ふりふりと揺れる可愛いお尻を眺めながら、部屋を移動する。
白くぷりんとしたお尻が揺れ動く様は、凶悪的な破壊力だ。
それに、午後の陽気麗かな赤絨毯の上、お尻の穴まで見えるその姿が実に滑稽で、加虐心がギュンギュン刺激されるから困ったもんだ。
「ここよ。入りましょう」
「りょーかい」
「わぅ……」
数ある扉の一つを開ける。
そこには、区切られた2つのスペース。
手前側、ドアを開けてすぐ目に入るのは、さっきいた部屋と見劣りしない豪奢なカフェスペース。
もうひとつは……。
「トレーニングルーム?」
「そう」
三方向鏡張りの、トレーニングスペース。
ドアを開けてすぐの部屋とはラジオブースのように区切られ、もうひとつのドアを開けて入る必要があった。
中に所狭しと置かれているのは、よくスポーツジムなどで見るような器具たち。
そのうちのひとつ、ランニングマシーンに手を掛けながら、啓子さんは悪意のない笑みをこぼす。
……本当に、迷いが無いんだなーとわかる。
「今からトレーニングの時間なのよ。……いわゆる、歩行訓練ね」
「ほこう……くんれん……」
少し、脈拍が上がる。
この状況で、歩行訓練といえば、対象はひとりしかいない。
「お待たせいたしました」
「ん。ありがとう」
タイミングを見計らったかのように、さっきの機械人形、……もとい、メイドの美弥がお茶のセットを運んでくる。
「準備するから、先に召し上がってもらっても結構よ」
「はいはい」
何を準備するんだろう……というのは、白々しいか。
家主に勧められたものを無下にするのもあれだし、素直に従っておこう。
そう思ってテーブルセットに近づいていき。
「……え」
メイドの運んできたワゴンの下段に目を奪われる。
「これ……って……」
「美弥、持ってきて」
「はい」
ひとまず客の分だけお茶の用意を終え、メイドはワゴンから”黒い何か”をズルズルと引きずり出す。
「それ……」
「あら、興味ある?」
「ラバーの……スーツ? ……でも、それにしてはサイズが……」
「ふふ。……貴子」
「……わん」
美弥がばさりと床を黒く染める。
床に広げられた黒いラバーの塊。
その上に、一瞬だけ躊躇いを見せたきぃちゃんが乗る。
肘と、膝を折り畳んだ、四つん這いの格好で。
「使うようになったのは、ここ最近なんだけどね。このドギースーツは」
やっぱり、だ。
ペットプレイ好きで、拘束好きとなれば、避けては通れない、いや、必然的にたどり着く答え。
人間性を奪う、物理的な四つん這いの強制。
その完成形の一つ、ドギースーツによる拘束が、今目の前で行われようとしてる。
「ちょっと……意外だったかも」
「ん?」
「なんとなく、拘束とかは使わないタイプなのかなって」
「そんなことはないわよ。無類の拘束好きってわけでもないけど。そのときそのときで、自分たちが一番良いと思ったことをやるだけ」
「……きぃちゃんも含め、ってこと?」
「もちろん。そもそも、あたしがこの子と出会った時だって、自縛した犬の姿だったんだから」
「あぅっ!?」
「っ!? ……それ、ほんとに?」
「ええ。今度その時の写真見せてあげる」
「うーっ!」
そう言ってコロコロと笑う啓子さんと、恥ずかしがりながら、どこか拗ねたような表情のきぃちゃん。
……きっと、嘘じゃないな。
あーあ。……そっか。
心に沸き上がった感情を零さないように気を使いながら、静かにため息をついた。
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