
「いやぁ~菫ちゃんとは系統が違うというか、比べる対象じゃない、という、か……」
これあれだ。嫉妬モードだ。今日は面倒くさいのを引いた。
壁際まで詰め寄られて、そのモデルのように整った顔が間近に迫る。
「むぅっ!? ん……っ」
「ふ……、っ……ちゅ……」
さっき食べたカルボナーラの味。それと、少し甘いワインの味。
全身から力が抜ける。
いつも小学生に間違われるあたしの身体に、長身のモデル体型が覆いかぶさってくる。
逃げようがない。
「碧は誰のモノ?」
「そんなこと言わせるの?」
「言って」
「……菫ちゃんのだよ。この身体も、心も、全部」
「嬉しい」
「んむ……っ、あ……」
再び唇の距離がゼロになる。吐息が混じり、唾液を交換し、粘膜は熱を帯びる。
そして、視界の端。菫ちゃんの手が縄を持ったのが見えた。
「これで終わるわけないよね……」
「なに?」
「なんでもない。優しくしてね」
「私が碧に優しくなかったことなんてあった?」
「さっきも部屋が汚いって怒られた」
「それは事実でしょ」
「納得いかん」
自分の心拍が早まるのを誤魔化すように軽口を言って。
でも。
「腕、後ろに回して」
その一言で、あたしは抗う努力を諦めた。
▼
脱力した碧の身体の向きを変えながら、使い慣れた縄の滑らかな手触りを確かめる。
初めは縄の事前処理も知らなくて、「ケバケバして痛痒い!」と怒られたっけ。
今ではもう何代目か。碧の体液を吸って浅黒くなった縄は、そこが定位置のように碧の手首に纏わりついていく。
「……今気持ち悪いこと考えてなかった?」
「とんでもない」
血流を阻害しないよう、丁寧に縛っていく。手首から二の腕を巻き込みながら前面へ。慎ましい胸の上を通して、また背面へ。
「……今失礼なこと考えなかった?」
「滅相もない」
碧を縛る時は、どんなに酔っていても一気に醒める。それは、一歩間違えれば怪我に繋がる危険な行為だからだ。
まぁそもそも、酔った状態でやろうとはしないけど。今日は初めからこのつもりで来たから、酔うような飲み方はしていない。酔ったふりをしていたのは……照れ隠しだ。
「なんだかすっかり慣れちゃったね~」
「どっちが?」
「ん、縛るのも、縛られるのも」
背面で縄を纏め、二本目。今度は胸の下を通していく。
慣れた、と言われれば慣れたのかもしれない。動画やフェティッシュバーで覚えた下手の横好きだけど。
「本当に慣れたの?」
「そうそう。菫ちゃん、ここ来るたびにあたしのこと……」
でも、碧がそうだとは、私は思わないな。
「こんなに、ドキドキしてるのに?」
「……っ!?」
縄を掛ける動作の中、自然と近づいた耳元へ、囁く。
ビクリ、と身体が震えたのは、声に驚いたせいか、それとも。
「な、なわけ……ひゃうっ!?」
柔らかな鴨の羽色の髪。鼻を近づければ、しっとりと汗ばんだ女性特有のフェロモンが脳を突き抜ける。お酒で酔わない私が、唯一酔ってしまう魔性の匂い。
「い、犬じゃないんだから、吸わないで……っ」
「犬でしょ。さっきおすわりしたじゃん」
「そ、それとこれとは……!」
いつも余裕綽々で、小悪魔的で、楽しそうで。
でも、どこか他人と自分の間に一本の線を引いている碧。
「閂入れるよ」
「は、ぅ……」
脇の後ろから縄を通し、胸縄をしっかりと固定する。
ここまでくると、視覚的にも拘束感が強まる。さっきまでへらへらしていた碧も、何も言わなくなる。
代わりに口から出てくるのは、次第に艶を帯びる吐息だけ。
「できた」
「……菫ちゃんって、あたしのことよく縛るよね」
「そうね」
「なんで?」
後手縛り。おそらく縛りと聞いて大多数がまず思い浮かべるであろう緊縛。
別に縛りにこだわりがあるわけじゃない。もちろん、プレイとして楽しむこともあるけど。今日のような日は、単に自由を奪うため。それと。
「だって、縛ると碧、子犬みたいになるから」
「ど、どういう意味だよぅ」
「そのままの意味」
緩くもなく、きつくもなく。だけど、自分では絶対に解けない拘束。
緊縛は、抱擁だ。相手を逃がさないという、強い意志の表れ。
「碧、こっち見て」
「え、なに……あっ」
ピピっと、スマホのシャッター音が鳴る。
「ちょ、撮らないで……」
「宣材写真」
「どこに売り込むんだよぅ!」
さっきまでとは違う、碧の素の表情。
紅い頬。潤んだ瞳。浅い呼吸。微かに震える小さな身体。
「もうちょっと脚開いて」
「できないよ~!」
「脚は縛ってないでしょ」
「ヘンタイヘンタイ!」
「変態はお互い様」
愛おしい。私だけの碧。私だけしか見られない碧。
「うぅ~……」
しばらく無言でシャッターを切る。碧は恨めしそうにこちらを見るだけ。
それでも構わない。仕事で撮る写真の、何倍も心が躍った。
「はい、お疲れ様」
「……もういいの?」
「なに、もっと撮ってほしいの?」
「(ブンブンブン!)」
そんなに首振らなくても。
そういえば、昔から写真撮られるの嫌がってたな。おかげで碧限定盗撮技術は随分上がったけど。
「ほら、碧、おいで」
「……縛られて動けないんですけど」
「だから脚は縛ってないでしょ。ほら」
「むぅ~」
「返事は?」
「……はぃ」
ベッドに背中を預けて床に座って、碧を呼び寄せる。
縛られた上半身をくねらせながら、何とか立ち上がる碧。そのままぽてぽてと私の元に辿り着いて、私を背にすとんと座った。
「よしよし、よくできました」
「本当にペットだと思ってる?」
「犬みたいだなーとはいつも思ってる」
「思ってるんかい!」
自由を奪う縄の上から、抱き締める。一回りは小さな身体をすっぽりと覆うように。
細い。柔らかい。温かい。
身じろぎするような動きを、腕の力でぎゅっと押さえつける。
碧は「うぅ……」と弱弱しく呻きながら、抵抗するのをやめた。
「碧は可愛いね」
「ペットとしてでしょ」
「それもあるけど」
「あるんかい」
「女の子としても可愛い」
「あたしたちもう女の子って歳じゃないけどね」
「心はいつでも乙女でしょ」
「……やっぱ酔ってんな菫ちゃん」
「酔ってない」
「いや、酔って……んっ!?」
健気に吠える子犬を黙らせるように、縄で絞り出された胸をなぞる。
肌触りの良い部屋着の下にはブラの感触は無く、ツンと飛び出した乳首がその存在を主張していた。
「胸に手を当ててるの、感じる?」
「……っ、セクハラだね」
「服越しでも分かる。碧がドキドキしてるの」
「~~~っ!?」
普段飄々としている碧の、思い切り紅くなった顔。
子どものように高い体温。けれど、性感帯はすっかり大人だ。
縄に沿って指を這わせる。ぞわぞわと鳥肌を立てているのが見える。
目の前の汗ばんだうなじを舐めると、「ひゃわっ!?」と今日一番の悲鳴が上がった。
「ヘンタイ……!」
「どっちが?」
くいっと碧の顎を持ち上げる。
ベッドの向かいには、姿見。そこに映った自分の姿に、碧はまた顔を紅くした。
「……っ」
「脚開いて」
「……」
「3度も言わなくても分かるよね」
「…………はぃ」
ゆっくりと、碧の両脚が外側に向かって開いていく。
それが閉じないよう、私の脚を内側に入れ、杭のように押し留める。
「は、ずかしい……」
捲れ上がったワンピースの裾から、可愛らしい下着が覗く。
姿見に映ったその中心、秘所の部分は、微かに湿り気を帯び変色していた。
「興奮してるんだ」
「ち、ちが……」
「違わない。碧は縛られて、相手に好き勝手されて、興奮するんだよ」
「そ、それ、は……」
「菫ちゃんだからだよ……」という言葉は、聞かなかったことにした。
意味を考えだしたら、こっちまで身動き取れなくなってしまいそうだったから。
「触るよ」
「ちょ、待って、ま……んっ!?」
深く思考に沈む前に、手を伸ばした。碧の下着の中。無毛の恥丘。小さなクリトリス。ぬめり出したヴァギナ。
碧が暴れる。けど縄で上半身を、私の脚で下半身を固定され、逃れることもできないまま、結局は私の腕の中で大人しくなった。
ただ、羞恥心を紛らわせるように、両の手はグッと強く握られていた。
「怖がらないの」
「菫ちゃん上手すぎるんだもん……」
「碧の弱点が多すぎるんだよ」
「弱点って……ひぅっ!」
軽く耳を食む。胸は薄手の生地を擦るようなフェザータッチ。捲れ上がり露になったお腹周りは、おへそを中心に下腹部までを撫でていく。
弱点が多いといったのは本当だけど、その弱点を作ったのは私。一つひとつ、少しずつ。私が触れば感じるように調教してきた。
他人が触ればくすぐったいだけの場所も。私が触れば性感帯になる。
「は……、ふ♥ん……っ、あっ♥」
唇。首筋。背中。太もも。
撫でれば撫でるほど、肌が敏感になっていく。
同時に、優しくクリトリスを摘まんで剥き出しにする。碧は元々クリトリス派だった。形は小さいけど、その分神経が集中しているのだろうか。
「や、クリ、だめ……♥」
直接は触らず、フードや大陰唇をなぞっていく。膣口からとぷりと粘液が溢れ出てくる。それを潤滑液として塗り付けて、次第に愛撫はクチュクチュと淫靡な音を立て始めた。
「最後にしたの、いつ?」
「わ、かんな……♥」
「いつ?」
「き、昨日……っ」
「へぇ。その前は?」
「お、一昨日……」
「毎日じゃん。溜まってる?」
「それ、は……っ、菫ちゃんが、この前、お預けした、から……♥」
そういえば前会った時は最後までイかせなかったっけ。
寸止め責めで泣き叫ぶ碧も可愛かったなぁ。
「でも、自分で処理できてるなら、今日はもういっか」
「……へ?」
「そろそろ帰らないとだし。あ、縄は解いておくから」
「うそ、ちょ、まって、まって……♥」
なんて、そんなことするわけないのに。
普段なら「またまた~」とか言って調子を合わせに来るくせに、今はただ捨てられそうな子犬みたいに、涙を浮かべて縋りついてくる。
堪らない。可愛すぎる。一生このまま飼っていたい。
どこも触っていないのに、私の下腹部がズクリと反応する。
「どうしたの?」
「だ、だって、その、このまま……っ?♥」
「どうせオナニーするんでしょ?」
「ちが、だめ、自分じゃ、満足できな……♥」
「ちゃんと言わないと分からない」
どうしてこんなに楽しいんだろう。碧をイジメるのは。
あーあ、涎まで垂らして。目もトロンとして、発情してるのが丸わかり。
「自分でしても、だめなの……っ! 菫ちゃんじゃないと、治まんない!♥」
「……っ!」
誰にも見せることのない、必死な懇願。子宮がキュンキュンと疼いてしまう。
本当にこのままお預けにしても良いけど、今日は私のわがままを聞いてもらったしね。
「いいよ。可愛い碧の頼みだから、イかせてあげる」
「ほ、ほんと……っ?♥」
「うん。お礼は?」
「あ、ありがと……ございます♥」
自然と敬語になる碧はもう私の手のひらの上。
どこを触っても感じるし、何を言っても受け入れちゃう。
服の上からでも分かる、胸の突起。布越しにカリカリと擦れば、それだけで「ひゃああぅ♥」と鳴いてくれる。
まるで碧という楽器を演奏するように、身体中あらゆるところに触れ、弾き、なぞり、撫でまわしていく。
「最後は碧の好きなアレでイこっか」
「あ、あ、こ、こわれ、ちゃう♥」
引きつった笑顔でこちらを見上げる碧。
それに笑顔で返し、でも構わず指を膣の中へ入れる。
「あ゛、だめ、だめ、ぇ゛、い゛っ♥」
膣の入り口から少し入ったところのお腹側。指を鉤爪のようにして、少しザラザラとしたところを撫でる。
それだけで碧は不自由な身体を精いっぱい突っ張って、刺激から逃れようとする。Gスポットは徹底的に開発したから、今の碧には刺激が強すぎるかもね。
でも私は碧がどうすればイクかよく分かっているから。飛んじゃう一歩手前で、スッと指を離す。降り切らないように周囲を撫でながら快感は維持して、次の一撃に耐えられるギリギリのところまで落ち着かせる。
「お、お゛ぉッ♥♥あ゛ぇッ♥」
段々と碧の反応がメスのそれになっていく。理知的な雰囲気が崩れ、ただ強制的に快感を受け入れさせられる愛玩具になっていく。
寸止め。休憩。寸止め。休憩。寸止め。
充血してぷっくり膨らんだGスポットは、中にクルミが入っているかのような固い感触でその場所を知らせてくれて。
「そこ、おさな、ぁ゛あ゛、~~~~~~ッ♥♥」
同時に、下腹部を軽く押す。子宮口、ポルチオを目掛けて。
「ひ、ひぃ゛ぃ゛♥♥♥あ゛ッ♥あ゛ぁ゛ーーーッ♥♥♥」
「イきそ?」
「も゛、ゆうひ、へ……っ、♥、ぃい、ひぎッ♥♥」
「いいよ。じゃあ3,2,1」
準備させるつもりもない、唐突なカウントダウン。
碧の身体が整う前に、Gスポットとポルチオを押し潰す。
「ゼロ。イっていいよ」
「い゛、いぎゅ、うぅ~~ッ♥♥♥」
縛られているのに、と驚くくらい、強くのけ反って絶頂する碧。
いや、縛られているからこそ、快感の逃がし場所が無いんだ。
数秒間、硬直したまま絶頂して。打ち上げられた魚のようにビクビクと痙攣する。
その間も、Gスポットとポルチオを潰し続ける。
「は、ぁ、あ゛、だめ、だめ、ぇ゛、い゛っ、い゛っ、れ゛ぅ、♥」
「1回で終わるなんて言ってないよね」
「た、しゅけへぇ、♥ひぐッ、う゛ぅ!」
「欲求不満だったんでしょ?」
「やめ゛、あ゛ぁあッ♥♥」
「どうせ明日は休みだし、好きなだけイったらいいよ」
「ずっと、いっへう゛ぅッ♥あたま、ばかになっちゃあ゛♥♥」
「うんうん、バカになろうね」
プシュ、プシュと間欠泉のように潮が撒き散らされる。のけ反ろうとする脚はもうガクガクと震え、身体を支えられないようだった。自分を責めている元凶に身体を預けたまま、無抵抗に絶頂を繰り返す。
ああ、楽しい。このまま碧が枯れ果てるまで、イかせ続けたい。
「や゛、あ゛ぁぁあぁぁ゛あぁ……♥♥♥」
だけどさすがに声が掠れてきたところで、責める指を離した。
絶頂疲れか、くてん、と気絶する碧。
そのメス臭い身体を、抱き枕のようにギュッと抱き締める。
「可愛い。碧。私だけの」
身体はまだ収まりきっていないのか、抱き締めるだけで潮を噴いていた。
その行き先を何気なく見やると、ベッドルームから続くリビングにまで潮は飛んでいて。フローリングの床は水漏れでもしたのかというくらいビショビショになっていた。
「……あーあ」
碧、起きたら怒るだろうなぁ。
その姿が容易に想像できて、私はクスっと笑いながら縄を解き始めた。
▼
「菫ちゃん、やり過ぎ!」
「悪かったって」
「反省してない! 何で笑ってんの!」
「いや、だって、反応が想像通り過ぎて……」
「むぅ~~っ!」
憑き物が取れたように笑う菫ちゃんの顔を見て、それ以上何も言えなくなってしまう。
ズルいよ、菫ちゃん。何がどうって説明しにくいけど、なんかズルい!
「ちゃんと後片付けもしたじゃない」
「当然でしょ!」
「でもまだメス臭いね。しばらく友達呼ばない方がいいよ」
「誰のせいだバカ! ヘンタイ!」
あたしは気絶していて、何なら途中から記憶も定かじゃないけど。とにかく部屋の中はすごい惨状だった。
掃除してくれたのは助かるけど、元はと言えば菫ちゃんのせいじゃん!
「でも、汚したのは誰?」
「ぐむむ~」
「あんなに潮噴いたの初めてじゃない? よっぽど溜まってたんだ」
「もう! ホントに嫌いになるからね!」
「あはは! ごめんって」
イキ地獄から生還して、菫ちゃんとお風呂に入っているところで意識が戻った。
久しぶりに一緒にお風呂に入れて楽しかったけど、本当はもっと普通に入りたかったなぁ。だって、余韻でどこ洗われてもイキそうになるんだもん!
そのあと「私がやるから」って、べっちゃべちゃになった部屋を菫ちゃんが綺麗にしてくれて。これでもかってくらい消臭スプレー振って換気もしたけど、匂いは取り切れなかった。
「はーもー疲れた!」
「お疲れ。じゃあ帰るね」
「え、なんで。泊まっていかないの?」
「泊まっていってほしいの?」
「いや、だって、あたしまだ縛られてるんだけど」
そう、何故かあたしはまだ縛られていた。
いや、縛られていたというより、お風呂から上がってまた縛り直されたというか。
「休日だし大丈夫でしょ」
「そういう問題!? 何もできないんだけど!」
「日曜の夜また来るから」
「ふざけんな! 警察に電話してやる!」
「警察は困るなぁ」
そっか。今日は菫ちゃんの日だ。菫ちゃんが主導権を持つ日。
こういう日はとことんやりたいようにやらせてあげるのが吉。
「そのまま私の抱き枕になってくれるなら泊まっていってもいいよ」
「……。はー、もうそれでいいから」
「ほんと?」
「その代わり朝にはちゃんと解いてよ」
「分かってる。明日は新しい店行くんでしょ」
「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃん」
なんだかんだ言いながら、最後は受け入れてあげる。
うん。あたしって良い女だね。
「ベッドの上で2回戦目する?」
「もう寝かせて……」
こんなに菫ちゃんが甘えられるのは、あたしだけだからね。
▼
「碧、もう寝た……?」
「……すぅ」
深夜。シングルベッドに二人は狭いけど、その分ぴったりとくっついていられた。
縛られたまま寝られる碧も大したものだ。まぁ疲れも相当あっただろうけど。
「……」
唐突に始めた写真撮影。
仕事に使う素材として欲しかったのは本当だ。けど、今日撮ったものはどれも使えそうにない。見た目幼い女性の緊縛写真なんか提出したら、私の首が飛んでしまう。
まぁ明日は買い物に街へ出る予定だし、その時撮れればいいかな。
「碧……」
腕の中の眠り姫を見る。微かな吐息と身じろぎ。腕に感じる縄の感触。
私専用の抱き枕は、私の心を捉えて離さない。
「私、準備が出来たら、いつか……」
碧からは見えない位置で、スマホを開く。
フォトアプリの中に並んだ、大量の碧の写真。その中に、縛られこちらを見上げる今日の姿もあった。
「この中の碧は、ずっと私のモノ」
スマホの画面に指を触れ、ツーっとなぞってから、電源を落とす。
「この碧も、いつかきっと」
変わらず寝息を立てる碧。
その温もりを失わないよう、そっと抱き締めた。
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