「そういえばさぁ」
今日も今日とて調教三昧。
経緯が経緯だけにペットプレイ(って言うのかな)が多いのだけれど、最近は結構普通にスタンダードなSMプレイもしたりする。
今も珍しく緊縛プレイなんかして、その縄を片付けているところ。
最初は綿だったのに、この頃は麻縄なんか使いだしたりして、正直スイッチ入るまでは結構辛い。
ただまぁ裏で手入れをしているお姉さまを知っているので、なるべく早く慣れたいところだ。
「この間の話憶えてる?」
「何ですか? あと片付け手伝っていただけると嬉しいなぁ。ちらっ」
「そのよく動く口だけで片付けする? 貴子」
「わんわん(ごめんなさい)」
床にペタンと座って縄を束ねている私に、少し含みのある笑みを投げかけるお姉さま。
ソファに腰掛け肘をつきながらこちらを見る視線は、調教中と違って純粋に優しげだ。
その視線が何だかこそばゆくて、何となく身体に残った縄の跡をさする。
「で、よ。したじゃない。本当に犬として育てたらって話」
「ああ、何かしてましたね、そんな話」
お姉さまの言葉に、記憶を手繰り寄せる。
確か小さい時から犬として躾けたらどうなんだろう、とか、そんな感じの話。
「狼少女とか、そういうのですよね」
「まぁ今言いたいのはそこまで極端な話でもないんだけどさ。あの時も、割とまんざらでもなさそうな感じだったじゃない、話してて」
「あー……、まぁ、興味がないと言えば嘘になります」
自分が今、ペットプレイで楽しんでいるからこそ。
『本気』でペットにされる話は、興味深い。
私としては、ほぼフィクションに近い感覚ではいるのだけど、もしかしたら……、という思いが妄想に火を点ける。
自分がそうなるかはともかくとして、ね。
「やっぱりそう? ま、そりゃそうよね。こんなことしてるんだし。……つーわけで、出かけましょ」
「そうですね、プレイとはいえこうして……って、へ?」
……今何と?
「とりあえず今日はもうきぃちゃんのままでいいわ。車回してくるから、服着て表出てきてね」
「は、え……はい? ちょ、ちょっと、どういう……」
「これから、見に行こうと思ってね」
普通に会話をしていたと思ったら、出かけることになっていた。
何を言っているのか……状態のまま困惑した表情を浮かべていると、すでに着替えを終えた(一枚羽織っただけだけど)お姉さまは身を翻しながら。
「わんちゃん。勉強になるかもよ」
と言って、部屋から出て行った。
「……」
嵐が過ぎ去った部屋にポツンと残された私。
「……え、と」
急なことに頭がついていかない。
……わんちゃん?
かろうじて唯一引っ掛かったワードが、頭の中踊る。
「……とりあえず着替えよう」
お姉さまの出て行った先をぼけっと眺めながら、私は縄を仕舞い服を取りに行くのだった。
▼
慌てて服を着て戸締りをして、玄関を出て鍵を掛けていると、急げとばかりにクラクションを鳴らされた。
……理不尽だ。
「あたしの連れに、ブリーダーの子がいるのよ。まぁ売らずに飼育専門らしいけど」
「はぁ……」
乗り込んだ車中。
慌てて着替えたからか息を切らしながら助手席に座りこむ私を確認し、お姉さまがアクセルを踏みながらそう口にする。
というか、ほんの十数分前まで縄で吊るされてたんですけど、私。
そんな訴えるような視線も、微笑み一つで流されてしまう。
「いつでも来て良いって言われてたんだけど、すっかり忘れててね」
「もしかして、それを思い出したから急に?」
「うん。この間話しながら何か引っ掛かってて、今日ふと、ね。そういえば実際にそんなやついたな~っと」
何気に酷い。
「……お友達なんですよね?」
「一応ね」
「一応……」
うん、あんまり聞かないでおこう。
とりあえず、思い出してすぐに出発するくらいには大事なお友達なんだ。
「悪い子じゃないんだけどさ……。ちょっと面倒なのよ。苦手なタイプというか。今回も何ですぐに来なかったのかグチグチ言うに決まってるわ」
「ならこっちに来たときにすぐお伺いしていれば……」
「まぁそうなんだけど……。疲れるのよね。何て言うか、ほら、夏休みの宿題みたいなものよ」
「そんなに後回しにしたいような方なんですか……」
ブリーダーって言ってたっけ。
ということは、やっぱりその、そういうことをしている人だよね。
なおかつお姉さまがこんなことを言うほどの人。
何だか会う前から恐怖しか感じられないんだけど、大丈夫かな……。
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