ポニープレイ『菫の章』後編

 1時間ぶりの訓練場は、はじめに来たときより気温と湿度が上がっているように感じられた。

「菫ちゃん、大丈夫?」

 その熱源の中心部、ポニーガールの菫ちゃんに近づき、声を掛ける。
 歩行器はすでに止まっていた。
 身体は歩行器のチェーンに支えられたハーネスに寄り掛かるようにして、ひゅーひゅーと荒い呼吸を繰り返している。
 ハミを噛んでるこの口じゃあ満足に息も吸えなさそう。床を見れば涎で円が描かれていた。

「あ……ふぅ……」

 疲れ切った声を漏らして、視線がゆっくりと私を捉える。でも焦点は合っていない。
 その間に千歳さんがハーネスの接続を外している。
 千歳さんに目で確認すると、頷いてくれた。

「歩行訓練終わったよ、菫ちゃうわっと!」
「あ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫です。ちょっとびっくりしただけ」

 すみませんと謝る千歳さんに、笑顔で返す。
 ハーネスからチェーンが外された瞬間、私にもたれかかるようにして倒れてきた身体を、ちっこい私の身体では支えきれなくて倒れこんでしまった。
 ま、半分予想してたからそんなに痛くはないけど。

 ……それより。

「よく頑張ったね。えらいね」

 1時間も電流におびえながら歩行訓練を頑張った、菫ちゃんを褒めるのが先だ。
 両手が使えないせいで顔からつっこんできたその身体を抱きしめ、頭をよしよしと撫でてあげる。
 するとだんだん意識が戻ってきたのか、私の顔をしっかりその目で捉えて。
 そして。

「ふあああああんっ!」

 あらら、泣いちゃった。
 普段の性格からすれば、泣き顔なんて滅多に見せないくせに。よっぽど辛かったのかな。

 私は菫ちゃんが泣きやむまで頭を撫でてあげた。

「うぅ……」

 しばらくすると落ち着いたのか、泣き声は聞こえなくなった。
 まだ鼻はスンスンいってるけど。

「ほら、落ち着いた? 千歳さんも、よく頑張ったねって。ご褒美あげてもいいよって、言ってくれたよ?」

 力が入らないだろうから、顔を支えてあげる。
 まだ腫れぼったい顔をしてるけど、今はそれより「ご褒美?」って顔してる。

「そう、ご褒美。頑張ったら、もらえるんだよ。悪い子にしてたら電流だけどね」
「うぅっ!?」

 この1時間でどれだけ電流を食らったのだろう。
 電流と聞くだけでビクンと震えるその姿は、嗜虐心を刺激してとても可愛い。

「だから、悪い子になっちゃだめだよ? いい子になったらご褒美もらえるんだから。ほら、行くよ」

 そして私は千歳さんから預かったローターのスイッチをオンにする。

「ふああああっ!」

 今まで体験してきたことは、菫ちゃんにとってかなりツボなはず。
 だけど、これまで直接的な性快楽は与えられてない。
 だから、すごくもどかしかったと思う。

 それがここにきて膣内のローター、しかも全開。
 窮屈な身体、疲れて動けない身体、逃げるところのないそこに、遠慮なく突き刺さった刺激は、ぶっ飛んじゃう位の気持ちよさだったと思うな。

「ああっ!? あああああああっっ!」

 うわ、こんなに身体強張っちゃって。
 今、イってるのかな?
 ふふ、ぎゅーって抱きしめちゃお。
 身動きとれない身体の中で、快感が暴れまわるんだよね。

「ほら、『碧様ご褒美ありがとうございます』って、言ってごらん」
「あふっ、ふえっ?」

 あんまり可愛いから、ちょっと悪ノリ。

「『碧様ご褒美ありがとうございます』だよ?」
「ひ、ひほりはま、ごほうひはひがほうごはいまふ」
「もう一回」
「ひほりはま、ごほうひ、はひがほうごはいまふっ」
「もう一回」
「ひほりはま、ごほうひ、はひがほうごは、いまふ……!」
「もう一回」
「ひほりはま、ごほうひ、はひがほうごはいまふーっ!」
「どういたしまして。ほら、頭の中でも繰り返して。そしたらもう一回イかせてあげる」
「あふっあひぃいいっふぎゅううううっ!」

 うふふ。ビクンビクン跳ねる菫ちゃんかーわいいっ!
 ご褒美、気にいってくれたかな?
 どうやったらご褒美もらえるか、分かってくれたかな?

「うあ、あっ、あああああっっ!」

 ズタボロになった菫ちゃんを、千歳さんがストップを掛けるまで可愛がった。役得役得っ。

▼

 今度は外に出てきた私たち。
 さっき着替えてるときに訓練していた黒ポニーさんはもういなかった。
 広い庭を貸し切り。贅沢だ~。

「ここが馬小屋になります」

 訓練の時と同じ恰好のまま、フラフラになった菫ちゃんとともに連れてこられたのは、簡素な馬小屋。
 いわゆる競走馬とかが入っているような立派な小屋じゃなくて、本当に屋根があって柵があって藁が敷かれていて、それだけの小屋。

「スミレ。訓練で疲れたでしょう。少しだけ休憩よ。ここで横になりなさい。しばらくしたら呼ぶわ」

 なるほど。タダでは休ませないってことね。
 馬が寝るような場所でしか休ませてもらえない。自分が馬と同じ家畜なんだという意識付けのようなものだ。

「うぅ……ふぅ……」

 それでも、疲れのほうが勝ってるはずだよね。
 菫ちゃんは何も言わず、脚をガクガクさせながらゆっくりと藁の上に横たわった。
 私も柱にもたれながら、ぼんやり空を見て過ごす。

 しばらくして、席を外していた千歳さんが戻ってきて、菫ちゃんを起こす。
 あ、千歳さん乗馬服だ。か、カッコいい……。手にした鞭も二重の意味で似合ってる。

「ほら、休憩は終わりよ。起きなさい」

 ゆっくりむっくりと菫ちゃんが起き上がる。
 正直疲れも取れ切ってはいないだろうな。せいぜい15分くらいだったし。

「ハーネスを変えてあげるわ。さっきまでは機械の一部になるためにスティールだったけど、今度はポニーとして頑張ってもらわないとね」

 そう言って千歳さんは今付けているハーネスの鍵を外し、身体から取り外していく。
 菫ちゃんが「ほぅ」と息をつくのがわかる。
 ずっと姿勢を矯正されてたし、締め付けからの解放感はあるんだろう。

 けどそれもほんのひとときの間。
 次にレザーベルトのハーネスを取り出すと、さっきと同じように、しかし確実にさっきよりきつく絞り出すように、腰と胸に巻きつける。
 黒い革が菫ちゃんのラバーの肌に食い込みながら分割して、女性の象徴を誇示するかのように強調する。

「は……ふ……」

 ついでに両腕をそれまでの手錠からアームザックへと変更。
 肩を限界まで後ろへ入れて、合わせた手から二の腕までを革袋で包む。編み紐を縛り、肩から脇の下にかけてベルトを通し、抜けないように固定する。再び編み紐をきつく縛りなおし、緩みを潰して。駄目押しにベルトをいくつも締めて、腕が一本になっちゃうくらい極限まで細く、後ろへ拘束する。
 どう見ても逃れようの無いその革袋は、見た目からしてこれまでより強く絶望感を煽る。
 肩から先が無くなったかのような、厳しい拘束。自然と胸は前に張り出され、ポニーガールとして美しい姿勢となった。

「さきほどまではスティール製で姿勢を矯正していましたが、レザーに変えましたし、腕枷もきつめにしました」

 さらっと言う千歳さんの手は淀みなく動き、菫ちゃんの息はどんどん荒くなる。
 おまけに、両足首に足枷が付けられ、互いをチェーンで繋がれる。

「脚上げてみて」
「ふぁい」

 右脚を上げる菫ちゃん。ジャラジャラっとチェーンが鳴る。
 脚を上げるのには支障ないようだ。大股で走るのは厳しそうだけど。

「まぁ、これは気分の問題です」

 実用性より見た目と言ったところかな。
 それから手にしたのは、……あ、尻尾だ。
 だらりと長い尻尾を持って、千歳さんが菫ちゃんの股下に手をやる。

「はうっ」

 ジジジ……と、股下にあるファスナーが背中側へ引かれる。

「両開きなんですよ、これ」

 そう言う千歳さんの手元に視線をくぎ付けにされた。
 そこから、ぱたたっ、と芝に水が滴る音がした後、つつー、と粘り気のある蜜が糸を引いた。
 言うまでもなく、菫ちゃんが気持ち良くなった証だ。

「あらら、随分気に入ってくれてるみたいね」
「ふうううっ!?」
「気持ちいいんだね、菫ちゃん」
「ひやっ! ひやっ!」

 目をつぶって頭を横に振る菫ちゃん。
 こんな青空の下、自分が性的快感を感じている証を他人に見られて、恥ずかしくないわけない。
 でも。

「悪いことじゃないよ」
「ふえっ!?」

 菫ちゃんの前に回り込んで、頭をよしよしと撫でてやる。

「気持ち良くなるのは悪いことじゃないよ」
「ふぐ……」
「お優しいですね。……では尻尾も付けてしまいます」

 特に皮肉というわけじゃなく、純粋に羨ましそうに私に声を掛ける千歳さん。

「そのまま支えていてもらえますか? スミレ、脚を開いて、できる限り前屈みになりなさい」

 指示が出る。
 菫ちゃんは言われるがまま、締め付けで「くふっ」と息を漏らしながらも、肩幅に脚を開いて上半身を倒してきたので、私もそれを支えた。

「一応確認しますが、こちらの経験は?」
「ひゃっ!?」

 ゴム手袋をはめ、ローションを垂らした指で菫ちゃんのお尻の穴を指でなぞる。

「むしろ大好きすぎて自分でもフィス」
「ふーーっ!」
「トは冗談だけど、結構弄ってるから5cmくらいなら大丈夫のはず」
「了解しました」

 潤んだ瞳のままものすごい勢いで睨まれたので慌てて方向修正。
 千歳さんがどう捉えたのか分からないけど、最初に会った時のような笑みを見せながらお尻の穴をほぐしていた。

 そして手にした尻尾の先、アナルパールにローションをまぶして、ニュプ、ニュプとひとつずつそれを腸内へと押し込めていく。

「おふっ……!? ひゅ……んっ……!」

 支えている菫ちゃんの肩が震える。
 恥ずかしさと気持ちよさ、どっちが勝っているかな。
 さっきまでと違って、視界に入るのは外の景色。よく晴れた青い空に芝生の緑。微かに感じる風。間違いなく外にいる。敷地内とはいえ、外で性器を晒しているんだよね。
 でも菫ちゃんもずっとスイッチ入りっぱなしだから……。

「入ったわ。可愛いわよ、スミレ」
「よかったね、菫ちゃん」

 ポン、とお尻を叩かれたのを合図に、菫ちゃんが身体を起こす。
 ……うわ、すごい。顔真っ赤だよ。

「尻尾をつけましたし、そこは開けたままにしておきましょう」
「ふへ? えええええっ!?」

 てっきり今だけの辱めだと思っていたのか、菫ちゃんが思わず悲鳴を漏らす。
 ラバーとはいえ全身覆われてる中で、性器だけ丸出し。こんな格好している時点で今更だけど、さらに分かりやすい『露出プレイ』に私も心臓が躍る。
 にしても菫ちゃん……エッチなお汁垂らしてたら、悲鳴の説得力ないよ。
 最後に拘束具をそれぞれ錠でロックして、さらに熱い吐息を誘った。

「それじゃ、次は指示訓練よ。馬車牽きポニーに、自分で考える頭は要らない。要るのは、御者の命令に忠実に応える反応だけ」

 意志の伝達は常に一方通行。支配者からの命令に、家畜はただ従うのみ。
 そこに甘えも許しも妥協も懇願もない。あるのは、絶対的な支配と、気まぐれに与えられるご褒美のみ。
 だけど、その気まぐれをただ一つの寄り辺として、それを励みに死力を尽くす哀れで愛おしい存在。

「菫ちゃん……」

 千歳さんは手綱をハーネスの上部に取り付け、これから菫ちゃんが牽くことになる、馬車から伸びた2本の牽き棒を腰の少し上あたりで固定する。

「スミレ。これからひとつずつ説明するから、一度で憶えるのよ」
「ふぁひっ」

 菫ちゃんが返事するのを見て、ふと思う。

「そういやポニーってなんて鳴くんだろう」
「ポニーですか? んー……、『キーブフゥ』って感じです」
「それあんまり可愛くないね。馬……も言ってみれば『ヒヒン』とかになるのか。ワンとかニャーはともかく、それはちょっと笑っちゃいそう」
「可愛いというより勇ましくなりますしね。大きな身体の動物は」
「ですよね」

 せっかくだし鳴き声を、と思ったけど、それはまた今度でいいや。

「では。スミレ、いくわよ」

 今度子猫プレイでもしようと物思いに耽る私に笑みをひとつ、千歳さんが馬車に乗り込み、手綱を握って菫ちゃんに声を掛ける。

「まず、前進」

 そう言って、ピシャン、と。
 千歳さんが、たわんだ手綱を波打たせた。

「ほら、進みなさい」
「ふ、ふぁひ……!」

 両方の肩甲骨あたりに手綱が当たり、それを合図に菫ちゃんが歩行を開始する。
 歩き方は、さっき散々練習したフォーム。
 初動こそ馬車の重みから2,3歩足踏みしたけど、車輪が回りだしてゆっくり私から離れていく。

 うわわ、本当に馬車牽いてる……!
 さっき窓から見たアレだ。
 動力、家畜、部品、いろんな言葉が頭の中を巡る。

「右に旋回」

 右側の手綱が引かれる。菫ちゃんが右を向いて歩こうとする

「こら」

 ピシャン、とさっきよりも鋭い音。
 あ、鞭だよね、あれ。

「そんなに急に方向転換しちゃだめ。馬車を牽いているのよ。それを忘れないように」

 千歳さんの言葉を噛み砕くように考え込んだ菫ちゃんだったけど、言わんとするところは分かったみたい。
 頷いた菫ちゃんにまた手綱が波打ち、馬車が前進を開始する。

「次は左に旋回」

 左側が引っ張られる。今度はすぐに左を向かず、回り込むように馬車の方向転換をした。

「トロットよ。出来る範囲で構わないから、早足」

 さっきまでの手綱じゃなく、鞭をお尻に入れて指示が出される。
 短く「ひゃっ」と聞こえた気がしたけど、逆らうことなくスピードを上げる。

「初めてとは思えないわね。さすがにスポーツしてるだけあるのかしら。……キャンター。駆け足よ」

 パシンパシンと鞭が2発入る。
 それに応える菫ちゃん。鈍い動きながら必死で駆け足してる。
 その姿はなんとなくタイヤ牽きしてる菫ちゃんとダブった。

「ストップ」

 手綱がブレーキを掛けるように後ろに引かれる。菫ちゃんの脚がゆっくり止まる。
 あ、上手上手。車輪の惰性を考えたんだね。

「前進。頭に入った? あとは説明しないから、手綱の動きと鞭に全神経を尖らせるのよ」

 手綱が波打つ。菫ちゃんが反応して前進する。

「ふっ……はっ……!」

 ほら、あんなにハミを噛み締めて。
 両目の横に付けられたプレートで視界を遮られて。
 窮屈な身体で、不自由な姿勢で、一所懸命馬車を牽く菫ちゃん。

 いいなぁ、ずっとあのまま飼ってみたい。

▼

 その後しばらく馬車を牽く音と鞭の音だけが響く。
 最初に一度説明した後は、手綱と鞭だけのコミュニケーション。
 たまにお仕置きなのか、鋭い鞭の音が聞こえたけど、ほとんど指示通りに動けているようだった。
 右と命令されれば右、左と命令されれば左。
 自分の意思なんてそこには存在しない。ただ、御者の意のままに動き続ける。
 自分の身体、自分で動いているはずなのに、それは他人の意思で、他人が動かしている。

 どんな気持ちなんだろう。

「はっ……ひゅ……」

 そんなことを考えている間に、馬車が戻ってきた。
 私の近くで、手綱が引かれる。菫ちゃんの脚がゆっくり止まる。
 馬車が止まるのを確認して、千歳さんが降りる。
 そして菫ちゃんの前まで来て。

「上手だったわ。よく頑張ったわね」

 そういって額にキスして抱きしめた。

「ご褒美よ」
「ふひゅっ! ふひゅっ! んんん~~っ!」

 そしてご褒美。菫ちゃん、気持ち良さそう。
 ブシュ、ブシュ、と、開きっぱなしのアソコから愛液が噴き出した。

「傍目にはどうでした?」

 菫ちゃんがイったあと、ハミの隙間からスポーツドリンクを流し込みながら、千歳さんが私に視線を向けた。

「あ、いや、うん、……可愛かった」
「ふふ。実際すごく上手でした。もう少し鞭を入れるかと思っていたのですが。基礎体力が違いますね。飲み込みも早いですし」
「あはは……」

 乗馬服姿の千歳さんが言うと、本当に馬の調教をしているみたい。
 ……それに、愛情はあるけど、どこか事務的なところがあって、という印象もあって。
 もちろん私たちは『お客様』だから、その対応は当然なんだけど……。
 ただ。調教に必要だから、と言わんばかりに事務的にイかされる菫ちゃんを見て。それを悦ぶ菫ちゃんのアソコを見て。百貨店のお姉さんのように微笑みながら説明してくれる千歳さんを見て。
 やっぱり千歳さんって、二重の意味で、『慣れて』るんだなぁと思った。

▼

「今度は碧さんも、どうですか?」
「あ、いい? お願いします」
「指示の出し方は分かりますか?」
「さっき見てたんで大丈夫です」

 千歳さんから鞭を借りて、菫ちゃんの前に立つ。

「今度は私が乗るからね」
「ふ、ふぅ……」

 ドキッとした。
 だって、菫ちゃんの私を見る目、完全に自分を他人に預ける目だったから。

 これを、自分の好きにできるんだ……。

 そう思ったら、いてもたってもいられず、私はそわそわしながら馬車に乗り込んだ。
 そして千歳さんの手綱さばきを思い出す。それをきつく握る。汗ばむのは……仕方ない。

 進めは……一回だったかな。

「菫ちゃん」

 ピシャン、と手綱がたわんで菫ちゃんに指示を送る。

「ふぁ……ひ」

 すると菫ちゃんは、妙に艶っぽい声で、鳴いて。
 トス、トス。ギシ、ギシ、と。動き出した。

「……っ」

 ほ、本当に動いてる……。馬車、牽いてる……。
 菫ちゃんに、牽かせてる……。

 手綱の動きに、菫ちゃんが反応する。馬車がその通りに動き出す。
 身体を貫く感動に感情が昂ぶる。

「~~~っ!」

 やばい……これ、やばいよ……。
 もっと、もっと。この感覚を味わいたい。
 菫ちゃんを、馬車をあちこちへと走りまわらせたい……!

 右。左。駆け足。停止。私は次々と指示を出す。おっかなびっくりだった手つきは、すぐに慣れて強気になる。
 そうして私が指示を出すたび、菫ちゃんはきちんと言うことを聞く。従順に。盲目に。

 ……すごい、すごいよ、菫ちゃん。
 本当に、ポニーガールに、家畜になっちゃってる。

 私がいちいち感動している間も、馬車の速度は落ちない。慣れてきたのか、ブーツの蹄はしっかりと芝生を捉えて。訓練したとおりの歩行姿勢は力強い。ちゃんと馬車を牽くことができている。

「はっ……ふ……! は……ん、く……っ」

 でも、逆に言えば。
 今の菫ちゃんは、馬車を牽くこと『しか』できないんだよね……。

 私の目の前には、微かに上下するアームザックがあって。窮屈そうな腕が自由になることなんてない。ハーネスに接続された馬車との連結棒も、菫ちゃんをここから逃すことなんてない。視界を制限され、言葉を奪われ、淫具によって性欲をジリジリと弄ばれながら、無条件で御者の命令に服従するしかないんだ。
 力強い精一杯を、ただ他人に捧げ続けるだけ……。

「あ、はっ」

 私は、笑った。
 これ、いい……。

 今、この瞬間。
 私は、間違いなく菫ちゃんを『使役』しているんだ。

 遠慮なんて途中でどこかに吹き飛んだ。見よう見まねの手綱さばきでもって、存分に菫ちゃんを使役する。操って、享受する。
 家畜だ。自分のためだけの。今の菫ちゃんは、私のためだけの家畜……!

 ヒトを、愛おしい人を、家畜として使役する背徳感に、私は酔いしれる。

「ほら、頑張って」
「はひっ……ひっ……」

 聞こえるのは、悲鳴のような、荒い息遣い。だけど、どこか陶酔したような、熱い吐息。
 感覚が近いからこそ分かる、その意味。

「ああ……」

 たまらない。たまらない。たまらない!
 菫ちゃんの感情が、私に流れ込んでくるよう。
 頭の中はぐるぐるのぐちゃぐちゃで、もう何も考えられなくなって。でも手綱の指示に従うことだけは刻印のように残っていて。それだけを考えるようになって。
 上手に出来たらご褒美って、そんなことがチラついて。上手にやろうって、震えて。褒めてもらえることを想像してやる気になって。その瞬間を待ちわびて。
 そうやって、家畜として役に立てることが嬉しくなるんだ。
 こんなに惨めなのに。滑稽なのに。褒めてもらえるなら、喜んで……!

「あ、ぅ! んんん~~~っ!」

 あ……はっ! ちょっとイっちゃった。菫ちゃんが牽く馬車の上で一人。
 でも、仕方ないよね。いつも仲良しな女の子を、家畜として使役しているんだよ?

 こんな……。
 こんな……ゾクゾクすること、ないよね?

「うふふ」

 やがて馬車は元の場所へと戻っていく。
 あーあ、もう終わりだ。寂しい。もったいない。惜しむ感情が湯水のように溢れる。
 だけど、菫ちゃんの体力もあるからね。無理は禁物。
 千歳さんのいる場所に戻った馬車は、静かに停止した。

「よ……こいしょ」
「手をどうぞ」
「あ、すみません」

 千歳さんの手を借りて馬車から降りる。
 千歳さんは気付いているかな。……多分気付いてるんだろうな。私が足を震わせながら降りた理由。

「さ、ご褒美をあげてください」
「ん。もちろん」

 淑女な千歳さんに感謝しながら、菫ちゃんの目の前に移動する。
 近づくにつれて聞こえてくる荒い吐息。アームザックとハーネスによって姿勢を崩すこともできず、ただポニーガールとして在るべき姿勢のまま息を整え、次の指示を待っていた。

「菫ちゃん」
「はふ……はふ……ひ……ひほ……ひ……」

 ああ……ダメだ。ごめんね、菫ちゃん。
 涎に塗れた口元。上気した頬。涙を流す目元。……全てを受け入れ、差し出した、瞳。
 私、これから、きっと何回も何回も、今の菫ちゃんのその顔を思い出して、オナニーしちゃうよ。

「よしよし。よく頑張ったね」
「……っ! あ、あ……う……はひ……っ。ひぐ……!」

 馬車との接続を外して、抱きしめる。
 頭を撫でて、ぎゅっとして。菫ちゃんは、盛大に崩れた。足腰立たなくなった身体も。ギリギリ堪えていた顔も。

「ん……」

 膝枕のような状態で、その頭を撫でる。菫ちゃんは甘えるように私の太ももへと顔を擦り付ける。普段のツンケンとした外面なんてない、剥き出しの菫ちゃん。
 ……私が本当に欲しい菫ちゃん。

「ほら、頑張ったご褒美、あげるからね。……さっきみたいに。覚えてる?」
「ふぁ……は、ひゅ……」
「じゃ、いくよ」

 そんな菫ちゃんに、快感を叩き込む。膣内に押し込められたローターに、お尻に刺さったアナルプラグ。暴力的なほど強い刺激を、それでも菫ちゃんの身体は拘束具によって暴れることなく受け入れる。

「ひ! ひ、ぅ……! ひぐっ、ひぐううううっ!」

 頭の中、ちゃんと私でいっぱいかなぁ。
 のた打ち回るくらいの快感に、きつく締め上げられた拘束の中で濃縮された快楽に、溺れながら。
 それでも喜んで。悦んで。ありがとうございますって。嬉しいですって。私に感謝と、依存と、服従を、覚えてくれたらいいなぁ。そうなった菫ちゃんも、可愛いだろうなぁ。
 そんな私に頭を撫でられながら。ごぽりごぽりと粘液を吐き出し、菫ちゃんはいつまでも鳴いていた。

▼

「疲れた?」
「ん……」

 何回も何回も絶頂を迎え、疲弊した菫ちゃんは、残りの時間を馬小屋の藁の上で寝そべって過ごしていた。
 私も傍に腰掛け、たまにぐずるように甘えてくる菫ちゃんをあやしていた。

 あー可愛いなぁ。普段しっかり者の頑固者って感じだから、このギャップにいつもやられちゃうんだよねぇ。
 今日は結構深くトリップしてたみたいだから、元に戻るまでもうしばらくかかりそう。

 ちなみに拘束はまだそのまま。菫ちゃんにとっては不自由な状態のままだけど、それでもいくらか馴染んだようで、時折ラバーの擦れる音と共に「んっ……」て声が漏れてくる。思い出したかのように身体がピクンって跳ねる。その度、顔を隠すようにして震えて。……もしかして気に入っちゃった?

 千歳さんは「片付けてきます」と言ってどこかへ行った。まぁ順番もあるだろうし、後処理もしなくちゃだから、いろいろやることあるんだろうね。

 ……と、そんなこと考えていたら、スーツ姿に戻った千歳さんが帰ってきた。

「お待たせしました」
「いえー」
「そろそろ3時間経ちますね。今回の体験はいかがでしたでしょうか?」
「勉強になりました。菫ちゃんも可愛かったし。ぜひ他のコースも受けてみたいなぁ。ね、菫ちゃん?」
「ん……ん」

 何とも言えない顔で視線をそらす菫ちゃん。
 もう一度「ね?」と言ったら、ボスッ、とちょっと強めに顔をうずめてきた。
 はいはい、恥ずかしいんだね~。そんな照れ隠しも可愛いけど、ハミが太ももに当たって痛いからほどほどでお願いします。

「それはよかったです。またいつでもお待ちしていますよ」
「はい。あー、あっという間だったなぁ」

 名残惜しい。そんな気持ちで菫ちゃんの頬を撫でる。菫ちゃんも、少し回復してきたとはいえ、まだ余韻に身を任せているみたいだし。
 まるで閉園間近のテーマパークにいるような、そんな離れがたい気持ち。
 すると千歳さんは少し考える素振りを見せて。やがて微笑みながら口を開いて。

「実は当施設、特別コースなどもございまして……」

 それまで感じていた余韻は、良い意味で吹き飛ばされて。

「……マジで?」
「……ふぁっ!?」
「これは一般のお客様にはご案内していない内容なんですが」

 その魅惑の響きに私たちは同時に反応した。

「今回は時間も限られていましたから、あくまで馬車牽き体験まででしたが……。時間、いえ、期間が長ければ長いほど、いろいろとお楽しみいただけますよ」
「た、例えば……?」
「お客様のご希望によって違いはありますが、同じ馬車牽きでも街中まで出ていかれたり、本物の馬小屋に放り込んで本物の家畜として調教したり」
「ごくり……」

 思わず生唾を飲み込んでしまった。

 まだまだ入口なんだ……。
 もっと、先があるんだ……。

 その思いは一緒だったんだろう。菫ちゃんのほうを向くと、菫ちゃんも潤んだ瞳でこっちを見ていた。

「ま、まぁ、何日も家を空けられる生活してないし、今すぐ長期間っていうのは難しい話なんだけど……」

 ちらりと覗き見た千歳さんの顔は変わらず笑顔で。何もかもお見通しですよ、と言われているようだった。

「せっかくだし……。あと1日くらいならいっか? 菫ちゃん」

 ぎこちない笑顔で菫ちゃんの目を見つめる。
 菫ちゃんは今日何度目かの真っ赤な顔で、視線を落として。

「……ん」

 コクン、と静かに頭を縦に振った。

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