ポニープレイ『菫の章』前編

 こんにちは~。最近ミックスナッツの食べ過ぎでカロリーが気になる碧(みどり)です。
 今日は菫(すみれ)ちゃんといっしょに、ポニーガールごっこをしに来ています。
 ちなみに、ポニーっていうのは、大人になった時に背の高さが147cm以下のお馬さんのことを指すらしいよ。
 菫ちゃん余裕でアウトだね~。ポニーガールっていうよりホースガール?

「じゃあ碧がやりなよ!」

 残念でした私149cmあるもんね。
 それにカヨワイ私に馬車が牽けると思う?

「こいつ……!」

 怒った顔もかぁいいよ菫ちゃんっ!
 まぁ将棋対決で20連敗しちゃったらしかたないよね。
 そんじゃさっそくレッツゴーゴー!

「う~っ! あそこで……1三玉?」
「2三金」
「へっ? ……あ~~っ!」

▼

「ではここにサインしてもらえますか」
「あ、はい……」

 スーツ姿のお姉さんから受け取った契約書にサインする菫ちゃん。
 ちなみに私はどんな内容か知っている。事前にその部分だけは打ち合わせしたからね。菫ちゃん抜きで。
 書面の内容は、いわゆる奴隷契約書ってやつ。一日限定だけどね。でも『命令には絶対服従』とか、その文字だけでちょっとキュンとしちゃう。
 ただその下に、『命令違反した際に生ずるいかなる損害にも責任を負いません』って書いてあるのがいかにも業務用って感じで、そこが本物(?)とは違うところかな。

 そんな、スカイダイビングの前に交わすような契約書でも、今の菫ちゃんを煽るのには十分。
 サインし終わって契約書を渡すその横顔は平静を保ってるけど、心臓がバックンバックン言ってるの、私には分かるよ。こういう『形』に弱いもんね。

「それじゃあ、行きましょうか」
「……はい、お願いします」

 スーツのお姉さんが立ちあがって、エントランスから廊下の奥へと私たちを導く。

 いよいよだ!
 う~、私まで緊張してきた!

「…………碧」
「ん? なに?」

 密かに身震いしていると、前を行くお姉さんには聞こえないくらいのか細い声で、菫ちゃんが私の名前を呟く。

「手……繋いでくれる?」

 あ~そんな心細そうな顔で見つめないでキュン死しちゃう!
 もう! よし来たばっちこい! 大丈夫、私は一緒にいるよ!
 その震える手をしっかり握りしめてあげる。

「いいよっ。愛しい愛しい泣き虫菫ちゃんのためだからね!」
「一言余計だっつーの!」
「じゃあもう繋がない」
「ひ、卑怯よあんた!」

 ほらほら、お姉さんだって待ってくれてるんだから、早く行こっ?
 私だって早く菫ちゃんのポニー姿見たいんだから!

「……他人事だと思って」

 だって他人事だしねぇ。

▼

 案内された部屋は、全面芝生と木々に囲まれた広い外庭が見渡せる、ホテルの一室みたいな部屋だった。
 すごーい! 結構いいお部屋!

「碧、はしゃがないの」
「でもベッドふかふかだよ~。これならすぐ寝ちゃいそう」
「あんたそうしてたら本気で寝ちゃうでしょ。降りなさい」
「ちぇー」

 クイーンサイズのベッドの上でバインバイン跳ねてたら窘められた。ちょっと横になるくらい、いいよねぇ?
 わざとらしくふくれっ面作ってたら、お姉さんがクスクス笑ってた。
 うわ、やっぱりちょっと恥ずかしいかも……。

「仲が良いんですね、お二人とも」
「ええまぁ。……腐れ縁ですし」
「恋人同士ですしねー」
「ちょっ!? 碧! ちが、違いますよっ!?」
「あはは」

 必死で弁明する菫ちゃん可愛い!
 でも、ウソは言ってないよ? 少なくとも私はね。

「うふふ。……さて、では、時間も限られてますし、さっそくプレイのほうに移りましょうか」
「あ……。は、はい」

 じゃれ合いがひと段落したところで、お姉さんが場を切り替える。
 促された菫ちゃんはベッドの上に座って、私は遠慮して入り口横の壁にもたれかかった。お姉さんは菫ちゃんの向かいの椅子に座った。
 菫ちゃん、さっきよりはマシだけど、まだちょっと顔引きつってるよ。

「まず、今日担当させていただくのは、わたくし、千歳といいます。よろしくお願いします」

 よろしくお願いします、と私たち。

「それでは、簡単にプレイ内容を確認しますね。指定されたテーマはポニープレイ。時間は3時間。今からですと夕方くらいまでですね。ミストレスはわたくし。細かな内容は一任。以上でよろしいですか?」
「は、はい。それで」
「なるべく鬼畜にお願いします」
「こら碧っ!」
「ふふっ。そんなこと言われると、お姉さん頑張っちゃいますよ?」
「ふ、普通で! 普通でお願いしますっ!」
「えーもったいなーい」
「あんたは黙ってなさい!」

 せっかくなんだから全開で堪能したらいいのにねぇ。
 ま、今度私がやってあげてもいいけど。ふへへ。

「では、えーっと、菫さん、ですね。せっかくお越しいただいて、雑談だけで時間が過ぎるのもなんですし、さっそく始めましょうか。準備はよろしいですか?」
「へぁっ!? は、はい……。あー、いいかと言われるとあんまりよくはない気もするけど」
「往生際悪い」
「……。はい、いいです。準備よろしいです」
「ふふ。わかりました。……では服を脱いでください」

 それまでの笑顔そのままで、千歳さんが言う。
 おおお、にこやかに命令きました~。
 でも、するりと温度差なく下されたその命令を、把握できていないのか。菫ちゃんが戸惑った顔を作る。

「え、あ……服? い、今、ここで、ですか?」

 菫ちゃん動揺し過ぎ。分からないではないけど。
 そんな躊躇いを見せる菫ちゃんに、千歳さんは追い打ちを掛けた。
 
 笑顔はそのままなのに、目は笑わず。
 傍から見ている私でさえ、ゾクッとする声色で。

「3度目は言わないわ。服を脱ぐのよ、スミレ」

 空気が、変わった。

▼

 すごい。
 たった一言。
 それだけで緩んだ空気がどこかへ吹っ飛んでしまった。
 そしてなにより、菫ちゃんを見ていた穏やかな視線が、心臓を突き刺すような鋭い視線に変わり、菫ちゃんの口から微かに「ひっ」という声が漏れ聞こえた。

 『始まったんだ』

 傍観者と当事者とでは感じる想いは違うだろうけど、その想いだけは今このとき共有していると自信を持って言える。
 そして、菫ちゃんはようやく事態を飲み込み、把握したのか、ここから見てても分かるくらい震える指で、ゆっくりとブラウスのボタンに手を掛け――。

「ストップ」

 千歳さんの声に、ビクンとその指が止まる。

「スミレ」
「は、はいっ」

 いつの間にか呼び捨てで呼ばれてる菫ちゃんが、弾かれるように顔を上げた。

「貴女、自分から調教を受けに来たのでしょう? 何故黙って服を脱ごうとするの?」
「っ!?」

 うわ、えげつない。もう完全に『調教』モード入っちゃった。
 すでに菫ちゃん泣きそうだし。
 普段勝気なくせにガラスのハートだからなぁ。

「ど、どうすれば、いいんですか?」
「あら、それが人に教えてもらう聞き方?」
「えっ、そ、そんな……」

 すでにどうしていいか分からない状態っぽい。
 菫ちゃんみたいな子には効くだろうなこれ。じわじわと心を抉る言葉の先端。

「『頭の足りないおバカなスミレにお教え下さい、千歳様』よ。言って御覧なさい」
「ば、バカっ!?」

 バカ、なんてきっと日常で言われることなんてないだろうな。
 だって菫ちゃんは、それこそ文武両道の元気娘で優等生してるんだから。

 でも、堪えて堪えて。
 SMプレイはすべからくロールプレイだよ、菫ちゃん。

「くっ、……あ、頭の、足り、ない、お、おバ、カな、す、スミレに、お教えくだ、さい、ち、千歳様っ……!」
「もっとスッと言えない?」
「頭の、た、足りないお、おバカなスミレにお教えください千歳様っ!」
「……まぁいいわ。教えてあげる」

 後半ちょっとやけくそ気味だったけど、言い切った菫ちゃんに対し鷹揚に、ため息交じりに机に肘をつく千歳さん。
 そして椅子に座ったまま脚を組みなおすその姿。
 女王様、似合いすぎです……。

「いい? 貴女は、あくまで自ら調教を望む身。していただく、させていただくという気持ちを忘れちゃだめ」
「……はい」
「じゃあ、脱ぐ前になんて言うべきか、バカじゃないならもう分かる?」

 菫ちゃんは苦い顔をしながら2,3秒考えた後、自信なさげに言う。

「……脱がさせていただきます?」
「そう……、やっぱりバカね」
「くっ」
「ご覧くださいくらい付けてほしいわね。ま、今日はメインが他にあるし、許してあげるわ。じゃ、もう一回、ちゃんと宣言してから脱ぎなさい」
「はい。……これから、脱がさせていただきます。どうぞ、私の、裸を、ご、ご覧ください……」
 おお、よく言った菫ちゃん。
 言葉責めとか免疫ないからね。可哀想なくらい顔真っ赤。
 でももうちょっとで、Mのスイッチ入ると思うんだよねぇ。

 未だ震えるその指で、今度こそプチプチとブラウスのボタンを外していく。
 私はともかく、千歳さんという他人に見られながら裸になるのって、いくら同性だからって恥ずかしいよね。
 でもさっきの叱責が効いたのか、多少もたつきながらも文句も言わずスカートを下ろし、下着も取り去って、素っ裸になった。

「……っ」

 少し焼けたその肌は、それでも目立ったシミとかもなく、綺麗。
 陸上(ハードルと走り高跳びだったかな)をやってるおかげか、無駄なお肉もなく、すらっと引き締まった身体。
 胸は私のほうが少しだけ大きい(って言うと怒る)けど、今しか持ち得ない絶妙なバランスで、菫ちゃんの身体はここに存在している。

「前は隠しちゃだめよ」
「……はい」

 スッと立ち上がり菫ちゃんに近づく千歳さん。その動き、すごい様になってる。
 そして伸ばした手が菫ちゃんの肩に触れ、ビクンと身体が揺れる。

「動かないの」
「……っ」

 艶めかしく身体を蹂躙する細い指。
 フェザータッチと言えばいいのかな。柔らかい動きで首筋や鎖骨、横腹に背中、お尻と指が這う。そのたび菫ちゃんの身体がビクビクと跳ねる。
 それでも必要以上に動いてしまわないように、キュッと唇を噛んで耐える姿が猛烈に可愛い。

「はっ……ん……!」

 さわり、さわり。
 そのひと撫でごとに、菫ちゃんの口から漏れる吐息が熱を帯びていく。
 揉みしだくでもなく、摘み上げるでもなく。触れるか触れないか、まさに上辺だけを撫でるその指。それだけで翻弄される菫ちゃん。

「あ、あ……っ! んぅ……」

 お肉の薄いところ。皮膚のすぐ下に骨があるところ。それこそ手の甲を触れられただけでぞわぞわと、菫ちゃんの身体には電気が走っているはず。普段から割と敏感なほうなんだけど、今日はいつもよりもたくさん感じているみたい。
 ……もう『酔い』始めてるんだ、菫ちゃん。それに悔しいけど、やっぱり千歳さんは上手。

「……さぁ、わたしのポニーになってくれる?」

 やがて検分が済んだのか、千歳さんはそう言って、菫ちゃんの頬を軽く撫でる。それは優しげで、妖しげで。でも逆らう余地なんて無いような、そんな蠱惑的な仕草。
 少しぽうっとした菫ちゃんは、すっかり融けた人形のようになって。
 一瞬間をおいて、吐息のように、それを吐く。

「……はい。……ならせてください」

 言った。

 それは、さっき『バカ』だと言われたから、きちんと言葉を返すという意地もあったのだと思う。
 でもそれ以上に、紅茶に入れた砂糖のように蕩けた瞳が、菫ちゃんの『スイッチ』が入ったんだと、伝えてくる。

「はぁ……」

 見ている私までゾクゾクしてしまう。
 知らず口端を吊りあげたその横を、汗が一筋流れ落ちる。

 分かってる?
 これから、家畜に堕とされようとしてるんだよ? 菫ちゃん……。

「いい子ね」

 そしてそんな菫ちゃんを優しく抱きしめ、褒めながら頭を撫でる千歳さん。とびっきり優しい、お母さんのような手。
 見なくても分かる。今、菫ちゃんは、家畜になる屈辱を感じながらも、褒めてもらえた喜びに顔をほころばせているんだ。

▼

 頬を伝った汗を、拭う。
 暑くはない……と思う。
 今はもう7月だけど、この部屋はほどよく空調が効いていて、薄手の服なら長袖でも快適なくらいだ。
 ただ、気温だとかそんなのじゃ説明が付かないような熱気が、私の目の前には存在している。

 それは、威圧感?
 いや、『境目』と言ってもいい。

 ふざけた空気は面影もない。
 そこには、哀れな生贄と、それを食らう支配者が存在するのみ。
 私の入る隙間はない。

 ほんの数分の間に、演者と観客という明確な境界線が出現した。
 この、数メートルしか離れていない空間の間に。

 菫ちゃん、頑張って。
 私に言えるのは、それだけ。

「さぁ、『本来』の姿に戻りましょうね、スミレ」
「はい……」

 クローゼットから、今日の衣装を取り出す千歳さん。
 菫ちゃんは少し不安な顔をしながらも、逆らうことなく返事した。

 取り出されたのは、全身を覆うラバーでできたスーツ。
 茶色く、光沢のあるそれから、菫ちゃんは視線を外せない。
 脚を上げるよう指示した千歳さんの助けを借りながら、その引き締まった脚を包んでいく。
 たるんだラバーを伸ばし、伸ばし。パチン、パチン、と抓まれたラバーが肌と密着し、その隙間を埋めていく。
 ふくらはぎ、太ももが、茶色に覆われていく。

「ストップ」

 太ももまで履き終えたところで、千歳さんが制止の声を上げた。
 ピタッと菫ちゃんの動きが止まる。

「スミレ、貴女、処女かしら?」

 私はその質問でなんとなく意図が分かった。
 菫ちゃんは……、その顔だと、分かっちゃった、かな?

「いえ……」
「あら。じゃ相手は……、って、聞くまでもないかしら」

 少し意外そうな声を上げた後、悪戯っ子のような顔でこっちに視線を向けられる。

 いやいや、私を見られても困りますよ。
 間違ってないけど。

「それじゃあ心おきなくご褒美をあげられるわね」
「ご褒美?」
「こ・れ」

 千歳さんが見せたのは、私が予想していた通り、ローターだった。

「入れてあげる」
「え、あ、ちょっんあああっ!」

 濡らすとかそんなのは一切ナシ。
 ためらうことなくローターを持つ千歳さんの指が、顔の割に(って言ったら怒られるか)幼い秘所を抉る。

「ひゃうっ! んんん……!」
「はいおしまい。いい子にしてたら、ご褒美。分かるわね」

 テラテラと光るその指をぺろりと舐める千歳さん。
 そう、確認するまでもなく、菫ちゃんがすでに愛液を滲ませていたのは気付いていた。直接愛撫をしていた千歳さんならなおさらだったろうね。
 なによりも被虐的なシチュエーションに酔う菫ちゃんが、今までのやり取りでそうなることは分かっていた。付き合いの長い私にとっては、夜食にポテチ食べたら太るってくらい予想の範囲内なのだ。

「ほら、しゃんとして。腰まで上げるわよ」

 さっきの愛撫では、分かりやすいくらい局部を避けていた。
 その反動か、指を入れられただけで、ローターの異物感だけで、切ない快感を味わっているんだろう。けど、そんなことはお構いなしに千歳さんが衣装の装着を急かす。

 実際、普段はあれだけの愛撫であそこまでトロトロにはならないから、やっぱり今のこの状況を楽しんでるってことなんだろうね。

「んっ」
「はい、次は腕ね。後ろ引っ張ってあげるから、腕を前に突き出しなさい」

 言われるがまま、菫ちゃんが腕を突っ張り、ラバーが覆っていく。そろそろ弛みが伸びてきたのか、ミチミチとラバーが張る音がする。

「あっ」

 そこで思わず、私は声をあげてしまった。
 観客席からの声に、演者の二人もこちらを見る。その後、私の視線の先、窓から見える外庭の景色に目をやった。

「あ……」
「ああ」

 みんな示し合わせたように『あ』しか発してないけど、そこに込められた意味は3人ともそれぞれ違った。

「貴女たちより先に来ていたお客様ね。貴女ももうすぐああなるのよ」

 そこから見えたのは、黒いラバースーツに身を包んだ、馬車を牽く女性の姿。

 私たちだって、『あれ』をするって分かっててここに来たはずなのに。現実に目の当たりにすると、何だか遠い世界のことのようで。
 でも、ふと菫ちゃんの今の姿を見れば、それは確実にそこへと至る階段を上っていることが分かる。

「うあ……」

 なんとなく、作業感で誤魔化していた部分もあるんだろう。
 でも、これからの自分の未来が今はっきりと示されて、菫ちゃんの心にしっかりと刻まれたはずだ。
 今のこの作業が、確実に自分を貶める行為なのだと。

「頭被せてあげる。少し屈みなさい」

 そんな心境の変化は、きっと千歳さんにとっては計算のうち。それまでと変わらず、淡々と『家畜化』の準備が進められる。
 菫ちゃんも、表面上はこれまで通り素直に指示に従う。

 先ほど通した腕の先はミトン状になっていたので、菫ちゃん自身はもう細かい作業はできない。
 千歳さんが後ろに回り、顔の目、鼻、口の穴を合わせてマスクを被せる。耳も隠れるけど、聞こえないほどじゃないはず。

「貴女髪の毛短いから楽だわ」
「あ、ありがとうございます」

 気をつかってもらったのか、千歳さんの言葉に、菫ちゃんも慌てて返事する。
 ふふん。そりゃ伊達にボーイッシュ気取ってないからね。走る時も邪魔だし。……ってのは建前で、こういう時用に普段から邪魔にならないよう短く整えてる。
 逆に私はかなり長い。股下くらいまである。面倒くさいけど密かに自慢。私が受けになるとき、嫉妬か分かんないけど髪の毛で後ろ手に縛られたりするけどね。

「ファスナー上げるわよ」

 背中を残し、菫ちゃんの身体がラバースーツの中へと納まったところで、股下あたりからジジジとファスナーが上げられる。
 閉じたところから引きつれるようにラバーの弛みがなくなり、菫ちゃんの感じている窮屈感を想像して私も無意識に自分の身体を抱いた。
 やがて、頭のてっぺんやや後ろ辺りまでファスナーが上げられ、ラバースーツに菫ちゃんを封入する作業は終わった。

 そういえば手がミトン状だし、ファスナーの持ち手部分あんな小さいし、自分一人じゃアレ脱げないよね。
 菫ちゃん気付いてるかな?
 自分がもうすでに逃げられないところまで来てるってこと。

「必要以上に引きつれたり、痛いところはある?」
「だい……じょうぶ、です……」

 そこには、なんだか一回り小さくなったような、そんな感覚さえ抱かせる茶色いラバードールがあった。
 露出している部分が目、鼻、口しかないから、かなり個人の特徴が剥奪されていると言える。

 うわーもうこのまま両手両足縛って押し倒したい!
 そんでさっきのローター最強にして一晩放置したい!

「次よ」

 私がそんな妄想をしてる間に、千歳さんがブーツを持ってきていた。

「うわ……」

 二人には聞こえなかったと思うけど、声が漏れた。
 つま先立ちを強制させる、黒いロングブーツ。先端には蹄を模したものが付いていて、雰囲気を出している。
 感覚的にはバレエヒールに近いのかな。高いヒールなんて普段履きなれていない菫ちゃんにはきついかも。

「履かせてあげる。足上げなさい」

 言われて菫ちゃんが右足を上げる。
 そのブーツは編み上げでは無く、スーツと同じくファスナーを上げるタイプのようだった。膝の下あたりまで上げた後、上部についているベルトを巻いてしっかり固定。
 ラバーも着てるしそれだけでキツキツだからもう脱げないだろうに、ご丁寧に小型の南京錠でロックまでされてしまった。

「あ……ぅ……」

 分かる! 分かるよ菫ちゃん!
 他人事だけど、私も今キュンキュンしちゃってるから!

「左足」
「はい……」

 同じように左足にも、つま先立ちを強要する器具が装着された。
 そしてカチャンとロック。

「あっ……」

 足下がふらつくのは、想像以上に不安感を煽る。
 でも、中国の纏足然り、見る者にとってそれはたまらない興奮を与えてくれたりする。

 今の菫ちゃんはどうだ、って?
 最高に決まってるでしょーが!

「次はこれね」

 今度は、ハーネスかな、形状的に。
 でも、思っていたのと違う。革でもないし、ベルトでもない。
 なんだかトルソーというか、小さい檻のようだ。

 そんなことを考えていたら、顔に出ていたのか、千歳さんが説明してくれた。

「このあと、まずは歩行訓練に入りますから、歩行器に合わせてスティール製のハーネスなんです。より自分が部品になったような感覚、無慈悲感が味わえると思いませんか?」
「な、なるほど」

 なるほどとか冷静気取って返事したけど、内心ドキドキしすぎてやばい。
 だって、さらって流したけど、歩行訓練だよ!?
 しかも、歩行器に接続! キュンキュンが止まらない。

「ちゃんと外出るときは、革のハーネスをキツキツに付けてあげるから。心配しないで」
「し、心配なんて……」
「あら、嬉しくない?」
「う、うれしい、です……」

 ほらもう菫ちゃんの顔がグズグズになってきちゃってる。
 スティール製で微調整が効かないはずなのに、計ったようにぴたりと胴や胸周りにハーネスが嵌められていく。まぁ実際計って事前に数値を提出しているんだけど。

 それにしても、綺麗だ。
 ハーネスの形状がそうなっているのか、補助線のように配置された棒が、決められた姿勢を強制する。
 胸を押し出すようなその姿勢を見て、場違いにも猫背が治りそうだなんて思ってしまった。

 こちらも例に漏れず鍵でロックされる。
 別にこれだけで手足の自由が奪われるわけでもないのに、物理的な効果以上に拘束されている感が強い。それに今回はしないけど、背中側に突き出たバーを握れば、今すぐ四つん這いでお馬さんごっこができそうで。見た目の破壊力がすごい。

「最後はこれ」

 で、これですよ。
 ある意味一番自由を奪われる、ハミ。轡。
 これをつけるだけで一気にポニーガールっぽさが出る代物。
 それだけに心理的効果も高く、菫ちゃんも今までで一番不安そうな顔してる。

 そりゃあ、これをつければ最後、『止めて』の一言さえ届かなくなるんだから。

「スミレ、こっちを向いて、じっとしてなさい」
「あぁ……はい……」

 観念したような声が憐みを誘う。
 口を開けたところにハミを噛ませ、額に当てたベルトとともに後頭部へ引っ張る。
 後ろでカチリカチリとロックされる音を聞いて、菫ちゃんの口から涎とともに艶っぽいため息が出た。

 目の左右にはプレートが付いていて、正面以外の視界を遮る。
 馬車を牽くためだけの家畜に、余計なものは必要ない。言外にそう主張している。

「ほら、お友達に、見せて上げなさい」
「可愛いよ、菫ちゃん」
「ぶふぅ……」

 しゃべれない口でなにか文句を言ったようだけど、言葉にはならない。

 ああ、最高だよ、菫ちゃん。
 今でもかなりの不自由を強いられてるのに、これからさらに自由を奪われるなんて。

「存分に自分を手放してね、菫ちゃん」
「おふぅっ!?」

 悲鳴のような声とともに、菫ちゃんの口から涎がゴポリと噴き出した。

▼

「ではこれから歩行訓練に移ります。えーと……」
「あ、碧です」
「そうでした。碧さんも見学なさいますよね、当然」
「ええ、当然」

 廊下に出て、訓練器具がある部屋まで移動する。ガポ、ガポ、と、存外に蹄の音が廊下に響く。
 菫ちゃんはただでさえ不安定な蹄ブーツに、両手を後ろ手に手錠で拘束されて。さらに首輪にリードを繋げられて、前を行く千歳さんに牽かれていた。

「慣れたお客様でピアスOKなら、鼻輪をつけてそれを牽いていくんですけどね。でもこの子の場合ブーツに慣れていないので、どのみちこのスタイルになるでしょうけど」

 万が一こけたりすれば流血騒ぎになります、と千歳さんが笑う。

「ピアスは全然OKなんですけどねー。ブーツ練習してまた千歳さんにお願いしようかな」
「あら、リピーター大歓迎ですよ」
「うーーっ!」

 本人の意思無視して言いたい放題だ。ま、いずれ、ね。ふふふ。

 そんなこんなで訓練場に着いた。

▼

「先ほどつけたハーネスを、この機械に接続します。形を見ればお分かりでしょうが、上にある傘の骨のような部分がぐるぐる円を描いて回りますので、それに合わせてポニーが歩く形です。もちろん機械が回しますので、慈悲など皆無です」

 千歳さんが私に向かって機械の説明をする。
 もう、菫ちゃんはポニーになってしまった。千歳さんからすれば、機械の説明などポニーにする必要はないということか。

 そんな扱い一つひとつにドキドキしながら、歩行器から垂れ下がる鎖とハーネスを接続される菫ちゃんを見つめる。

「スミレ、これから歩行訓練をするわ。一歩踏み出すたびにきっちり太ももを腰まで上げて、綺麗な歩行をするのよ」

 こうやって、最低限の情報だけ与えて。

「つらいだろうけど、頑張って。頑張れたら、あとでご褒美あげるからね」

 飴を仄めかすことも忘れない。
 終始不安そうにしていた菫ちゃんだけど、その言葉を聞いて、ゆっくりと頷いた。

「ではスタートします」

 そしてまたこちらまで戻ってきた千歳さんは、手にしたスイッチのスタートボタンを押した。

 歩くことを強制する機械は、ゆっくりと回りだす。
 菫ちゃんは、身体に付けられたハーネスによって、常に一定の速度でついていくことを強いられる。

「……。うん。初めてにしたらちゃんと脚も上がって歩けてるじゃん」
「まだ始まったばかりですからね」
「そうだねぇ。でもまあ本人はハードル走とかもやってるから。ペース配分とかも考えてやってるんじゃないかな」
「あら、それじゃあ結構頑張れるかもしれないですね」

 なんて目の前の光景を肴にしながら千歳さんと雑談する。
 そろそろ『なんであたしがこんな目に!』なんて思ってそうだけど、今のところ文句を言うでもなく(言えないけどね)きちんと歩いている。
 もともとスポーツ少女だし、体力はあると思うんだけど、どこまで頑張れるのかな。

「そういえばこれはどれくらい続けるの?」
「1時間くらいです。まぁ人にもよりますが」

 1時間かぁ。私だったら絶対無理だ。普通に歩くだけでも脚が棒になっちゃう。
 それに、本人は終了時間を聞かされていない。
 いつ終わるとも知れずに延々と歩くことを強制され続けるのは、想像以上に精神力を削り取る拷問だ。

「慣れるまでは相当きついですよ。足元もおぼつきませんし。あのブーツだけでも疲労が何倍も……と、あれはちょっとまずいですね」
「え?」

 10分くらい経った頃、千歳さんが注意を向けるように声を出す。
 千歳さんの視線の先、菫ちゃんの様子を見ると、さすがに疲れてきたのか、初めの頃より脚が上がってなかった。

「脚上げずに適当に歩いたらどうなるの?」
「もうそろそろですし、見ていれば分かりますよ」

 そう言われちゃあ仕方ない。黙ってみていることにしよう。
 囚人の強制労働のように、円をくるくると回り続ける菫ちゃん。その脚がト、トンともつれたとき、それは起こった。

「ふぎゃあああああっっ!?」
「うわっ!?」

 いきなりの悲鳴にこっちもびっくりした。

「なに、今の……!」
「さきほど、あの子の膣内にローターを入れました。あれは、振動するだけじゃなくて、電流も流すことができるんです。あの歩行器にはセンサーがありますから、ちょっとでも姿勢が崩れると容赦なく発動しますよ」
「なんて鬼畜な……」
「うぎぃいいあああっ!」

 そんなことを言っている間にも、再び電流を流しこまれた菫ちゃんが、ハーネスから伸びるチェーンを軋ませながら悶えている。

「早く体勢を立て直さないと、延々とあの電流を食らい続けることになります」
「そのことは菫ちゃんには?」
「言ってません。そのうち気づくでしょう」
「鬼がいるよ……」
「があああっ!?」

 その後、グワングワンとチェーンを揺らしながら、やっと理解したのだろうか。初めの頃のように元気よく脚を上げることで、ようやく電流は鳴りを潜めたようだ。

 でも、遠目からでも分かる。
 菫ちゃんの顔、今酷いことになってる。

 あの姿勢に戻せたのだって、これからのペース配分を無視した、がむしゃらな体力消耗の結果だろう。
 いつ終わるかも分からない。そんな状況で全力を振り絞るのは、菫ちゃんにとってすごい恐怖なんじゃないだろうか。
 しかも、姿勢を崩せば電流が襲いかかる。
 身体は拘束され、視界は狭く、歩くことしかできない。
 ぐるぐると無意味に円を歩く菫ちゃんの顔は、ガリガリと思考力を削り取られて知性の欠片も見えない。

「あそこまでグズグズになった顔は初めての時しか見られません。やっぱり興奮しますね」
「千歳さんって見た目優しいお姉さんなのにすごいドSだよね。言ってることには同意するけど」

 力を振り絞って元気よく、滑稽なまでに脚を上げて円を歩き続けるポニーちゃん。
 最初に比べたら、少しは蹄ブーツにも慣れてきたのかな?
 左右の視界はプレートで遮られてるし、ペース配分とか無駄なことはもう一切考えられない。ただ前だけを見て、汗や涙や涎や鼻水を撒き散らしながら、一心不乱に歩くことだけ考えて脚を動かしてる。
 その姿がすごく間抜けで、可愛い。

 あそこで鞭でもいれたらどうなるんだろう。
 何も考えず、ただ馬になって、鞭に従い歩き続けるんだろうか。

 ……だめ、そんなの想像するだけでイっちゃいそう。

「では、訓練が終わるまであちらへ。ケーキバイキングなども用意しておりますので」
「マジで!? そりゃもういただくでしょ!」

 そんなバカみたいなことを言いながら部屋を出ていく。
 背を向けるところが見えたのだろう。菫ちゃんが不安そうな声で「おふぅーーっ!!」と叫んで、その後に「んぎゃああああっ!!!」と普段出さないような悲鳴を上げていた。

 ごめんね菫ちゃん。
 立派なポニーになるために頑張ってね。

▼

 びっくりするぐらい美味しいケーキと紅茶に舌鼓を打ちながら、今後のスケジュールなどを千歳さんに確認する。

「えーと、今の歩行訓練が終わったら、次は?」
「疲労ですぐには動けないでしょうから、しばし休憩です。残った時間で実際に馬車を牽いてみましょうか」
「聞くだけでわくわくするね。菫ちゃんは大変だけど」

 あはは、と二人で笑いあう。
 内心、さっきの窓の外の景色を思い出すと、今でも少しドキドキするんだけどね。でもここまでくるともう『楽しみたい』という気持ちのほうが大きい。

「失礼ですが、何故こちらに来られたか、聞いても?」
「えーとねぇ。簡単に言えば二人とも変態なんだよねぇ、ぶっちゃけ。でも、素人二人で出来ることって限られるでしょ? だから、いろんな人のところへ行って、いろんな経験しようって」
「そうでしたか」

 菫ちゃんドMだしさぁ、というのは本人の名誉のため黙っておいた。今さらだけど。
 まぁ言った以上の理由もないしね。

「あの、物は相談なんだけど……」
「はい? 何でしょう」

 千歳さんの質問に答えたので、今度はこちらの番、というわけでもないけど。
 さっきから考えていたことを千歳さんに話す。

「菫ちゃんの調教、ちょっとだけ私も参加していいかなぁ」

 これからの予定を聞いて、もう我慢できなくなっちゃった。

「構いませんよ。お二人はお客様ですから、そのくらいのことならなんなりと」
「やったっ。あ、調教はしっかりしたいから、千歳さんの言うタイミングだけ参加するようにするから」
「かしこまりました」

 ここで文字通り手綱握っちゃえば、これからも私が主導権握れるしね。

「……あら、そろそろ時間ですね。様子を見に行きましょうか」

 うっしっしなんてこれからの想像をしてたら、時計を見た千歳さんが時間を知らせてくれる。

 あーどうなってるのかな。
 ドロドロのグッチョグチョになってるかなぁ。

「あ、そういえば今さらだけど、本当に倒れたり事故があったりしたらどうするの?」
「その点はご安心を。監視カメラもついていますし、外には緊急時用のスタッフが控えていますので」
「そっか。こっちに連絡がないってことは大丈夫ってことね」
「そういうことです」

 すごい、1時間耐えたってことだよね。
 さすが菫ちゃん。いっぱいご褒美あげないとね。

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