たとえ冥闇に沈もうとも【1】

 彼女はヒカゲ。孤児院から引き取り、私の屋敷で働いている。
 本来ならまだ学生である年齢だが、本人の希望もありメイドとしての仕事を任せている。

「ご主人様、こちらに」
「……耳かきはいい」
「あたしがやりたいんです。さ、こちらに」

 柔らかなショートヘアをふわりと揺らし、少し茶目っ気のある笑顔を浮かべるヒカゲ。
 ここに来て6年ほどになるが、彼女は本当によく笑うようになった。
「すごく嫌そうですね。あたしじゃご不満ですか?」
「そうじゃない。耳かき自体が、何というか、他人に命を預けているようで落ち着かないんだ」
「あはは、大げさだなぁ」

 茶化すような笑みも、言葉も、彼女にとてもよく似合っていて、嫌味じゃない。
 エプロンドレスに包まれた太ももに頭をのせ、彼女に見えないところで少しだけ口角を緩める。

「……でも、分かります」

 これは、いっそ親心と言ってもいいのかもしれない。
 彼女が本当のところでどう思っているかは知らないが、私は彼女をここに引き取ることができてよかったと思っている。

「だからこそ、あたしに任せてください。あたしは、絶対にご主人様を傷つけたりしませんから」

 彼女の本心は、どこにあるのだろう。
 ウソに慣れ、汚い感情に振り回されてきた彼女の心は、誰の手にも届かない場所へ隠れてしまった。
 私は、それを少しでも陽の当たる場所へ連れ出せているのだろうか。
 
「……絶対に」

 伺い見たその表情と声色は、さっきまでと全く同じだった。

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