俺の名は 清心 快(せいしん かい)。心理カウンセラーなんて曖昧な仕事をやっている。 歳は……まぁそこそこいいおっさんだ。中肉中背。これといった特技や趣味もなく、人付き合いも良くはない。面倒なことをひたすら避けて生きてきたら、随分とつまらない人間ができあがってしまった。 「ん……」 そのくせ訳知り顔で人生を俯瞰に見るどうしようもない野郎だ。もし、もう一人の自分と出会う機会があれば、説教の一つでもくれてやりたいと思う。 そんな俺が、他人様の人生と向き合うような仕事に就いているのだ。全く、世の中どうなるか分かったものじゃない。 数少ない幸運を使い倒し、スクールカウンセラーとして地元の学園に潜り込んだのが十年前。そこでこつこつと実績を積み上げていたが、去年の春に一念発起し独立開業した。 それがここ『清心クリニック』だ。 「ぁ……は、ふ……」 正直、儲けは少ない。昔の貯蓄を切り崩しながら、学園時代からの顔なじみの仕事の悩みや、近所の主婦のカウンセリングなどを細々とやっている。最近ではメールカウンセリングやメルマガを発行したりしているが、まだまだ収入の柱とするには頼りない。 独身で、欲が無いから何とか食っていけている状態だ。 「う、んぁ……ちゅ……」 仕事があるだけマシ、なんて言葉は大嫌いだが、他に選べるほど有能なわけでもない。貯金とコネをはたいて建てた城だから、どうせ逃げるなんていう選択肢は無い。もとより逃げるつもりもないが、それなりに不退転の決意ではあった。 「ふぅ……」 とはいえ、一部の厳しい現実に目を瞑れば、勤め人よりは気楽なものだ。人目を気にすることなく、ぼーっとコーヒー片手に黄昏れていられる。 きっとこれも儲けの内だろう。その間の収入はゼロなわけだが……問題ない。いうなれば俺は時間を金で買っているのだ。 「……さて」 世知辛い現実から目を逸らすのも上手くなった。 代わりに俺は午後からの予約リストを手に取り、目を通し始める。 「……って、集中できないだろ」 「んふぅ……?」 だが、いつまでも放っておくには刺激が強すぎた。 下半身に感じる温かい感触に、俺はため息をついて書類を机に放る。 「なんへ?」 「何でって……そりゃあ……」 俺のイチモツを咥えながらフガフガと喋る彼女。 少し前から感じていた違和感。というか快感。それを払い除けず甘受していた手前、俺は強く拒否もできず言葉尻を萎ませた。 「ひもひよくない?」 「いや、まぁ、気持ちはいいが……」 行為に至る動機を知っているだけに、止めろとも言い難い。それに、この上目遣いは卑怯だ。そんな目で見られたら、大抵の男は逆らえない。しかも本人は無自覚なんだから、なおさらたちが悪い。 「そういうことじゃなくてだな……」 弱まっていく威勢とは裏腹に、イチモツはどんどんと硬度を増していく。 仕方ないだろう。可愛い女の子が、机の下に潜り込んで、俺の股の間で跪いてフェラチオをしているのだから。 「ボク、がんばるから」 「あー、がんばるとかじゃなくて」 「ふぅ……。……っ、あ、むうっ!」 「うおっ!?」 グダグダ言っている間に、急襲。息を整えてからのディープスロート。彼女の狭くて温かい口腔内にぐぷぐぷとイチモツが飲み込まれ、粘膜が絡みつく極楽に思わず腰が引けそうになる。 「く、ぁ……っ」 これがおかしな光景だということは自覚しているつもりだ。仕事場で、勤務中に、口奉仕を受けている。まるでAVやエロ漫画のようなシチュエーション。それを、一回りも歳が離れた女の子にしてもらうなんて。彼女でもなければお金が発生する行為だ。 だがこの子はあくまで自発的にやってくれている。そう考えると未だにリアリティがない。嘘みたいな幸福だが、下半身を襲う快楽の波はこれが現実だと教えてくれる。 「が……ほっ、は……んっ! んぅ……!」 サイズは平均よりも大きいと自負している。そんなイチモツが吸い込まれ消えていく。 口腔内で収まるはずはない。先端はゴリゴリと細い喉を抉り、幹はアゴが外れそうなほど彼女の小さな口を満たす。根本まで挿し込まれ息もできないはずだが、その状態で喉を鳴らし、舌を動かし、刺激を与えようとする。相手に少しでも快感を得て欲しいという健気な心遣いが感じられた。 「ぅ……くっ」 窓の外を見れば、普段と変わらない日常。いつも通りの昼下がりの中で、股間だけが超快楽に浸るという非日常感。理性と欲望がせめぎ合い、思考が混乱していく。 飛び込みの患者が来ないとも限らない。俺はなるべく平静を装おうとするが、実際は暴発しないように必死で、思わず唸り声を上げていた。 「ごぽ……っ。ぐ……がぽ……か……!」 次第に我慢が利かなくなる。快感に顔をしかめる俺に気付いたのか、彼女の奉仕が熱を帯び加速していく。 快感を積み上げていくような、じっとりと舐り上げる動き。そこから、昂ぶりを一気に頂点まで押し上げるピストン運動へと。粘液が擦れる水っぽい音は、ますます大きくなっていく。 セックスをしているのかと勘違いするような音、感触、快感。いや、もはやセックスと言ってもいい。彼女の口をヴァギナに見立てて、ひたすらイチモツを突き込む。気付けば彼女が飲み込むタイミングに合わせて腰を突き出していた。 「がはっ! お、ぶ、えほっ……! おえ……っ!」 もはや動きを止められない。デリケートな部分であるはずのそこを、欲望のままに蹂躙する支配感。彼女のえづきが目に見えて増える。だが、もはやそれすら興奮のスパイスでしかない。吐き出される粘り気の高いえづき汁すらローション代わりに、蜜壺と化したそこへ突っ込むことしか考えられなくなる。 「……っ! はぁ……! んごっ、……ごふ!」 辛いはずだ。目が合った彼女の顔はもうぐちゃぐちゃになっている。涙を流し、鼻水を垂らし、口元は涎とえづき汁と先走り汁にまみれ、見るに耐えないほどベトベトに汚れてしまっている。 それでも彼女は動きを止めない。より深く、より奥に迎え入れようと、その顔が俺の下腹部に密着するほどに飲み込んでくる。その姿がとても愛おしく、狂おしく、もっと汚したいと願ってしまう。 もっと壊したい。もっと穢したい。誰でもない、俺の手で。もっと! 「げほっ! ごほ、が……! せ、……せん、せ……っ!」 「はぁ……はぁ……な、なんだ……」 そうして、いよいよ我慢も限界に近づいてきた頃。彼女は色んな粘液でドロドロになったイチモツを捧げ持ち、俺の顔を覗き込んだ。 応答したものの、彼女からの返事はない。その代わり、涙まみれで赤くなった目を細めて、「いいよ」と言わんばかりに微笑んだ。 「……。これで、最後だ……っ!」 彼女の献身を理解する。 俺はその小さな頭を両手で掴む。 彼女は軽く息を整え、口と喉を開いた。 「が、ぽ……っ!?」 それを見計らい、思い切り腰を突き出す。同時に、腕の力でグッと頭を引き寄せた。 びたりと音を立て、下腹部に密着する頭。完全にイチモツが消える。今までで一番深くまで抉りこんだその先端から、痺れるような快感がぞわぞわと全身を包んだ。 「~~~っ!」 そして暴力的な悦楽。腰がとろけてしまうほどの充足。声を必死に噛み殺しながら、脳を満たす多幸感にじっくりと浸る。 可愛らしい口を、顔を、頭を、蹂躙する背徳感。震える鼻息。手や足に感じる、本能的な拒絶反応に抵抗する筋肉の硬直。呼吸を封じられ、えづきが止まらないのに、その咽頭反射すらも奉仕の手段として使う。そんな彼女の健気さを五感で受け止める。 全てを相手の快楽のために捧げ尽くす盲従の姿勢。俺は我慢する余裕を奪われ、ついに頂へと登り詰めてしまった。 「く、あっ!」 「んっ、むぅ! ん、んんっ!」 溜まりに溜まった快感を爆発させる。尿道を削るような粘度の精液が、びゅるびゅると音がしそうなほど大量に吹き出し、彼女の喉どころか食道までを叩き続ける。 その間も手は離さない。あまつさえ、さらにグリグリと押し付けるように引き寄せる。 今彼女の口はオナホールと同義だった。相手のことなど微塵も考慮せず、ただただ精液を吐き出し、欲望を満たすためだけに利用する。その圧倒的な愉悦といったらなかった。 「くはっ……はぁ……はぁ……」 「が、ごほっ! えほ……っ!」 解放感。達成感。絶頂してなお治まらない興奮。 ようやく彼女の喉を解放した時、奥まで入れてから一分以上経過していることに気付いた。 「だ、大丈夫か……?」 「ひゅー、は……ふぅ……げほっ!」 慌てて彼女に寄り添う。力なく座り込んだ彼女は焦点の合わない目で、荒い息を繰り返していた。 しまった、やり過ぎてしまった。俺が快楽に身を震わせている間、彼女はずっと酸欠状態だったのだ。頭の片隅に罪悪感が芽生える。 だが、後悔するのは後にしなければ。ひとまず彼女を休ませるため、ベッドへ連れて行くことにした。 「ん……おそう、じ……あむ」 「あ、おい……」 だが、差し出した手をやんわりと退けられる。そして静止も聞かず、剥き出しのイチモツを再び咥え始めた。 今度は射精を促す激しいものではない。心地良い倦怠感を昇華してくれる、優しい愛撫。 「は……じゅるっ……ずぞ……ぞぞ……」 「くっ……」 敏感なそこを耐えられる限界の刺激で舐め上げ、付着した粘液を吸い取っていく。意識も朦朧としているはずだが、身体が覚えているのか動作に淀みはない。強すぎず弱すぎない絶妙な快感に思わず声が漏れる。疲弊してもなお奉仕を続ける彼女のお掃除フェラは、タガが外れそうなほど幸福だった。 「ふぁい……おひ、まい……ん、ごくっ」 「あ、ああ、ありがとう」 イチモツを綺麗に舐めとった彼女は、その残滓を全て胃に収め、未だ汚れたままの顔でにへらと笑った。 彼女の気力に圧倒されながらも、俺は感謝の言葉をかける。元を正せば彼女は仕事の邪魔をしに来たわけだが、してもらったことには素直に感謝しかない。実際、とてつもなく気持ちよかった。 「ぅあ……ひ、ぐ……っ! ん! あ、あ、あ!」 そうして頭を撫でたところで、彼女が身体を震わせた。脱力していた目や手をキュッと閉じ、全身を硬直させ、ビク、ビクと数度跳ねる。そしてシャアアと勢いのある水音が聞こえたかと思うと、床についていた膝が生暖かくなるのを感じた。 「はふ……ふぅ……ふぅ……っ」 「イッたのか」 「ん……、はぁ……。う、ん……イッちゃった……」 特に彼女に対して性的刺激を与えた記憶はない。彼女自身が一人でシていた形跡もない。ただ、イッたのだ。俺に喉を抉られ、性の捌け口として使われただけで。 「とんだ変態だな……」 「ひど……い! ボクをこんなにした、の、せんせ……じゃんか……!」 「そうだったか」 「そう、だよ……はぁ」 それに加えて、俺に奉仕する恍惚感と、行為を褒められたことに対する幸福感。それらが合わさって、嬉ションしながら絶頂してしまう彼女。 そんな卑猥で惨めで愛おしい彼女は、俺が『創った』。元々素質があったとはいえ、導いたのは俺だ。後悔はないが、多少の申し訳無さは感じてしまう。 「むずかしいこと、考えてる……?」 「いや……」 「まぁ、いいけど。……ふぅ。それより、気持ちよかった?」 「ああ、そりゃあな」 「そっか」 少し俯いた俺の顔を、湿った手が触れる。俺は視線を上げた。 彼女は笑っている。それを素直に受け入れていいものか。未だに答えを出しあぐねていた。 そんな俺を見透かすように彼女は、「さぁて」と息を吐いた。 「ごめんね、先生。床びちょびちょになっちゃった」 「気にするな。後で拭けばいい」 「犬のように這いつくばって舐めて綺麗にしろ、って言わないの?」 「……。お前また俺のエロ本読んだだろ」 「先生って顔の割に趣味が鬼畜だよね」 「……さぁ、舐めて綺麗にしてもらおうか」 「先生って顔の通り優しいよねボク知ってるよ」 「調子のいいやつめ……」 力の入らない彼女の身体を抱っこして、風呂場へと急ぐ。 歳の割に小さな身体は、まるで娘でも抱いているかのようだ。なんて考えてしまうのは、俺が歳をとったからか。 「そういえば先生、午後からの患者さんなんだけど」 「午後は夕方に一人だけだろ?」 「うん。でもさっき電話で新しく予約が入ったよ。二時くらいにって」 「……今何時だ」 「えーと、……一時三十分過ぎ」 「何でもっと早く言わない!」 「だから言いに来たんだよ。でも先生が激しくするから」 「咥える前に言えばよかっただろう!」 「それはあれだよ、『だーれだ』みたいな」 「あのな……」 小鳥遊 久織(たかなし くおり)。 数カ月前に彼女が従業員としてうちに来てから、このクリニックは変わった。 一人でしていた仕事を分担できるというのもありがたいが、何よりその明るい性格に随分と助けられている。面倒なことに、自分が一人前の寂しがり屋だったことに気付かされた。 それに彼女は華がある。人当たりもいいから患者にも受けがいい。未だに自分のことをボクと呼ぶその子どもっぽさに反して、仕事もよくできる。とても優秀な子だ。 だから、なんだろう。彼女の人生を捻じ曲げてしまったのではないか。そんなことをいつも思う。怖くて直接聞いたことはないが、何か聞きたそうにしているのは伝わるようで、いつも「何でも言ってね」と気を遣ってくれる。 「従業員のお茶目を受け止めるのも仕事のうちだよ」 「従業員ならもうちょっと礼節を弁えるべきじゃないか」 「付き合い長いからね。先生とボク」 「そういう問題じゃないだろ」 「えへへ」 甘えてしまいたくなるのだ。出会った頃と変わらない、屈託のない笑顔を見せられると。 俺がまだ学園に勤めていた頃。制服を着た彼女が見せていた、あの笑顔を。
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