第四話『調教～導入～』

　浮遊感。酩酊感。そして気だるい午後にうたた寝をしたような、軽い頭痛と身体の重み。

「う……あ……」

　目が覚める。学園の保健室とはまた違うベッドの匂い。

「こ……こ、は……」

　視野を取り戻すほどに見えてくる現在。

「そっか……」

　徐々に状況を把握する。

　薬を盛られて、捕まってしまったんだ……。

　意識を失う間際の会話から、地下の一室に違いない。周囲には、間接照明に照らされた薄暗い空間が広がる。

「ん……くっ！　ご丁寧なことね……」

　身体を動かそうとしても、がっちり拘束されているようで身動きがとれない。
　上半身を包むのは、あちこちにベルトの付いた拘束衣。腕は身体を抱くように交差し固定され、その上から厳重にベルトを巻かれている。拘束衣の表面にはいくつものリングが拵えられ、そこにもベルトが通り、私の身体をベッドに縫い付けている。
　単に自由を奪うだけなら、バインド魔法でもなんでも掛ければいいのに。物理的な拘束は不測の事態を恐れてか、はたまた悪趣味か。

「ここまでするのなら、こっちもちゃんとしてほしいのだけれど」

　微かな身じろぎすら制限された上半身とは違い、下半身は一糸纏わぬ状態で放置されていた。さすがに足首には足枷を嵌められ、ベッドに固定されてはいたけれど。でもそれだけで、大事なところは丸出しのままだ。
　別に、全身くまなく拘束しておきなさいよ、なんて言うほど特殊な性癖を持っているわけじゃない。けれど、これはこれで非常に居心地が悪い。

「目が覚めたようですわね」
「レストリア、あんた……」

　ぶつぶつ文句をこぼす中、やがてこの屋敷の主人が現れた。

　レストリア・ウィルストングス。
　私の級友であり、輝かしい未来を約束された天才。
　自らが頂点に立つ学園の制服ではなく、肌が透けそうなほどの薄い生地のドレスを身に纏い。軽く微笑みながら、この屋敷の、この空間の支配者として、今ここに存在している。

「……結局、どうしたいわけ？」

　そばに来た彼女を見上げながら、なるべく無愛想に言う。
　その質問は、倒れる前の話の続きでもある。今これからの話でもある。

「最終的には、わたくし専用の使い魔に」
「絶対ないわ」

　彼女を油断なく見つめながら、魔力が練れないか試す。

　……やっぱり、ダメか。
　盛られた薬のせいもあるだろうけれど、部屋自体に指向性のある障壁が張り巡らされている。さすがにその辺りは用意がいい。しようとしていることを考えれば、それも当然か。
　もっとも、魔力を練れたところでロッドがないからろくな魔法も放てない。それに彼女みたいに魔力そのものを開放したところで、私じゃたいした威力にもならない。

「具体的な工程としては、ひとまず快楽に溺れてもらいますわ」
「なんだ、随分とありきたりというか。工夫がないわね」
「効果があるからこそありふれているのですわ。それに、個人的な興味もありますし」
「いいご趣味だこと。ま、今回のようなケースにはうってつけか」
「そういうことですわ」
「私は耐えきるけれどね」

　減らず口を叩きながら、それでも徐々に絶望が私の頭を塗りつぶしていく。
　彼女のことだ。一度決めたからには、必ず達成しようとするだろう。それこそ、どんな手を使ってでも。使い魔どうこうは横に置いたとしても、今の私を生かすも殺すも彼女の思い一つだ。
　見ず知らずの相手よりはマシかもしれない。だけれど、知り合いだから、が通じる相手でもない。むしろ、いがみあった相手だからこそ、遠慮が無くなるかもしれない。

「耐えてもらって結構ですわ。それはそれでやりようはありますもの」
「あっそ」

　先が読めない。どうなるのか。どうされるのか。彼女の表情からは何も分からなくて。
　芽生えそうになる情けない感情を、必死で噛み殺し続ける。

「で？　快楽に、ということはあんた直々に愛撫でもしてくれるのかしら。私にはそういう性癖はないのだけれど」
「ふふふ。それは後のお楽しみにとっておきますわ」

　とりあえず、目先のことを一つずつ耐え忍んでいくしかない。知らぬ仲じゃないからこそ、隙を見出すチャンスもあるはず。未だ策は思いつかないけれど、きっと抜け出せる。逆転の機会はある。

　今の私には、そんな曖昧な希望しか抱けなかった。

「今回は特別にこちらを、あなたに」

　そして、長い１ヶ月が始まる。

▼

　レストリアが手にしたのは、ロッド。決闘の時の支給品とは比べ物にならないほどの、大きな宝玉部ときめ細やかな装飾が施されている。一目見て一級品のそれと分かる、おそらくは彼女の主力級の一つ。

「え、ちょっと……!?」

　いきなり私を亡き者にしようとするのかと焦り、すぐにそんなはずはないと思い直す。
　冷静になり、目視で術式を解読。
　ロッドを構えたレストリアが唱えているのは、……召喚の魔法だ。
　周囲で拳大ほどの結晶が生まれては、砕けて消える。そこからガスのようになった魔力が渦巻きながら収束し、次第に質量を伴いだす。まるで水蒸気が雲になっていくかのように。

「……っ」
「友人に変わり者がおりまして。術式を教わってきたのですわ」

　おそらく低級召喚……だとは思う。とはいえ、おいそれと出来るものじゃない。火や風など、摂理に従う自然魔法とは違い、召喚魔法は無から有を顕現する、いわば摂理を捻じ曲げる魔法だ。並の実力ではすぐに魔力が枯渇して病院送りになる。

「……ん。なにぶん初めてですので不安でしたが、上手くいきましたわ」

　それを容易く成功させてしまう彼女の力は、驚異的を通りすぎて呆れすら覚える。

「……って、なに、これえっ!?」

　けれど、それは今はいい。今更だ。
　問題なのは、今呼び出されたものが、瞬く間に私の股間を覆い、具現化したこと。

「ちょ、うひゃああっ!?」

　そしてそれが、無数の舌で舐め回されているような、強烈な違和感を与え始めたことだ。

「なんなの、これっ！　そん、なとこ……触ら……にゃああっ!」
「触手貞操帯、と言うそうですわ。ご感想は？」
「かん、そうもなにもぉっ！　動い、て、るぅ、のぉおお！」

　先程までの思慮深い私はどこへいったのか。そう自分で呆れてしまうほどの醜態。
　それほどまでに、突然だったのだ。
　まるで脇や足の裏をくすぐられてしまった時のように、冷静な自分は何の意味も持たず吹き飛ばされて。ポーカーフェイスは一瞬で崩れ去り、私は感情のまま声をあげた。

「ひゃあっ！　いやっ、やあっ!?」

　触手貞操帯。そんなものが存在するなんて知らなかった。ベッドに縛り付けられているせいで頭を起こせないから、見た目は確認できないけれど。どうせ私にとって楽しくないことになるのだけは、すぐに分かった。

「そこっ、さわっちゃ……あああっ！」

　召喚が終了し、完全に固定化する。動く範囲で腰を振ったところで、ズレる気配は微塵もない。
　股間を覆う部分は、びっしりと触手たちで埋め尽くされている感触がする。それはびちょびちょに濡れた下着を穿いているような湿り気と、ひやりとした冷たさ。グミのように柔らかく弾力のある細い突起物。それらが一つ一つ意思を持っているかのように蠢き、私の腰を、お尻を、ヴァギナを、クリトリスまでもを、その身で押し付けるようになぞっていく。

「あ、いっひ!?　は……ん！」
「まだ装着しただけですのに。今からその様子では、先が思いやられますわ」
「そ……んな……こと、んあっ！　いったっ……てぇえ……っ！」

　装着しただけ、という言葉に軽く目の前が暗くなる。抗わなくてはいけないのに。そんな自分の立場を忘れそうになる。

「ん！　んひぃっ、いいい!?」

　だって、こんなもの知らない。こんな奇妙な感触を強制的に与えてくる装具なんて、聞いたことがない。苦痛を与える拷問器具ならともかく、背中がぞわぞわとするような変な感覚を、あそこに……。

「あ、え……っ!?」

　そうこうしている間に、いくつかの触手がそれまでと違う動きをし始めた。

「な、なに……」

　まず感じたのは生温い液体。それが股間全体に塗りたくられるのを感じた。

「んあっ！」

　先程までとは違う感触に、思わず声が出る。
　その液体は粘り気があるようだった。それまで触手たちは肌の表面を撫で回すだけだったのに。その粘り気のせいで触手と肌の間に摩擦が生まれて、より強く擦りあげてられていく。

「あっああ！　ああっ！」

　言葉を紡ぐことができず、ポカンと開けた口のまま声だけが吐き出される。液体の触れた箇所が、熱く敏感になっていく。そこを撫ぜる力も強くなっていく。
　淫液だ、これは。そう気付いたところで、どうしようもない。身体は変わらず拘束されたままで、よじることすらできない。そこに触れるなんてもってのほかだ。何もできないまま、ただ股間だけが嬲られていく。

「ん、いいいいっ！　ひっ、ふ、うぅう……っ！」

　意識を逸そうとしても、身体はしっかりとそれを快感として受け取る。一気に、膨れ上がる。何となく気持ちいい、から、明確な性の快楽へと。一足飛びに連れていかれる。それに抗えない。
　自分でも、そういうことをしたことはあるけれど。そんなものとは全然違う。刺激の量が、圧倒的に……。

「あひっ!?　ん、あ、あ、いいいいっ！」

　もはや明確に愛撫の動きになった触手に、翻弄されるしかなくなった。

「そろそろですわね」
「ぁ、ん……!?　なに……っい、づうううっ!?」

　それだけでも理性を失うのに十分だったのに。
　股間を嬲る触手の中からいくつかが隆起し始め、それが膣に、肛門に、あろうことか尿道にまで侵入を試み始めた。

「やだ！　やだ入らないって！　いやああっ!?」

　私の拒絶に構わず触手は動き続ける。穴が拡がり、ピリピリとした痛みが襲う。けれど、暴れることすら許されない。しっかりと固定された身体では、ただそれを甘受するしかない。

「やああああっ！　あああっ！」

　淫液を滲ませながら、穴という穴をほじり、拡げ、触手たちが侵入していく。粘膜に直接淫液が触れ、加速度的に熱が、快感が大きくなっていく。初めはひりつくような痛みがあったはずなのに、ズリズリと擦られるうちにそれは甘い痺れとなり、異物感を消していく。

「あなたのことですから、純潔は守っていますわよね。そこに手をつけるつもりはありませんわ」
「ば、ばか……うあっ！」
「その代わり、処女膜を傷つけない太さで入り込みますわよ。純潔のまま、女の快楽を得られることに感謝なさいな」

　大事なところに、異物が入り込む恐怖。痛いのに、嫌なはずなのに、身体は次第に馴染んで違和感が失われていく。そのたびにそれぞれ触手は太くなり、穴が拡張され、また馴染んでいく。その繰り返し。
　触手は自在に太さを変えられるようだった。レストリアの言う通り、膣に入り込んだ触手は処女膜を破らぬよう太さを変えて侵入している。

「や……めっ、そこ……！　は、あああ！」

　けれど、それが何の慰めになるのか。深くまで入り込んだ触手は、やがて子宮の入り口にまで到達して。性行為のときの男性器のそれのように、淫液を吹きかける。温かいそれはすぐに子宮口に染み渡り、ジクジクとした熱に変わる。ぞろりとそこを撫でられれば、脳天まで痺れるような快感が全身を突き抜ける。

「ああっ!?　んっ！　あ、ん、んー！」
「不浄の穴から入った触手は、あなたの排泄物を摂取し消化するとのことですわ。……ああ、もちろん月のものも。よかったですわね、下の煩わしさから解放されますわよ」
「いらな、いっぃいい！　そんなのいらないい！」

　肛門と尿道に入り込んだ触手も、一定の大きさまで膨らんだ後は、微かに震えながらグリュ、グリュ、と前後に動くに留まっている。
　けれど、そのほうがつらいのだと気付くのに時間は掛からなかった。
　それは、排泄物が出そうで出ない、あの不快感。排泄欲がピークになったところでずっと寸止めされているようなもどかしさ。
　それを延々と味わわされる。いつまでたっても解放されない。

「もうやあああっ！　これ止めてええええ！」

　感じたことのない感覚。痛いはずなのに、気持ち悪いはずなのに。強制的に性感を刺激され、うやむやにされる。
　すっかり淫液まみれになった股間はことごとくが敏感になり、それを覆う全ての触手が遠慮なしに嬲り、苛め、快楽を叩き込んでくる。排泄するための穴も、大切な女の子の穴も、守りきれずに触手で埋まり、いいようにされている。中の中までグズグズに淫液で溶かされた粘膜が、触手の些細な動きでさえも大げさに、快感として伝える。

　まるで身体の中心が股間になったような。神経の全てがそこに集まったような。そんな感覚。
　そこを、触手たちに支配されて。好きなように弄くられて。もう自分では触れることすら出来なくされて。

「長い付き合いになりますわ。早めに受け入れたほうが楽ですわよ」

　そこにレストリアが手をかざして。カチリ、と確かな音が聞こえて。

「いやああああああっ！」

　取り返しのつかない破滅への道を歩みだしたのだと。
　鍵を持ったままの彼女の手で頬を撫でられながら、私は涙を流した。

▼

　最初の一週間。
　身構える私をよそに、放置される日々が続いた。

「ん……ぅ！」

　レストリアが私に直接手を下すことはあまりなかった。それどころか、私のいるこの部屋に顔を出すことも少なかった。

　長い、長い、一人の時間。

「……ぁあ、あ、あ！　ん、ぐっ！」

　誰かに会うのは、日に数回、数十分だけ。来るのは無口なメイドさん。
　いわゆるメンテナンスなのだろう。触手たちが暴走していないか、とか。私が大人しくしているか、とか。たぶんそんなことだと思う。

「ん！　ん……っ、ん、ぁ……！　ご、ふっ」

　まぁ、私や触手たちの様子は魔法で監視しているだろうし、おおよそ私の食事のためだけにきていると言ってもいい。食事といっても、どろどろとしたよく分からないペーストを流し込まれるだけなので、すぐに用は済んでしまうのだけれど。

「は……ひ、くひっ!?　ひぁ……あっ！」
「……」

　そして、それはとても事務的だ。初めこそ会話を、もっと言えば説得をしようと試みたのだけれど。まるで労働用ゴーレムのように感情を見せない、指示以外のことには目もくれない彼女相手では、それも断念せざるを得なかった。

「……」

　仕事が終わればさっさと帰っていく彼女。その後ろ姿を見送る。
　会話もなければ、責められるわけでもない。目も合わせてくれない。
　別に仲良くしようとは思っていないけれど、自分に何の関心も抱いてもらえないのは、思った以上に心を抉られる。閉ざされた世界で何も出来ず、一日中無為な時間を過ごしていると、なおさら。

「ん！　ん！　……あっい、いいいい、ぐっ!?」

　けれど、今の私にはその虚無感を満たしてくれるものがある。
　食事中であろうと構わず私を苛むそれ。
　見え透いたやり口だと理解していても、強制的に与えられ逃れようのないもの。

　快感だ。

「はあ……あああ！　は、ぐ、ああっ！」

　メイドさんがいる手前、なんとか堪えていたけれど。
　その姿が消えるや否や、私ははしたなく声を上げる。

「ふあ、ああ、ひ……！　ん、んあっ!?」

　一日中襲ってくる快感。そよ風を受け止めるだけでピクンと身体が跳ねてしまうような、敏感なそこを埋め尽くす。
　退屈はしない。する暇もないほど、溺れさせられる。すべてを委ねてしまいたくなる。

「も…　やだ、あああっ！　い、ぎっ！　いきだぐ、……な、いい！」

　けれど、過ぎた快感は苦痛でしかない。そう気付くのに時間はかからなかった。
　延々と絶頂を迎えるのは、想像以上に過酷で。どんなに嫌がろうとも、触手貞操帯はただただ命じられたまま私を責め続ける。イキたくないのにイカされる。私の意思や希望など、そこには存在しない。

「どめ、とめでえっ……！　こ、……れ、やあああ！」

　本当は今すぐ股間に手をやって、それを剥がし取りたい。ビクビクと痙攣する身体を休ませてあげたい。けれど、僅かな身動きさえできない。きつく締め上げる拘束が、それを許さない。
　それに例え自由になったところで、装着されたこれをはずすことは叶わない。実態はどうであれ、見かけ上はしっかりとした貞操帯であり、厳重に施錠されている。これは世界でただ一つ、契約者であるレストリアの魔力で創った鍵でないと開けられない。
　つまり、彼女以外にこれを解放できる者はいない。

「れ……ぇいいっ！　ひ、ぐ……！」

　私を支配するために、彼女が召喚した責め具。それは主人に代わって、私を屈服させようと追い詰める。
　無数の触手が途絶えることなく淫液を吐き出し、それを擦り付けて。そして剥き出しになった神経を直接なぞるような、容赦のない愛撫を繰り返す。

「ん！　ん！　く……うぅあああっ！」

　いや、それを愛撫と言っていいものか。不規則にその身を蠢かせる触手に感情などはなく、そこにはただ動きがあるだけ。穴があれば潜り込み、その身を滑らせるために潤滑液を出し、餌を見つけて捕食する。この触手の、おそらくは単なる習性。

「っふぁ！　はぁ！　はぁ……！」

　それが魔法により淫らに再構築され、恐ろしい淫具となり私を責め立てているのだ。
　弱った心を飲み込もうとするように。空いてしまった心の隙間さえも快楽で埋めるように。

「御加減はいかが？」
「……ぁ」

　そして、虚無感を消し去ってくれるもう一つの存在。

　レストリア。

　彼女が姿を見せた瞬間、私の心臓がドクンと跳ねた。

「は、ふぅ……！　ふぅう……！」

　彼女の存在が、日に日に大きくなっていく。何もない無機質な時間のなかで、唯一色を与えてくれる。涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃな私と違い、貴婦人の余裕と優しげな笑みをたたえて。
　何もしなくても油断すれば達してしまいそうになる私は、ただ荒い呼吸を繰り返しながら、辛うじて彼女に一瞥をくれた。

「そろそろ溜まっているでしょうし、スッキリさせてあげますわ」

　彼女が、ここに来た理由を告げた。心のなかで、期待と恐怖が入り交じる。
　何も言わない私に構わず、彼女は早速、術式を展開させた。命を受けた触手は、一度ブルルと震えた後、それぞれ形を変形させる。

「あ……あ……」
「まずはお小水から」

　そして、彼女の言葉と共に、触手たちは一斉に動き出す。

「ぃ、あー！　ひぁっ!?　ぅあ、あーっ！！」

　それはもう爆発と言ってもいい。それまででも十分、私を絶頂へ押し上げる強さで嬲っていたのに。これはその比じゃない。まだまだこんなものじゃないぞ、と、見せつけるかのように暴れ。敏感になった股間をこれでもかと責め立てる。
　瞬く間に私の意識を白く飛ばす。

「うああああ……！　あ、あ、あ、あああああっ！」

　それでも、意識はすぐに回復する。暴力的な刺激は私を休ませてはくれない。
　膀胱まで深く突き刺さった触手は、ポンプのようにおしっこを飲み込んでいく。それはまるで人間が喉を鳴らして飲むように。その身をボコボコと変形させながら。

「いぁっ!? 　おし、おしっ、こ！　でて、でてる……ううぅ！」

　短い間隔でいくつも生まれる「コブ」は、その度に尿道を内側から押し上げる。膀胱から尿道までギュウギュウに埋め尽くす触手。それによって奪われた排尿感。その代わりと言わんばかりに、リズミカルに膨らんだ無数のコブたちが、無抵抗な私に悶えるような痛気持ちよさと、偽物の排尿感を与える。

「ん、あっ！　あ！　あ！　い、く……ぅあああっ！」

　拘束され、身動きのとれない身体を必死で捩る。けれど、大きすぎる波は少しも逃がせられなくて。普段のそれと比べ物にならない快感が、淫液により敏感にされたことも手伝って、私に刻み込まれる。
　全身を硬直させて、イク。何度も、何度も。

「は……ひ、……ひぅっ!?　ひゅ……！」
「お小水は出し切りましたかしら。では大きい方も済ませてしまいますわ」
「っ!?　いやああっ！　うんちいやあああ！」

　そうしてようやくおしっこを出し切って。これで終わりだと思ったのに。
　彼女の言葉は、私をさらなる諦観の沼へ沈み込ませる。

「この方法しかありませんの。観念なさいな」
「やらっ！　やだあ！」
「聞き分けのない子ですわね……」
　
　半狂乱になる私を宥めるように、レストリアの手が頬を撫でる。それは火照りきった身体に、氷のようにひんやりと心地良い。だけどそんなことでは何の慰めにもならないと、もう理解している。

「ではいきますわ」
「いや！　止めてっ！　だめ……っ!?」

　私の拒絶なんかないように、召喚主の命を受けた触手が動き出す。

「う、ああああああっ!?」

　肛門からビッチリと嵌まり込んだそれは、淫具のように振動しながら腸の内部へ侵入。自在に太さを変えながら、直腸を昇りS状結腸を抜け、数日溜まった糞便を咀嚼していく。お腹の中で異物が蠢く不快感。腸を舐め上げられる嫌悪感。

「ふ、ぐううぅ!?　う……おえっ！」

　食べるものがなくなれば、そこで戻ってくればいいのに。さらなる獲物を求めて、触手は進み続ける。表皮から淫液を滲ませながら、大腸、小腸を抜け、やがて胃にまで侵入する。その後も勢いは止まらず、消化しかけのどろどろとしたものまで食らっていく。

「かはっ！　ん……お、ぼ……ぅえええ……！　」

　えづきが止まらない。絶え間ない吐き気と胃腸の膨張感。さらに擬似的な排泄欲求も続いたままで、耐えがたい苦痛が私を襲う。

「も……や……！　ぃや……！　いやあああ!?」

　けれど、そこには必ず快楽がセットになっている。別の触手たちによって、敏感にされた性器をめちゃくちゃにされて。強制的に与えられるそれは、それでも快感には違いなくて。苦悶と絶頂がない交ぜになって、神経回路が焼き切れそうになる。

「ごぷっ!?　お、え、あ！　あ！　あ！　か、ぁ……!?」

　そして食道にまで達した触手は、今まで悲鳴をあげていた口から飛び出す。粘液を滴らせながら、焦点の合わない私の視線の先でブルブルと震える。お尻から口まで貫通した触手は、これ以上餌がないと知るや、怒りか悲しみかその身を踊らせ、より一層の淫液を撒き散らす。
　串刺しにされた私はただそれを受け止めるしかない。通り道全てに淫液を塗り込まれ、身体の内側から汚染された私に、その刺激による快感を拒絶する術はない。
　こんな酷い目に遭っているのに。身体は休むことなく絶頂を迎えてしまう。

「お……あ…………あ……ん、くっ！」

　ビク、ビク、と。身体が痙攣する。自らが一本の淫具となったかのような感覚。抱く感情が尽く諦観に変わる。
　生命活動に必要な排泄を管理され、被支配感が満ちる。身体の中まで蹂躙され、明け渡して。逆らうことなど無意味だと、教え込まれたようで。

「よく頑張りましたわね」

　そんな私を、彼女が労う。何の裏表もなく、ただ純粋に。
　それはきっと打算の言葉で、私を籠絡するための撒き餌だと分かっているのに。
　ぐちゃぐちゃの頭は、疲弊した心は、素直にそれを受け取ってしまう。

「よしよし。いい子ですわね」
「ぁ……」

　だって、それを拒むことなんて、出来ない。
　無味乾燥とした時間の中では、それが何よりも暖かくて。

「れ……す、と……」
「ええ。ここにいます」

　逃げなければいけない、遠ざけなければいけないはずなのに。
　今の私にはそれしか縋るものがなくて。

「そんな目をされたら……。ふふ。もう少しだけそばに居て差し上げますわ」

　いつしか心の中には、彼女が来ることを、彼女が優しく話しかけてくれることを、嬉しく思う気持ちさえ芽生え始めていた。