外伝05『きぃちゃんが足の指をはむはむするだけの話』

 はむはむ……。

「本当に脚舐めるの好きねぇ」

 うん、好き。
 好きにさせられちゃった。

 ソファに座るお姉さまから、優しい笑顔と細くて綺麗な脚が降ってくる。
 下に正座した私は、その脚を捧げ持つようにして、指先を口に含む。

 どこか儀式然とした行為。
 だけど、いつも通りの愛情表現。

 ぺろぺろと、手の指よりも少し硬い皮膚を感じながら舐めたり。
 かぷかぷと、痛みを感じない程度に甘噛みをしたり。

 汚いとか、思わないわけじゃない。
 お姉さまだから平気なだけだ。
 だからこれは愛情表現で、そして、ご褒美。

 主人からペットへ、ペットから主人へ。
 相思相愛のスキンシップだ。

「ほっといたらいつまででも舐めてそうね」
「いつまででも舐めていられますよ?」
「ふやけちゃうわよさすがに」

 小さく笑いあいながら、ふくらはぎに頬ずりする。
 こうしてじゃれているのが、とても気持ちいい。
 裸で主人の足下をゴロゴロと、本当に犬になったような気持ちになる。

「くぅーん」
「なーに、気分でてきちゃった?」

 犬といえば、本当に犬状態のときにご奉仕することもある。

 両手両足を折り畳まれ、全身拘束された犬拘束状態のとき。
 お姉さまはわざとあみあみのブーツを履いてきて、私に口だけで脱がせるように命令するんだ。
 不自由な姿勢で、一所懸命に首を伸ばして、一か所ずつ紐をほどいていく。

「ちゃんとできたらご褒美あげるからね」

 って、お姉さまの言葉を頭の中でリフレインしながら。
 そうすると、疲れてきて辛くなった時も、頑張ろうって、思えるから不思議。

 そうしてほどき終わったら、つま先を咥えて、引っこ抜く。
 大抵はなかなか引っこ抜けずにお姉さまの手を借りるんだけど……。
 そうして脱ぎ終えた、少し汗ばんだ脚を私の目の前に差し出して、お姉さまは言うの。

「ご褒美、欲しい?」

 って。

 初めの頃は、すぐには理解できなかった。
 だけど、お姉さまは構わず。

「欲しくないの?」

 と、私を追い詰める。

 ご褒美。
 欲しいか欲しくないかで言えば、欲しいに決まってる。
 息を切らしたご奉仕も、正直に言えばご褒美が欲しかったから、という気持ちもある。
 だから、私は。

「わんっ(欲しいです)」

 と答える。
 すると。

「だめ。心から欲しいと思ってないもの」

 なんて、お姉さまは意地悪をする。
 だから今度は、何度も「ご褒美欲しいです」って、繰り返す。

 何度も何度も。
 何度も何度も。

 それでもお姉さまは意地悪そうに笑うだけで。

 そのうち私は、何でご褒美がもらえないんだろうって、「ご褒美欲しいです」って繰り返しながら、訳も分からず涙を流しだす。
 そうしてようやく、お姉さまが許可をくれるんだ。

「いいわよ。ご褒美。舐めなさい」

 ご褒美と、目の前のそれを舐めること。
 今度は繋るけど、理解はできていない。
 でも、その時の私には関係なかった。
 ようやくもらえたご褒美は、少ししょっぱかった。

「良い子ね、貴子。舐めながら、頭の中でいいわ。『ご褒美ありがとうございます』って、繰り返し言うのよ」

 ぺろっ……れろ……はむっ……。

 ご褒美ありがとうございます。
 ご褒美ありがとうございます。

 ご褒美ありがとうございます。

 ご褒美ありがとうございます。

 頭の中で、繰り返す。

 そんなことを、何度も、何度も繰り返す。
 そうすると、ちょっとずつ、ちょっとずつ、私の中で『脚を舐めること=ご褒美』の図式が組み上がっていって……。

「貴子、降参のポーズ」
「わ、わうっ!?」

 慌ててコロンとその場でお腹を見せる。

「スイッチ入ったのはいいけど、どこまでトリップしてたのよ」
「く、くぅーん」

 い、いけないいけない。
 現在進行形のお姉さまの声が、私の身体を動かす。

「ま、いいけどね。いつものことだし」
「わ、わん!」

 ひ、ひどっ。

「ほら、踏んであげるから、今日はもうイッちゃいなさい」
「あうっ」

 お姉さまに対して横向けに寝そべった私の顔とあそこに、トスッと足裏が着地する。
 当たり前のように踏まれる、その立場に貶められていることにゾクゾクとした妖しいときめきを覚える。
 我ながらかなり重症だなぁ……。

 土踏まずが鼻の上に乗っかって、思わずスンスンと匂いをかぐ。
 そうすると決まってお姉さまが「もうっ」って言うのが可愛い。
 お返しとばかりに足の指が口の中にねじこまれ、舌をキュッと挟まれる。

「ひはっ……! ひはいれふ!」
「知りません。ほら、ちゃんとポーズ」

 言われて慌てて崩れかけた降参のポーズを正す。
 おむつを替えるように脚を挙げて、両手は肩の横でグー。
 無防備なこの恰好で足蹴にされるのはとてつもなく屈辱的で、被虐的だ。
 でも、こうして全てを相手にゆだねることは、同じくらい解放感と安心感に満たされる。

「ひゃうっ!?」
「あらら、触る前から滑りが良いのはどうしてかしらね」

 お姉さまの足の指が、クレバスを往復する。
 時折コリっとクリトリスを撫でられ、身体中がビクンと反応する。

 視線を横に向ければ、お姉さまの見下ろした視線が返ってくる。
 それだけで、『ああ、自分はこの人の支配下にあるんだ』って、強く意識できて、頭の中がほわ~っと白い光に包まれる。
 それは快楽なのか、諦観なのか、安堵なのか、多分どれも正しいんだろうけど、
 そういうある種の『受け入れる快感』みたいなのがバババっと身体中を満たす瞬間が来る。
 そして、その瞬間をお姉さまは見逃さない。

「イクのね、貴子。いいわ、イキなさい」
「ふみゅーっ!!」

 とどめとばかりにギューっとクリトリスをひねられ、ビタンビタンと腰を飛び上がらせては落とし、手が真っ白になるまで強く握って、私はイった。

 こんなことばっかりしてたら、そりゃ好きにもなるってもんです。

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「……ねぇきぃちゃん。もういいわよ?」
「いやです。もう少しこうしてます。……あむ」
「……ふやけるってば」

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