外伝02『ヒトイヌ拘束』

 ふりふりと揺れる可愛いお尻を眺めながら、部屋を移動する。
 白くぷりんとしたお尻が揺れ動く様は、凶悪的な破壊力だ。
 それに、午後の陽気麗かな赤絨毯の上、お尻の穴まで見えるその姿が実に滑稽で、加虐心がギュンギュン刺激されるから困ったもんだ。

「ここよ。入りましょう」
「りょーかい」
「わぅ……」

 数ある扉の一つを開ける。
 そこには、区切られた2つのスペース。
 手前側、ドアを開けてすぐ目に入るのは、さっきいた部屋と見劣りしない豪奢なカフェスペース。
 もうひとつは……。

「トレーニングルーム?」
「そう」

 三方向鏡張りの、トレーニングスペース。
 ドアを開けてすぐの部屋とはラジオブースのように区切られ、もうひとつのドアを開けて入る必要があった。

 中に所狭しと置かれているのは、よくスポーツジムなどで見るような器具たち。
 そのうちのひとつ、ランニングマシーンに手を掛けながら、啓子さんは悪意のない笑みをこぼす。
 ……本当に、迷いが無いんだなーとわかる。

「今からトレーニングの時間なのよ。……いわゆる、歩行訓練ね」
「ほこう……くんれん……」

 少し、脈拍が上がる。
 この状況で、歩行訓練といえば、対象はひとりしかいない。

「お待たせいたしました」
「ん。ありがとう」

 タイミングを見計らったかのように、さっきの機械人形、……もとい、メイドの美弥がお茶のセットを運んでくる。

「準備するから、先に召し上がってもらっても結構よ」
「はいはい」

 何を準備するんだろう……というのは、白々しいか。
 家主に勧められたものを無下にするのもあれだし、素直に従っておこう。
 そう思ってテーブルセットに近づいていき。

「……え」

 メイドの運んできたワゴンの下段に目を奪われる。

「これ……って……」
「美弥、持ってきて」
「はい」

 ひとまず客の分だけお茶の用意を終え、メイドはワゴンから”黒い何か”をズルズルと引きずり出す。

「それ……」
「あら、興味ある?」
「ラバーの……スーツ? ……でも、それにしてはサイズが……」
「ふふ。……貴子」
「……わん」

 美弥がばさりと床を黒く染める。
 床に広げられた黒いラバーの塊。
 その上に、一瞬だけ躊躇いを見せたきぃちゃんが乗る。
 肘と、膝を折り畳んだ、四つん這いの格好で。

「使うようになったのは、ここ最近なんだけどね。このドギースーツは」

 やっぱり、だ。
 ペットプレイ好きで、拘束好きとなれば、避けては通れない、いや、必然的にたどり着く答え。
 人間性を奪う、物理的な四つん這いの強制。
 その完成形の一つ、ドギースーツによる拘束が、今目の前で行われようとしてる。

「ちょっと……意外だったかも」
「ん?」
「なんとなく、拘束とかは使わないタイプなのかなって」
「そんなことはないわよ。無類の拘束好きってわけでもないけど。そのときそのときで、自分たちが一番良いと思ったことをやるだけ」
「……きぃちゃんも含め、ってこと?」
「もちろん。そもそも、あたしがこの子と出会った時だって、自縛した犬の姿だったんだから」
「あぅっ!?」
「っ!? ……それ、ほんとに?」
「ええ。今度その時の写真見せてあげる」
「うーっ!」

 そう言ってコロコロと笑う啓子さんと、恥ずかしがりながら、どこか拗ねたような表情のきぃちゃん。
 ……きっと、嘘じゃないな。
 あーあ。……そっか。
 心に沸き上がった感情を零さないように気を使いながら、静かにため息をついた。

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