第七話『散歩』

 その後、お姉さまの部屋で夕御飯をご馳走になった。
 ナポリタンとサラダ、それに、「最近はまってるのよ~」という薬味山盛りのお豆腐。
 スパゲティの横にお豆腐を並べるセンスがなんだかお姉さまらしいなと思った。

「簡単なものでごめんね。あたし普段あんまり料理とかしないから」
「いえ、そんな……美味しそうです、とっても」
「そう? まぁスパゲティくらい誰でも作れるからねぇ……。あ、ドレッシングどれがいい? 和風にゴマにイタリアンにシーザー何でもあるけど」
「じゃあシーザーで……」
「はい。……あ、どうでもいいんだけどさ」
「はい?」
「シーザードレッシングって、なんかエロくない? ほら、見た目とかザー」
「わーっわーっわーっ!! なんてこと言うんですか!?」

 お父さんとお母さんには、今日は御飯食べて帰りますとメールしておいた。
 とはいえいつも御飯を作るのは私なので、私の分はいらない、というより、自分達で作って食べてくださいという意味合いが大きい。
 ……まぁ冷凍庫に冷凍食品買い置きしてあるから、飢え死ぬことはない……と思う。

「あー食べたー。きぃちゃんもお腹いっぱい?」
「あ、はい。美味しかったです。ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした。じゃあ片付けよーかなー」
「あの、私やります。ご馳走してもらったし、これくらいは……」
「そんな気を使わなくてもいいのに。でもまぁお願いしよっかな。とりあえず食器は流しに置いといて。ドレッシングはそこの冷蔵庫、扉のほうね」
「はい」

 いつもやってることだ。特に面倒でもない。
 シンクにはいくつかカップと小皿が置かれていた。多分お茶でもしたのかな?
 ついでだし洗ってしまおう。

「あ、別に洗わなくても明日まとめてやるから……」
「いえ、ついでですし」
「ならせめてエプロンだけでもして頂戴。……ほら、じっとしてて。着けてあげるから」
「すみません。……あ、あとお気遣いついでに、袖のほうを……」
「……どこの新婚さんかしら、もう」

 それにしてもさすがにキッチンのレベルが違う。これだと料理教室でも開けそうだ。
 冷蔵庫も大きいし、外国のお家のようなオーブンはあるし、グリルも……。

「……どうしたの?」
「やっぱり、充実してるなぁって」
「そう? でもま、実際にはほとんど使ってないんだけどね。パーティ開いたりとか、そういうみんなで集まる日ぐらいじゃない?」
「……もうその習慣からして違いますよね、小市民とは……」

 格差社会を憂いながら、食後にお茶を頂いた。
 あるところにはあるもんだ。

「……さぁて、ちょっくら散歩でもしてこようかしら」
「散歩、ですか?」

 大きなテレビをBGM代わりにソファにもたれていたら、お姉さまが急に立ち上がってそう言った。

「そう。食後の運動。軽く動いとかないと、お肉になっちゃうでしょ?」
「それはまぁ……」
「ほら、きぃちゃんもおいで。お風呂あがりの体重計、暗い気持ちで乗りたくないでしょ?」
「い、行きますっ」

 誰だって太るのは嫌だ。

▼

「ん~っ。今日は涼しいわね~」
「そうですね」

 季節はもう夏が始まる7月。そろそろクーラーも欲しい季節だけど、夜は少し涼しげで、どこか開放感があって気持ちいい。

「とりあえず公園まで行こうかしら。それでいい?」
「私は、どこでもいいです」
「ん。じゃあ出発。……と、言いたいところだけど」
「な、なんですか……?」

 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべたお姉さまは、じわりじわりと私に近づいて、一気に私の首の包帯を取り去った。

「あっ!?」
「ふっふっふ。しっかり首輪はしてたみたいね」
「あぅ……」

 包帯の下から首輪が現れ、羞恥心に思わずボッと顔が赤くなる。
 こ、こんな道の真ん中で……!

「もう、恥ずかしがっちゃって。可愛いわ。じゃあこれも……」
「え、ちょっと……っ!?」

 恥ずかしがっている私に構わず、お姉さまは首輪に金具を取り付ける。
 そして一歩離れたあと、お姉さまの手にあるのは、私の首へと繋がるロープ。

 あ……リードで、繋がれた……。

「ああ……あぁ……っ」
「恥ずかしい? でも、ドキドキしてるでしょ? こんなお外で、犬みたいにリードで繋がれて」
「はうっ……」
「じゃ、お散歩しましょっか。あ、今日は別に四つん這いじゃなくてもいいわよ。だけど、もじもじするのは禁止。両手は後ろで、胸を張って、ね?」

 くぃっと、リードが牽かれる。
 薄暗い道の上を、歩き出す。
 その瞬間、ドクンと心臓が跳ねる。
 私、リードで牽かれてるんだ。
 犬みたいに、散歩するんだ。
 誰か見られるかもしれないのに。
 ……だけど、それが興奮する。してしまう。

「だんだんいい顔になってきたわね。少し人通りのある道を通りましょうか」
「……っ!? や、やだ……!」
「だめよ、ほら、こっちに来なさい! これは命令よ」
「っ!」

 これは、めいれい。
 命令されたんだ。
 だったら、従わなくちゃ……。
 そしたら……。

「……そう、いい子ね。……あ、ほら、こっちに誰か歩いてくるわ。いい? 俯いちゃダメよ。しっかり、前を見て歩くの」
「ひぅ……っ」

 前を見ると、確かにサラリーマン風の男性がこっちに向かって歩いてくる。
 怖い。怖い。怖い。
 見られる。今の姿が。首輪着けて、リードで牽かれている、犬みたいな私の姿が。
 恥ずかしい!

「俯かない!」
「あっ……!」

 お姉さまの声に、ハッと顔を上げる。
 その瞬間、すぐそこまで来ていた男性の、顔が見えて、視線が、目が、合って……。

「う……ぁ……」

 その目は、顔は、僅かに、軽蔑の色が混じり。

「あああ……ああ……っ!」

 叩きつけられた負の感情に、私は思わず失禁しながら絶頂していた。

「あらら……。もう、この程度でお漏らししてたら、生きて帰れないわよ」

 コロコロと笑うお姉さまの笑い声もどこか遠く、ただ胸を張って茫然と前を見ていた。

「んー、これはちょっと……。あ、ラバーがあるから横に飛び散ったのね。とはいえティッシュの持ち合わせもないし……」

 私の股を覗き込むお姉さま。
 そこでようやく自分がお漏らしをしたのだと気付き、情けない気持ちでいっぱいになる。

「ご、ごめ……な……さ……」
「いいわよ。ただ、このまま帰るのもあれだし、ひとまず公園まで行きましょうか。確かトイレがあったはずだから」

 またリードを牽かれ、歩いていく。
 ペタペタと、靴まで染み込んだおしっこが、道路に私の足跡を残していく。
 もう頭の中はグチャグチャになっていた。
 冷たい。情けない。恥ずかしい。そして、気持ちいい。
 あのサラリーマンの男性に見られたとき、私は確かに興奮していた。
 そして、イった。失禁するほどの衝撃でもって。
 自分ひとりでは、得られなかった快感。
 一歩間違えれば、そんなスリルが、こんなに近くに、あった。

「ほら、もうすぐよ」

 数十メートル先に公園の入り口が見える。
 その途中、今度は本物の犬の散歩をするおばさんと出くわした。

「ひ……」
「あら……?」

 おばさんは一瞬怪訝そうな顔をして、しかし急に立ち止まった犬に意識を取られたようだった。

「あっ……!」

 よく見るとその犬は電柱にマーキングしているようだ。
 なんだかお漏らししてしまった私への当てつけのように思えて、涙が一筋頬を伝い落ちた。

「うぅ……」
「ほら、泣いてないで。もうすぐそこだから」

 犬にも、劣る。
 そんな思いが、頭の中をぐるぐると駆け巡った。
 あの犬はちゃんとおしっこを済ましているのに、私ときたら……。

「ついたわ。……もう、どうしたの?そんなに嫌だった?」
「うっ……ち、ちがうん、です……ただ……」

 公園の入り口のすぐそば、蛍光灯の明かりがもれる公衆便所の手前で立ち止まる。
 ぐずる私を見てお姉さまはやれやれといわんばかりにため息をついて。

「なぁに? さっきの犬見て、自分は犬より馬鹿なんじゃないかって思ったの?」
「……っ」
「馬鹿ね。当たり前でしょ。だってあなた、まだ躾のひとつも受けてないでしょうに」

 そう言ってお姉さまはリードを牽いてトイレの中へと入っていく。
 躾のひとつも受けてない。
 完全に犬としての扱いに、私は漠然と調教はすでに始まっているのだと悟る。
 それに、知らず知らずのうちに自分を犬と比較して落ち込んでいることも。
 そんなことを思う間にもお姉さまはトイレットペーパーを水に浸し、私の股間を拭っていく。

「ほら、スカート自分で持ち上げなさい」
「うぐ……は、はい……ひぐ……っ」
「ある意味順応性高いのかしらね。……はい、今度はその制服、全部脱いで」
「な、なんで……?」
「おしっこで汚れてるからよ。とりあえず水洗いだけでもしておくから」

 言われるがまま、おしっこを吸い込んだ制服を脱いでいく。
 上下ともお姉さまに渡し、私はラバースーツに首輪だけの格好となった。

「は、恥ずかしい……です……」

 洗面所に映る自分の姿を見て、ますます赤面する。
 それに乳首や拭われた股間がスースーとして、必要以上に頼りない気持ちにさせる。
 私は思わずリードを握り締めていた。

「それでいいのよ。恥ずかしいのが気持ちいいでしょう? ……ふふ、お漏らししたあなたに、ちょっとお仕置きしてあげる」
「あっ……」

 そう言ってリードを牽くお姉さまに連れられ、トイレから少し離れたジャングルジムの根元にリードを括り付けられる。

「お、お姉さま……?」
「えーと……あ、あった。これなんだか分かる?」

 お姉さまの手にあるのは、私のスカートの中に入っていた、リモコン。

「まさか……!」
「ふふふ、ちょっとの間、反省していてね。あ、リード解いちゃダメよ。『躾のできたわんちゃん』なら、そんなことしないよねぇ……?」
「っ……!」

 そんなことを言われると、意地でも解くわけにはいかない。
 そんな子どもみたいな気持ちが沸いて出た。
 それに加え、ちゃんと出来るんだ、という意思表示として、その場にちょこんとお座りして見せた。
 ……ここまできたらとことんやろう。
 背中を押してもらった勢いそのままに、私は一歩踏み出した。

「あら賢い。何も言わずにお座りできるなんて。じゃあご褒美にこれ、動かしてあげるからね。……スイッチ、オン!」
「うひゃぅっ!? ああああああっ!!」

 クリトリスにあるローター。お尻を抉るパール。
 その両方ともが、最強の振動で暴れまわる。

「きぃちゃん、待て、だからね。……あ、あとあんまり大きい声出すと、誰か来ちゃうかも」
「うぐっ……ううううーっ!!!」

 お姉さまの言葉に、必死に声を噛み殺す。
 今の私は乳首丸出しのラバースーツ女だ。
 さっきまでと違い、確実に奇異の目で見られるだろう。
 それに、解けるとはいえ、リードはしっかりと括り付けられていて、簡単には解くことが出来ない。
 今誰かに見られたら、言い逃れできない。

「ふうううっ……ふうう……!!」

 周囲を確認する間にも、ローターとパールは容赦なく私を快楽の渦へと巻き込んでいく。
 気持ち、いい……。
 学校でしたときとは、比べ物にならないくらい、気持ちいい。
 一歩踏み出せば、こんなにキモチイイ……。

 快感に身を任せ、倒れこみそうになるたび、ガキンと首輪に繋がれたリードが私を諌める。
 そうだ、今の私は主人を待つ犬。
 ちゃんと、躾のなった犬なんだから。
 そう言い聞かせる自分さえも哀れで、それがまた快楽のスパイスに……。

 と、不意に振動による快感が感じられなくなった。
 顔を上げると、笑みを浮かべたお姉さまがオフにしたリモコンを持って立っていた。

「お待たせ。いい子にしてた?」
「ぅああっ……あ……おね……さ……」
「ん。解いてあげるわ。……しょ、っと。さて、帰りましょうか」

 解いたリードをそのまま手に持ち、来た道を戻ろうとするお姉さま。

「……あ、あの! その……服……は……?」
「ん? なに?」
「あ……」

 服を着させてください、とは言えなかった。
 なぜなら、これもお姉さまの後押しだと気付いたからだ。
 それにまだ、お仕置きは終わってない。

『あなたは、躾のなっていない犬じゃないんでしょう?』

 お姉さまの視線を、そういう風に捉えた。

「……いえ、なんでも、ないです」
「ふふ。賢い子は好きよ。……よし、帰るわよ」

 くいっとリードが牽かれる。
 何故だか、そのことが誇らしく思えた。
 同時に、その犬のような扱いに、あそこがジュンと潤うのが分かる。
 ああ、やっぱり私はどうしようもなく変態だな……。

 そんな帰り道。
 来るときよりもシャンと、胸を張って歩いた。
 ツンと尖がった乳首を見せびらかすように。
 悩むことの無い自信を表すかのように。
 この頃には大分暗くなっていたけど、それでも互いの顔くらいは分かる。
 途中で何人もの人とすれ違い、そのたびにまるで汚物でも見るかのような視線を叩きつけられた。
 それは辛く悲しく、でも妖しい快感に満ちた刺激となって、私の胸をきゅんと締め付け続けた。

「うわ……」
「なんだ……!? 変態か……?」
「ちょ、あっちいけよもう……!」

 蔑む声が聞こえるたび、悲しくなって、でもリードの先にいるお姉さまを見ると、それは快感に変わる。
 お姉さまの犬でいる限り、この辛さは、全て快感へと変わる。
 蔑まれる存在で、いてもいいんだ。
 人間としての尊厳を、失ってもいいんだ。
 しかもその報酬としての快楽を、享受してもいいんだ。
 変態で、マゾの、牝犬でいても、いいんだ。

「恥ずかしいことが、気持ちいいでしょ?」
「……はい」
「あなたはこの気持ちよさを知りながら、自分では踏み出せなかった。でも、あたしに許された今なら、いくらでも踏み出していける。そうでしょ?」
「はい」
「ふふ……。あたしのペットになるのは、すごく気持ちいいことでしょう?」
「はい!」

 お姉さまの両手が、私の突き出した乳首をつねる。
 もの凄い快感に、思わず腰が砕ける。
 道の真ん中で、お姉さまの腰にすがるように堪える。

「あなたは犬よ。お返事は?」
「わ、わんっ!」

 ガクガクと身体を痙攣させ、私は、周囲も気にせず大声で、鳴き声をあげながら、イった。
 今度は、お漏らししなかった。

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