第二話『湖畔にて』

 車を走らせ、船に乗り、着いたら船から降りまた車を走らせる。
 基本的にヘリやセスナで行くような離島に会場があるため、俺のように車で、しかも自家用車で行く物好きは少数派だろう。
 船に乗る者が少ないわけではないが、大抵お迎え付きだ。
 敢えて車で行ったのは、まぁいろいろ理由はあるんだが……。
 一番は自分のペースでのんびり走れるドライブが好きだということか。
 信用できる運転手をまだ見付けていないという理由もあったりする。

「……」
「……」

 ……で、ゆったりまったりするのはいい。
 ただ、代わり映えしない景色の中で、一人でもないのに無言の車内というのも辛いものがある。
 あれから助手席に座った楓は一言も声を発することもせず、景色も見ないでずっとうつむいたままだ。
 楓の心境を慮れば無理からぬことだが、いつまでもこの状況が続くとなるとさすがに何か考える必要がある。
 一目惚れに近い形で手元に手繰り寄せたとはいえ、それがもの言わぬ魚では喜びも半減する。

「楓」

 沈黙を断ち切るように発した俺の呼びかけに、楓がゆっくりと顔をあげてこちらを見る。
 緩慢ではあるが、こうして呼びかけに応えるのだ。まだ希望はある。
 そう思える状態であるだけでも幸いだった。

「飴、食べるか?」

 ……どこの幼児誘拐犯だ俺は。

 たった今吐き出した自分の言葉に軽く自己嫌悪に陥る。
 気を取り直し楓を見ると、軽くふるふる首を振っていた。

「そうか」

 まぁ当たり前といえば当たり前か。
 予想はしていただけに、特に気分を害することもない。
 自分のことをモノのように金で買った極悪人に、愛想を振りまく必要も施しを受けるいわれもどこにも無い。
 当然の話だった。

 ただ、それならそれで無視を決め込めばいい話だとも思う。
 そうでなくても、なぜこうも大人しくしているのか。
 大人しい振りをして虎視眈々と逃亡の機会を狙っているというのなら大したものだが、何となくこの子はそんなことをするタイプではないと感が告げている。
 そして一番ありがちな、泣いたり喚いたりといったこともしない。
 巴が言っていた精神が不安定な状態とは、延々と黙することも含まれるのだろうか。
 そんな答えの出ないことをぐるぐる考えながら、役割を果たせず所在なさげな指先のそれを口に放り込む。

「……コロ……コロ……」
「……」
「…………コロ」
「……」

 ……沈黙を避けたかったはずなのに、飴を転がす音がいたたまれなく聞こえるのはどうしたことか。
 現実から目を逸らすように前を向けば、対向車もないまっすぐな一本道。
 速度制限など破ってしまえとばかりに何もないその道を飛ばしていると、道路の脇になにやら小さな看板があるのが確認できた。
 普段なら無視するそれに救いを求めるように、やや速度を落としながら書かれた文字を読む。
 そこには薄汚れた印刷で「この先左に折れるとキレイな湖がある」と同じく薄汚れた看板共々訴えていた。

 何かアバウトだな……。

「なぁ楓」

 気が付いたら楓に声を掛けていた。
 思った以上にいたたまれない空気に参っていたようだ。
 うつむいていた楓が視線だけこちらへ動かすのを確認し、問う。

「キレイな湖、見たいか?」

 とにかく話しかけよう、そう思って何でも話題にしてみる。
 とはいえ、俺もそんなに話し上手なわけでもないから、面白くは無いと思うが、まぁ沈黙よりはマシだろう。
 家に着くまでこのままなのは、なるべく勘弁願いたい。
 例え反応がそんな風に首を縦に振ることくらいしかなくても……。

 ……ん? 縦?

「見たいのか!?」

 思わぬ反応に驚いて楓を見やると、その動作に驚いたのか楓も少しだけ驚いた顔を作り、それでもしっかり頭を縦に振っていた。

「ち、ちょっとまってろ! ……あーーーどれ曲がるんだ!? これか!」

 意識していなかったら見過ごしていたかもしれない。
 もうすぐで通り過ぎようとしていた小さな脇道に、スタント顔負けのドリフトを披露しつつ、ものすごい勢いでタイヤを焦がしながら滑り込んだ。

 もう少しで横転するところだった。

▼

 デコボコした道を走り抜け、着いたのは森に穴があいたような空間。
 目の前に広がるのは、確かにキレイな湖だった。
 「どう進めばいいんだ?」とか「くそ、車にキズが付くだろうが!」なんてギャーギャー騒いでいた彼がなんだかイメージと違って可笑しくて、彼に気付かれないように少しだけ笑った。

『凄腕の経営コンサルタント』

 落札された後、会場のスタッフが私の着付けをしているときに聞こえてきた言葉だ。
 大小さまざまな企業の経営に裏で手を加え、そのことごとくを成功へと導いてきた天才。
 並み居る大企業が揃って彼の世話になっていることから、若くして業界では一目置かれる人物。
 そのくせ表世間にはほとんど関わることなく、また命を狙われる危険から公表されているプロフィールは全て偽装と認識されている。
 知る人ぞ知る得体の知れない男だったが、あるときに起こした担当企業の経営不振から責任を取りその舞台より身を引く。
 その仕事には失敗したとはいえ、それまでの功績・評価は輝かしいものばかりであり、結局のちに伝説とまで謳われることとなる。
 実際、冗談半分かはともかく、彼が退いてから現在、世界の経済は確実に衰退しているなどと揶揄されるほど。
 ……というのが聞こえた話。

 その人こそ、彼。
 識別名称『白崎要』。

 私を、落札した人。

 スタッフの間では、「まさか違うだろ」「いや間違いない」などと議論が白熱していたが、私は少しだけ心臓が早鳴るのを感じた。

 その理由は、私が彼――白崎要のことを、知っていたからだ。

 車を停め、車から降りる。
 反対の助手席を開けると、何を考えているのか分からない楓の顔がある。

「ちょっとまってろ。今降ろしてやるから。……そのかわり、ひとつだけ約束してくれ」

 楓の目を見ながら言う。楓も、先を促すように見つめ返したままだ。

「今からその手枷も鎖も外してやる。そのかわり、暴れたりせず大人しくしているんだ。俺もお前をこんな人っ子一人いない場所に置き去りにしたくない」

 そう言ってしばらくして、ずっと俺の目を見つめながら考えていたのであろう楓が出した答えは、首を縦に振ることだった。

「よし。じゃあ後ろ向け。……ちょっとまってろよ……よし、外れた。どうだ、どこか痛むところはないか?」

 俺の言葉に少しの間だけ手首をさすっていた楓だが、すぐに首を横に振った。

「そうか。そしたら次は首輪だな。どれ……」

 ついでに首輪も外してやる。
 取り外した拘束具を後部座席に放り込んだりしていたが、その隙に逃げ出す、ということもせず、楓はいたって大人しくしていた。
 まぁ仮に逃げ出したとしても、碌に体力も残っていない楓に俺が追いつけない道理はない。
 自殺という言葉も頭によぎったが、成否はともかく舌を噛み切る機会はいくらでもあった。
 どちらにしても、結果的に懸念するようなことは何もなかった。

「よし、いい子だ。ほら、じっとしてろ。いま出してやるから」

 ちょこんと助手席に座っていた楓をどっこいしょ、と車から抱え出す。
 軽い。
 お姫様抱っこのような形で湖のほとりまで歩いていく。

 ……なんだか本当に子どもの世話をしているようだ。

▼

「よっこいせ。ほら、お前も座れ」

 彼は地べたに腰を下ろし、胡坐の上に私を乗せる。
 あまりに自然な動作に、私は叩きこまれた奴隷のあいさつも忘れ、されるがままにすっぽりと納まってしまった。
 あの場所にいれば不敬として鞭打ちも覚悟する今の状況。
 私は傍目から見ればこの人の娘のように見えるのだろうか?

「よしよし。あとでゆっくりする時間をやるから、少しの間我慢してくれ」

 今の私はこの人に買われた奴隷だ。
 なのに、この人は私の手を自由にし、繋ぎ止める鎖まで外してしまった。
 しかも、このあと自由に動き回る時間までくれるという。
 私が逃げると思っていないのだろうか。

 でもどうせこんな辺ぴな所、逃げ出したって野たれ死ぬのがオチだ。
 それを計算して言っているのかもしれないけど……。

「じゃあいくつか質問。いいか?」

 奴隷にされてから今まで、自分の意思を尊重してもらったことなんかない。
 だからその窺うような言葉に、内心びっくりしていた。

 それにいつもならすぐに恥ずかしいことをされたりさせられたりするのに、彼は会場を出てから今まで、私には何も手を出してこなかった。

 この人は本当にあそこの人たちとは違うんだな、と思った。

(やっぱり、そうなの、かな……)

「……あの」

 振り返って彼の顔を見る。

「うおっ! あ……ついに言葉を! ……いやすまん。なんだ?」
「私も、質問……いい……ですか?」

 仮にも主人となる彼より先に質問するなんて許されないだろうと思っていたが、私は一刻も早く確認してみたくなった。
 彼の私に対する態度に後押しされて。

 本当に、私の知っているあの人なのだろうか、と。

 それを確認できるなら、多少のお仕置きは覚悟の上だ。

「ああまぁいいだろ。俺は別に急いで聞きたい訳でもないし。このタイミングで言うって事は、やっと踏ん切りついたって事だろうし」

 でも、きっと結果がどうであろうと、この人は私を罰しない。
 そのことが言いようのない安堵感を生む。
 そして、だからこそこんな風に私を尊重してくれる彼がそうであって欲しいと願う。

「……ありがとうございます」
「いい。で、何だ?」
「はい……」

 怖さはある。
 違った場合、私を襲う絶望はいかばかりか。
 だけど事ここに至っては、退くという選択肢もない。

 私は、覚悟を決めた。

「貴方は、白崎要……様、ですよね?」

 彼が微かに、息を呑むのが分かった。
 それをどう受け止めるのか。
 その決断を下すより前に、彼の言葉が続く。

「会場のスタッフに聞いたのか。……ああ、そうだ」
「あの、『凄腕の経営コンサルタント』の……?」
「……何のことだ?」

 さすがに、眉ひとつ動かさない。
 まるで今初めて聞きましたといわんばかりの怪訝な表情、声色。
 やっぱりこの人じゃあないのか、と思わせるほどの。

 でも、聞きたいことはもうひとつある。

「城嶋修、という男をご存知ですか?」
「いや。誰だそれは?」
「……私の父です」

 彼の顔が僅かながら強張った。

 確信する。
 やはりこの人だ。
 やっと会えた。

 私達家族を救い、そして、その恩をあだで返してしまった『お助けお兄さん』。

 私は彼の膝の上から降り、正面に正座し深く頭を下げた。

「その節は大変お世話になりました。……そして、ほんとうにごめんなさい」

 今度こそはっきり彼の息を呑む音が聞こえた。

▼

 驚いた。
 こんな偶然が起ころうとは。

「その節は大変お世話になりました。……そして、ほんとうにごめんなさい」

 俺の前で土下座をする彼女。
 眩暈がした。

 それに、あまりの変貌振りに会場では全く気が付かなかった。

 まさか、俺の昔担当した企業の社長令嬢だったとは。

▼

 そこは、俺の最後の仕事場だった。
 前の仕事先の社長から頼まれ、久しぶりに担当した小さな会社。
 経営者は創設者でもある城嶋修。
 最初順調だった経営も、今ではいつ従業員を路頭に迷わせるか分からない。
 骨の折れる仕事。割に合わない報酬。
 断ってもよかったその仕事を引き受けたのは、社長の顔を立てる意味もあったが、単純に城嶋一家が気に入ったからだ。

 とりあえず話をと向かった先で見たのは、おおらかで人を疑うことをしない城嶋夫婦。
 その親の元、清く元気に育った姉妹。
 俺には無縁だった、仲睦まじいその温かな空間。

 そこに俺はどうしようもなく惹かれてしまった。

 ……その欠片だけでも、味わってみたかった。

 そんなわけで、仕事をこなしていたある日。
 社長の城嶋修からホームパーティをするから家に来ないかと誘われたときには一も二もなく飛びついた。

 果たしてそこには、俺の思っていたとおりの家族の団欒があった。
 皆、本当に楽しそうに笑っていた。

「……おじさん、誰?」

 開口一番聞いてきたあの日の小さな一人娘。

「おじさんじゃあない。……うーん、そうだな。いうなれば俺は、みんなの『お助けお兄さん』ってところかな」

 なんて答えた俺は相当浮かれてたんだろう。

「ふーん……」

 あのときの胡散臭そうな表情は、今思い出しても笑える。

 それからは幾度となく家に呼ばれ、本当の家族のように入り浸っていた。
 暇を作っては一家にお邪魔し、姉妹の勉強を見てやったりもした。
 二人が有名進学校に入れたときには、夫人から死ぬほど感謝され、逆に恐縮したりしていた。

 一生味わえないと思っていた温かさが目の前にあった。

 そのお返し、というわけではないが、俺はいつもよりも気合を入れて仕事をした。
 ただの飯の種にしか思ってなかった俺のスキルだが、このときばかりは本当にあってよかったとしみじみ思った。
 業績を伸ばすにつれ城嶋一家も大いに喜んでくれ、今までの仕事の中で一番のやりがいを感じていた。

 だが、そんな城嶋一家とは違って、世の中は冷たい。
 一時期は最盛期を上回るほどの利益を叩き出したが、ある時期を境に取引先が次々と契約を打ち切り、その原因も不明。
 会社の経営状態は一気に下り坂を下っていく。

 あのころは自分が情けなくて、意地で仕事をしていた気がする。

 そんな中、突然城嶋一家が失踪する事件が起きた。
 どこを捜してももぬけの殻。
 皆は一様に「夜逃げした」と囁いた。
 社長であり創設者である城嶋修が姿を消したことにより、会社は空中分解、必然的に俺の仕事も終わりを告げた。

 あの善意の塊のような一家が夜逃げ。
 俺には到底信じられなかった。
 そう思ったからこそ、今まで培ってきたさまざまなコネクションを利用し、全力で捜索に当たった。

 結果的に、夫妻は見つかり、姉妹は見つからなかった。
 城嶋修は、夫人と共に殺害され、山中に打ち捨てられていた。
 姉妹は、どれだけ捜索しても手がかりすらつかめなかった。

 後で調べた結果、城嶋修は取引先から修本人を対象にして多額の借金を背負わされており、桁違いのそれを返す当てもなく、その返済にやむなく会社の資産を充てていた。
 だがそれでも間に合わなくなり、痺れを切らした回収業者が強行手段に出て、そこで一悶着あったらしい。

 公私を混同し馬鹿みたいに浮かれていた怠慢と、事情を把握できなかった視野の狭さ、なにより、一家を救えなかった罪悪感でもって俺は自分に絶望し、この仕事から身を引いた。
 その後、姉妹がどうなったかは分からなかった。

「楓……そうか、あのときの……」

 姉妹の姉が、楓という名前だった。
 状況から見るに、おそらく楓とその妹は、その筋の組織に流されたに違いない。
 今までに酷い目にあってきたであろうことは火を見るより明らかだが、それをわかっていても、わがままにも俺は楓が生きていたことに安堵を覚えた。

▼

 彼が息を呑んでからしばらく。

「顔を上げてくれ」

 先ほどまでと変わらぬ口調で、彼はそう言った。
 その声を聞いて恐る恐る顔を上げ、伺い見た彼の表情を見て私は驚いた。

 そこには、苦虫を噛んだような表情と、どこかホッとした表情が同居していたからだ。

「何故、そんな顔を……? 私が……私達が、憎くないんですか?」
「それはこっちのセリフだ。……そうか、生きていてくれたんだな……」

 言うや否や、ガバッと彼の体が私に覆いかぶさる。
 彼に抱きしめられているのだと気付くのに数秒掛かった。

「すまない。俺はお前達家族を救えなかった。……あまつさえ、お前をこんな目に……すまない……」

 ぎゅっと、私の身体をきつく抱きしめる彼の口から謝罪の言葉が聞こえ、私は思わず彼の身体を抱きしめ返した。

「そんな……そんなことない!」

 何故、貴方が謝るの?
 貴方が悪いことなんか、一つもないはずなのに……。

 過失は、全てこちらにあった。
 人の良いお父さんが、他人の借金を肩代わりし、最後には騙されてしまったこと。
 そしてその返済に、内緒で会社のお金を使ってしまったこと。
 取り立て屋の嫌がらせで取引先に圧力が掛かり、満足にお仕事ももらえなくなってしまったこと。
 そのせいで、経営が苦しくなったこと。

 父さんも母さんも殺されてしまって、そのことは絶対許せないけれど、それはあの黒服の男達のことであって、この人じゃない。
 あんな奴らとは違って、この人は私達を救おうと頑張ってくれていた。
 今だって、こんなに私のことを案じてくれている。

「私達のせいで、貴方がお仕事を辞めてしまったって……」

 だから、私が思うのは、彼に対する罪悪感。
 ただ差し伸べてくれていたこの人の手を、握り返すどころか振り払ってしまった。

「……それは、お前達が悪いわけじゃない。俺自身が、自分の無能さに嫌気がさした。それだけの話だ」
「でも……」

 身体を離され、彼と向き合う。

「いいんだ。どうせそろそろ潮時だと思っていた。だから、あの件でどのみち辞めるつもりだった」

 人を安心させる、おどけた苦笑。

 嘘だ、と思った。
 私に罪悪感を抱かせないための虚言。

(ああ、何でこの人はこんなに優しいんだろう……)

 正直効果なんてないに等しいけど、彼の優しさを無駄にはしたくない。
 そんな一心で、きちんと分かったように相槌を打つ。

「そう、だったんですか……」

 それを聞いて安心した、という顔を作る。

「ああ……ふふ。よく気を配れる良い子に育ったな、楓」

 頭を撫でられる。
 筒抜けだった。

「あ、あのっ……これは……その……」

 少し慌ててしまった私を見て、彼はまた少し笑う。

「ハハハッ……。……勝手な話だが、少し安心した。経緯が経緯だけに、どんなに憎み嫌われ、罵倒されようと当然のことだと思っていたが……」

 また少し暗い顔を作る彼。
 そうだ、まだ聞きたいことがあった。

「そういえば、何故あんなところに?」

 そんな私の疑問に、彼はばつの悪そうな顔をする。

「聞いても楽しくない話だが……。あんな仕事をしていると、だんだんと疲れてくるんだ、人間関係とかにな。誰と話しても腹の探りあい。どこを揚げ足取ってやろうか、どう利用してやろうか、そんなことばかり考えてる連中ばっかりだ。だから、ただ普通に話し相手が欲しかった。何の気兼ねも駆け引きもなく、ただ思うままに言葉を伝える相手が」

 少し自嘲気味に話す彼。

「……というのが、建前上の話」
「建前?」
「そうだ。確かにそういう思いもあるが、本当の理由じゃあない。いや、ある意味本当の理由と言えなくもないが……」

 言いづらそうにしているのは、心を曝け出すことへの恐怖心だろうか。
 それとも……。

「……俺は、独占欲が強い……というか……。上手く言葉にならんが、人を俺だけのものにしたい、俺無しではいられなくしたいという願望がある。そして、思う存分に愛してやりたいと思ってる」

 それだけなら、別段あの会場にいる理由にはなり得ない。
 この人なら、眼鏡に適った相手を手に入れることくらいわけないだろうから。

「だが、その愛し方が異常なんだ。自分で言うのも何だが……。簡単に言えば、あの会場に足を運ぶような趣味を持っていると言っていい」

 さきほどまで属していた世界のことだけに、よく理解した。
 気付けば、息をするのを忘れていて、慌てて呼吸をする。

「だから、あそこにいた。俺の願望が叶う相手に、普通に暮らしている中で出会うことなど皆無に等しい。あそこなら、似た趣向を持つやつが大勢いる。願望が叶う舞台がある。もちろん普通ではないのも分かっている。だが、抑えられなかった……!」
「……私を落札したのは、何故?」

 彼の独白が自虐の様相を呈してきたので、無理やり方向を転換する。
 彼が辛そうな顔をしているのを見るのは嫌だ。
 私の思いが通じたのか、彼はため息をひとつつき、また口を開く。

「……楓を落とそうと思ったのは、本当に直感だ。あの時はまだ、『あの楓』だと気付いていなかったからな。ただ、なんとしても手に入れたいと思った。まぁ、当人からすれば、こんなに迷惑な話もないな」
「そんなことない……」

 私は首を振る。

「なん……でだ?」

 私の答えが予想外だったのだろうということを彼の表情が教えてくれた。

「今ならはっきり言える。……私は、ずっと、『貴方』を待っていました」

 この人は、常識をわきまえたうえで非常識をもつタイプの人間だ。
 今まで話してて、それが分かった。

 この人は優しい人。今まで見てきた人からすれば、甘い人。
 だからこそ、私という全存在を捧げるに値する。

「……え?」

 彼の驚く顔が目に入る。
 でも無視する。

「私、今までいろんな人に弄ばれた。酷いことされた。今回も前の飼い主に飽きられて、売られることになって……」

 感情が昂ぶり始めたせいか、少しめまいがした。
 そういえば、こんなに感情こめて言葉を紡ぐのは本当に久しぶりだ。

「ああ、私は、一生こんな風に弄ばれて生きていく人生なんだって思ってた。だから必死に自分を押し殺した。悲鳴なんか上げても、皆喜ぶだけだったから。絶対喜ばせてなんかやるもんかって。呻き声すら我慢して。無表情作って」

 そしてそれはある意味成功していた。
 苛立たしげな飼い主を見ると心がスッとした。
 でも代わりに、何か大事なものを失くしたような気がしていた。

「だけど、もうその必要もない。貴方に、出会えたから。貴方が望むなら、悲鳴だって喘ぎ声だっていくらでもあげます。ありのままの感情で作った顔を見せます」

 もう自分を抑える必要もない。
 これを、この気持ちを、義務や償いなんかと一緒にしたくない。

 ああ……やっと想いを伝えられる。

「貴方が好きだから」

 長かった。今まで。

 今度こそ、彼の目が大きく見開かれた。

「ごめんなさい。ずっと、好きでした。あのときから。いつか言おうと思って。でも、あんなことになって。今日会えて、本当に嬉しかった。私を買ってくれたのが貴方で、……『優しい貴方』で、本当に嬉しかった」

 最初はただの憧れのお兄さん。
 でもだんだんと焦がれる気持ちが膨らんでいって。
 監禁されてからはますます想いが強くなって。
 いつのまにか心の支えになっていて。
 でも、真っ当な道から外れた私が彼と出会うなんて、二度とないと諦めて。
 それでも、心のどこかで出会えることを信じ続けていて。

 そして、今。

 絶望的な賭けに勝った私は、見事にチップをせしめることに成功した。

 買った主人と買われた奴隷という特異な状況下ではあるものの、それも今の私には相応しいように思える。

 しばし続く沈黙。

 それまで固まっていた彼が、静かに口を開いた。

「……俺が今までの奴らと違う保障なんてあるのか? いや、むしろもっと酷いこともするだろう。気絶するほど痛めつけるだろう。泣き叫んだって許さないだろう。お前の目の前にいる男は、そんな最低なクズ野郎なんだぞ?」
「かまいません。貴方にされるなら、本望です」

 彼の目を直視し、言い返す。

「それに貴方は、自分が思っているほど悪人じゃない」
「……言ってくれる」

 笑ってくれた。

「……分かった。存分に愛してやる。俺なりの愛し方しか出来ないが、俺の全てをかけて。もうお前は俺のものだから。俺の奴隷だから。俺の玩具だから。……そして、あのときの償いだ」
「……」

 彼は一度視線を逸らし、でもすぐに見つめ返す。
 さっきよりも強い眼差しで。

「……だが、本当はそんな義務や償いなんか関係ないんだ。楓を純粋に愛したい。……俺だって、お前に惚れたんだ」

 彼は本当に残酷な人なんだろう。
 いっぱい私に酷いことをするだろう。
 それこそ、あの黒服たちよりももっと。
 それは紛れもない事実だと思う。

 でも、それ以上に優しい人だ。
 私を全力で愛してくれるだろう。
 その表現がどんな手段であろうと、それを一身に受け止められる私はきっと幸せなはずだ。

 私の身体、心臓、心は、悦びに、怖さに、解放感に、不安に、期待に、束縛感に、安堵に、歓喜に震え、本当に久しぶりに、人の胸で声を上げて泣いた。

▼

「ほら、落ち着いたか?」

 結局あれから楓はしばらく泣き続けた。

 一応それなりに俺も何度か女に胸を貸したことはあるが、ここまで相手を気遣う気持ちになったことはなかった。

「……はい。っ……すみません……急に……」

 未だスンスンと鼻を鳴らしてはいるものの、最初よりはだいぶ落ち着いてきたようだ。

「いいさ。それでお前が楽になるのなら、いくらでも」
「……頼もしいです。もっと好きになっちゃいます」

 必要以上に感情をこめてそういうので、落ち着かなくなって顔を逸らす。

「バカ。格好つけてみただけだ」
「……照れ屋さんですね」

 クスクス笑う楓の頭を軽く小突く。

「あたっ」

 間抜けな声を出した楓を見て、今度は俺が吹き出す。

「もう……!」

 初めはプイっと膨れた楓だったが、やがて自分でも可笑しくなったのか、今度は二人で笑いあう。
 客観的に見ればこっ恥ずかしいやりとりも、不思議と気にならないくらいに互いの距離は縮まりつつあった。

「変わらないな、楓。芯の部分は前と変わってない」
「それはお互い様ではないですか? 要さんだって……あ」
「俺は変わっ……なんだ?」

 急に何か思いついたように言葉を止めた楓につられ、俺も言葉を止める。

「つい嬉しいのとホッとしたのと、あと懐かしいのとで忘れちゃってましたが、私、貴方に買われたんですよね?」
「……ああ、まあそういうことになるな」

 そういうこと、自分から言うか?
 事実とはいえ自分から自分の立場を貶めるような発言をする楓に苦笑する。

「だったら、『ご主人様』って呼んだほうがいいですか?」
「……」

 しかも急に「あっ」って顔をするから何事かと思えば、そんなことで……。

「……好きなように呼べばいいんじゃないのか? 俺は別になんて呼ばれようと構わないが……」
「どうしてですか? 今までの人は、そういうところにこだわりを持っている人が多かったですけど」

 ……確かに多いだろうな、と思う。
 こんな趣味を持っているのは、大抵自尊心の塊のような奴らだろうし。

「呼ぶ側の気持ちがなきゃ、どう呼ばせて悦に入ったってただの間抜けだ」

 反抗的な奴隷を調教しているのなら、対象に無理やり「この人が主人なんだ」と刷り込ませるために言わせる場合もあるが……。
 それはあくまで手段であり、目的ではない。

「だから、さん付けでも構わないし、なんなら呼び捨てでも俺は気にしない。加えて言えば、タメ口でしゃべろうが、反抗的な態度をとろうが、構わない。あまり酷いとさすがに教育はするがな。……まぁ結局のところ、相手の人となりを見て、自然と自分から相応しい態度をとるようになる。人間なんてそんなもんだろ」

 実際、オーラのある人間の前では、誰しもが畏まってしまうもんだ。
 だから別に、態度を強制するつもりはなかった。

 ……オーラという点では俺もまだまだ三流以下だが。

「……それもそうですね」

 黙って聞いていた楓は、うん、とひとつ頷くと、言葉を続けた。

「ではやはりご主人様とお呼びすることにします。私が貴方を主人としてお慕いしているという意思表示と、……貴方を『ご主人様』として繋ぎ止めるために」

 あくまで自分は奴隷の立場にある、と強調するような言い方だ。

 ……俺が一線を越えることは、楓にとって益ではないのだろうか?
 楓の言葉を前に、そんなことを考える。

「何でそんなに主従関係にこだわるんだ? 俺が言うのもなんだが、お前の言っていることは、他の奴隷達からするとせっかくのチャンスをフイにしているようなものだ」

 考えを引き出すために一般論を持ち出してみると、楓は少しだけ困ったような顔をする。

「変なとこで、意気地無しなんです、私」

 視線を逸らしながら、どこか独白するように、そう言う。

 それは、誰に対してなのか。

「相手を束縛したくない。……されるのはいいんですけど。好きな人の重荷になりたくない。私なんかでいいのかなって、そう思っちゃう。逆効果だって分かってはいるんですけど」

 その話し方は、内容は、表情は、声色は、それだけみればまさしく恋する乙女のそれだ。

 過酷な生活の中で、よく失くさなかったものだと感嘆する。

「それになんか矛盾してますよね。恋人として束縛はしたくないけど、貴方を失うのは怖い。だから、せめて『ご主人様』として、貴方を私へと繋ぎ止めておきたい。……あれ、これって結局束縛してることになるのかな。なんだか、自分でも何言ってるのかわかんなくなってきちゃいましたけど」

 あはは、と明らかに空元気と分かる笑い声を上げ、そして少しだけうつむく。

「……」
「……面倒くさい、ですよね」
「ああ、まったくだ」

 少しだけ肩が震えたが気にしない。

「何度も同じようなやり取りを繰り返させるな。それに、さっきの問いかけも無しだ。お前の好きにすればいい」
「……」
「お互い好き合った者同士だろ。いらん心配をするな。……お前が、たくさんわがままを言い出すくらい、一緒にいてやるから」

 こつん、と頭が胸に当たった。

「……」
「……」
「……やっぱり、大好き」
「……」

 今度は泣いてはいないようだったが、少しの間頭を撫でてやる。

「……」
「……」

 時間が止まったかのような森の中。

 さああぁあぁあぁ……。

 聞こえてくるのは森が奏でる自然の音と。

 ぐぅぅぅ~~~。

 腹が奏でる自然の音。

「……」
「……」

 俺は、いつからお約束人間になったんだ?

「……ぷっ」

 見ればシリアスモード全開だった楓にまで笑われていた。

「……楓」
「……あ」

 ゆらり、と楓と向き合う俺。

「だ、だってっ……あんな……!」
「……」

 必死に弁明しようとする楓を追い詰める。

 ……今なら火でも何でも出せそうだ。主に顔からだが。

「ごっごめんなさいっ! でも……あははははっ!」

 我慢の限界といわんばかりに腹を抱えて笑い出す楓。

「お仕置きだな……楓……」
「きゃ~っ! お許しを、ご主人様~っ」

 ひらりひらりと舞いながら、おどける楓。

「……俺をコケにした罪は重いぞ!」

 実際のところ別に怒ってなどはいないが、その場のノリと、まぁ恥ずかしさも相まって、即席の演者になりきる。

「さぁ追い詰めたぞ。おとなしくしろ」
「許してください~! あんなの我慢するの無理ですよぉ……」
「まだ言うか。問答無用だ、とりゃっ!」
「……きゃっ」

 じゃれてるうちに、思わず正面から楓を押し倒す。

「あ……」

 視線の下、毛足の短い草むらに倒れ込んだ楓としばし見つめ合う。
 本来ならここは、「わ、悪い……」とか何とか言って、お互い気まずくなる場面なんだろう。

 だが。

「あいにく俺はそこまでピュアじゃない。やることはやらせてもらう」

 お約束を何度も続けるほど俺は青春真っ盛りの少年でも恥知らずでもない。
 潔く、楓の股間に手を伸ばす。

「……あっ! 今は」
「……お」

 そこには、男の俺には馴染みのソレが、半勃起した状態で鎮座していた。

「そういえばお前、ふたなり……だったな」
「……はい」

 会場での責めが思い出される。
 そういえば巴は、楓のことを人工物と言っていた。
 仕事先の社長の娘の股間を調べることなんかあるわけないが、もちろんあの時にこんなものは付いていなかっただろう。
 さっきは楓のことを変わらないと言ったが、変わってしまっていることも、やはりある。

「確か、あの会場でも結構きつく責められていたな」
「そうですね。……でも、いつもあんな感じですけど」
「……あれから、本当に一度も射精させてもらってないのか?」

 コクン、と頷く楓。

「よく今まで平気な顔してたな。辛くはないか?」
「……辛いですよ、どうしようもなく。今すぐにでも射精したいくらいに。でも、我慢するのも、させられるのも、慣れてますから」

 同じ器官を持つ者として身震いするようなあんな責めを受けたことはもちろんないが、感覚として辛いのだろうとはわかるので、素直に感心した。

「……見せてくれるか?」

 いくら主従の関係があるとはいえ、少しは嫌がるかと思ったが……。

「……分かりました」

 素直に聞き分けてくれて助かった。

 なるべく楓には、命令で動いて欲しくない。
 最終的に望むのは、自主性だからだ。

「……どうぞ、ご検分ください」

 やはり性的なことになると、これまでの経験がにじみ出るようだった。
 若干震えながらも、ワンピースの裾を持ち上げ、俺の目の前にソレをさらけ出す。

「こいつか……」

 まだ半勃起状態のソレは思っていたよりは小さく、せいぜい俺の完全勃起より少し小さいくらいだった。
 だがそれでも、根元に食い込むゴム製の拘束バンドはしっかりと役目を果たし、すでにペニスを赤黒く染めあげている。

「……ずっとこのままなのか?」
「はい……。それにこのゴムが外されない限り、これ以上萎えてしまうこともありません」

 ずっと勃起状態を強制させられるのは、どんな気持ちなんだろうか。
 ずっと興奮状態のまま、射精できないのはどんな気持ちなんだろうか。

「あふ……ぅ……」

 俺に見られて興奮してきたのか、空気の流れさえも敏感に感じ取ってしまうのか。
 そう言う間にもペニスは膨張を続け、常識的だったそのサイズはやがて会場で見たような、臍まで届く大きさに成長した。

「これは辛いだろうな……」

 ギチギチと黒いゴムのベルトが軋み、多少伸び縮みするとはいえ強烈に食い込むせいで、ペニスは見たこともないくらい局所的に膨れ上がっていた。

「興奮してしまったのか」
「……はい。ご主人様に見られてると思うと……」
「悪いな。……だが、嬉しいな」

 抱き寄せ、俺の胡坐の上に乗せる。
 抵抗はなかった。

「……さっきの話じゃないですけど」
「……?」
「……わがまま、聞いてもらいたいです」
「……なんだ?」

 請うような視線で俺を見つめる。

「射精の、許可をいただけませんでしょうか?」

 あれから一度も放出していないだけあって、楓のペニスはビクンビクンと空打ちのような動きを続けている。
 触れればすぐに暴発してしまいそうだ。
 零れ出した先走り汁が、テラテラと亀頭をコーティングする。

「射精、したいか?」
「……したい、です」

 いつの間にか楓の表情は、主人の情けを請う奴隷のソレへとすり替わっていた。

「……わかった。出させてやる」

 言ってから、本当に軽く握ってやる。

「~~~~!!」

 それだけでも敏感に感じてしまうらしく、必死に唇を噛んで嬌声を抑えていた。

「お前、薬がないとろくに感じないんじゃなかったのか?」
「……それは、ただの演技、です。普段は、必死に抑えて、ましたから。あの薬、は、特別、酷いだけ……です」
「そうか……」

 すでに息も絶え絶えな楓を見ながらも、もう一度、今度は裏筋を軽く撫でてやる。

「やぁあっ……!」

 今度は声を抑えることが出来なかったのだろう。
 それでも、強く手を握り締め、必死に堪えている姿が目に入る。

「本当はこんなに敏感なんだな」

 続けて、ペニスの表面をカリカリと爪で擦り上げる。

「あうううぅううっ!!」

 軽くイッたのだろうか、楓の身体がビクビクと震える。
 ペニスも、ビクンビクンと射精の動きをする。
 だが、本来出るはずのものは、出ない。

「ひぐっ……あうぅ……出ないよぉ……」
「あの薬はないが……俺に対しては演技をする必要がない。……そういうことだな?」

 カリ首を指で作った輪で上下に強く擦り上げる。

「そっそうですぅううぅぅっ!! ごしゅ、ごひゅいんひゃまだけはぁああああ!!!」

 いきなり強すぎる強すぎる刺激に、悲鳴のような声が上がる。
 射精はしていないとはいえ、一度イッたせいかさらに敏感になったようで、呂律も回らなくなるほどきつくなってきたみたいだった。

 まぁアレだけ責められて放置されていたんだ、少し触っただけでも再燃してしまうだろう。
 単純に、楓がすごく敏感だということもあるだろうが。

「よかったな。もう演技する必要もなくなって。存分によがり狂って、気持ちよさを貪れるな」

 そんなことをいいながらも、次は鈴口を責めはじめる。
 漏れだしたカウパー氏腺液を塗り広げ、亀頭を巻き込みながら擦り上げる。

「はひいいいぃいぃ!! よ、よかったでしゅぅうぅっっ!!!」

 掻痒感にも似た強い快感に暴れる楓の身体を押さえつける。
 鈴口を縦に押し潰し、くぱぁと穴を広げる。
 その中に、人差し指を無理やり突っ込んだ。

「ぎゃひぁあぁあぁあああああっっ!!!!」
「今お前は、どんな気持ちだ?」
「あああぁぁぁぁあああああぁああ!!!!」

 裂けはしなかったが相当痛いのだろう。
 獣のような叫び声を上げながら、それでも快楽は得ているようで、今までの組織での調教の成果が窺い知れた。

 とはいえ返事がなかったので、お仕置きだといわんばかりに突っ込んだ指を立てて尿道内を爪で擦る。

「あがあああぁああっ!!」
「どんな気持ちだと聞いているんだ」
「うぅぅえ、うれひいですうぅぅう!!」
「どうして嬉しいんだ?」

 ガリッ、と抉るように尿道内を擦る。

「ぎゃっあああっ!! みいぃ、みっともなくよがれるからですうううぅっ!!」
「それと?」
「もう、もうひゅぐっううぅしゃせっしゃせいぃいい! はしたなくしゃえいできりゅからぁあああっぁ!! またぁ! ひぐぅぅううっぅうう!!!!」
「なるほど」

 ゴシュゴシュと竿を擦り上げ、尿道へのピストンも同時に行う。
 おそらく何度か擦るだけでイッてしまうであろう敏感なペニスで、楓は何度射精封じの苦しみを味わっているのだろうか。

「であいいぃいでなひいょっおおぉおぉ!! だひゃへてうらはいぃいぃいぃ~~~!!」

 それでも楓はその表情から、その声から、確かに悦びの色を滲ませていた。

「それ、それにいいぃ!!」
「ん?」
「ごひゅいん、ごしゅひんさまにあえたからぁああぁぁ!!」

 楓の目からこぼれ落ちる感情は、きっと素直に受け取っていいんだろう。

「ああ、俺も嬉しいよ」

 そして俺は尿道に入れた指のピストンをより激しいものにし、竿を擦っていた手で根元にあるゴムバンドを外しにかかる。

「今まで頑張ったご褒美だ。存分に吐き出せ」

 バチン!
 という音と共にゴムバンドが外れ、空いた手で竿を激しく擦りながら尿道を責める指を抜いた。

「あぎいぃいいいぃ!! で、でりゅ、へいえきでりゅううううぅうぅぅっつぅっぅ!!!!」

 ビュルッ!
 ビュクンッ! ビュピュッ!

 ここに来て一番の嬌声を上げながら、楓がようやく絶頂を手に入れる。
 まるで水鉄砲を思わせるくらいに勢いよく放たれた精液は、辺りを白く染めながらたっぷり30秒は大量に吐き出され続ける。

「ぎぼちいいぃいぃぃよぉおおっぉおお!!!! よひゅぎてひんじゃうぅうぁああまたひぐぅうう!!」

 勢いをなくしたあともドクドクと固形に近い精液が漏れ出すように出続けていた。

「がはっ……はぁーっ……はーっ……はぁあーっ……」

 漏れ出し続ける精液は重力に負け、パフェのように楓のペニスをデコレートしていく。

「随分出したなぁ……まぁ当然か」
「はひぃー……ふぅぅ……はー……」

 しばしの間荒い呼吸を続けながら放心状態になる楓。
 おそらく何十回と溜め込まれた、本来得られたはずの射精の快楽を、一度に味わうのはどれほどのものなのか。

「はあうぅ……はぁあ……ひ、ひああへ……。ひあわしぇでしゅ……ごひゅいんしゃま……」

 それは気の狂うような射精封じに耐えた者のみが得られる、せめてものご褒美なんだろうと思った。

▼

「はぁ……はぁ……は、ふうぅ……あっ!」

 大量の精液をぶちまけ、全身真っ白になった楓。
 周囲には、もともとあった緑を隠すように白が占領していた。

 もちろん、楓を膝の上に乗せていた俺もしっかりデコレートされていた。

「も、申し訳、ありません! すぐに、お清めいたします、から……!」
「ああ、頼む……」

 未だ荒い息も納まらぬ中、すごい勢いで俺の上から退くと、俺の顔や服に掛かった精液を自らの舌で舐め清め始めた。

「じゅる……ちゅ……ん、んくっ……!ふう……」

 ある程度すすって、溜まった分は飲み込む。
 そうしてしばらくの間、楓のしたいようにさせる。

「ぅうん……ずずずっ……こくっ……まだ、こんなに……」

 大量に吐き出したことが恥ずかしいのか、頬を染めながらも懸命に啜り取っていく。
 俺が出したものではないとはいえ、精液を啜り、コクコクと飲み下すその光景は大変に劣情を催すものだった。

「ごくんっ……! はぁ……あの……もうこれ以上は……」

 見ると、表面の精液は全て楓が飲み込んだようだが、僅かに服に染み込んでしまった分まではさすがに無理だったようだ。

「いいさ、どうせお前も洗わないとだめだろう。誠意は見せてもらったから」

 ねぎらいの意味もこめて、精液でべとべとになった髪の毛に構わず頭を撫でる。

「あ……」
「……ほら、何のためにそこに泉があるんだ。そのまま飛び込んじまえ」

 当初の目的とは違うが、都合よくそこにある泉の中へ服を着たまま飛び込んだ。
 多少冷たかったが、水は澄んでいて気持ちがいい。
 雪の降る季節でなくて良かったと、このときばかりは思った。

「……はい」

 楓も最初はどうしようか迷ったみたいだが、結局同じようにチャポンと泉に浸かった。

「あ……気持ちいい……」

 火照った身体には少しひんやりした水がちょうどいいのだろう。
 しばらく身体の熱を取るように湖の中を漂う。
 楓の身体からは、白い塊がいくつも水の中を彷徨い始めた。

「せっかくきれいな泉なのに……申し訳ないです」
「気にするな。害はないさ。……それより、ちゃんと綺麗にしておけよ。あの車、俺のお気に入りなんだからな」

 少し笑って「はい」と返事をする楓に頷きをかえしつつ、楓に比べれば被害軽微の俺は先に洗い終えて泉から上がり、乾燥の為の火をおこすことにする。

「あっ、私が……」
「いいから洗ってろ」

 都合のいいことに周囲に散らばる乾いた枝を拾い集め、車の中にあったアルコール度数の高い酒をぶっかけライターで火をつける。

「あっちち。くそ、固定燃料でも買っときゃよかった」

 気化したアルコールに引火した火に襲われつつも、何とか火をおこす。
 そのころにはすっかりきれいに、ずぶ濡れになった楓が泉から上がってきていた。

「ほら、冷えるからここに来い。あと服も脱げ。別々に乾かしたほうが早い」

 そういいつつ俺も下着以外を脱ぎ去り、よく絞ってからそばの木の枝にかける。

「……」
「……今更恥ずかしがる間柄か? あんだけグチャグチャにペニスいじられ――」
「そうですね」

 それ以上言わせないとばかりにとっとと脱ぎだした楓が子どものようで可笑しく、俺は少し吹き出した。

「もう……」
「はは……ほら、貸せ。絞ってやるから」

 下着なんてつけていない全裸の楓からワンピースを受け取り、限界まで絞る。
 しわになりそうだが所詮もらいものだ。構わないだろう。
 ……さて、あとは乾かすだけだ。

「ほら、火にあたれ。乾かすのもだが、身体を暖めないと風邪ひくぞ。……タオルすら準備してない俺に言えた義理じゃないが」

 今が冬じゃなくて本当に良かった。
 でなけりゃ、凍え死ぬかべとべとのまま車に乗り込むか、どちらにしろロクな事にはなってなかったろうな。

「……あの」
「なんだ。タオルだったら悪かったな。だが普段から車にタオルなんて置いて」
「いえそうじゃなくて。……ご主人様、その、パンツ……脱がないのかな……って……」

 あんなことをしたあとなのに、パンツくらいで恥じらいを見せるのは、やはり男と女の違いだろうか。

 ……いや、でもこいつ恥ずかしがりながらも、俺にパンツ脱げって言ってるんだよな。
 それは恥じらいがあるのかないのかどっちだ?

「……大丈夫だろこれくらい。はいててもすぐ乾く」
「……そんなのずるいです」
「……なにがだ」
「私だけ、何も着てないです」

 ようするに、一人だけ全裸なのが気に喰わないのか。
 ……こいつ本当に奴隷か?

「……分かったよ。……ほら、これでいいか?」

 つくづく甘いな、俺も……。

「……あの、ご主人様……それ……」
「ん……?」

 見れば、完全に縮こまって可愛らしいサイズになった楓とは違い、俺のペニスは適度に存在を主張していた。

「……。ああ、まぁなかなか刺激的なことが起こった直後だしな。今もお前のキレイで背徳的な身体を眺めているわけだし。これくらいは当然だろう」

 少し言い訳がましく聞こえるのは何故だろう?

「ご主人様……」

 言いながら俺の足元へ跪く楓。

「おい……」
「ご奉仕させていただいても、よろしいですか?」

 上目遣いのその表情に、不覚にも少しドキリとした。
 というか、これが目的だったのか?

「……まぁせっかくだしな。ではお願いしよう」
「はい。ありがとうございます」

 そういって楓は捧げ持つように俺のペニスに手を添え、やんわりとしごきながらその先端を口に含む。

「……くっ」

 冷えていたソレが温かい粘膜に触れ、思わず声が出る。

「ご不快でしたか?」
「いや、大丈夫だ。続けてくれ」
「……はい」

 やがて確かめるようなフェラチオは、喉の奥まで突き入れるディープスロートに変わり、完全に勃起したペニスに楓は何度もえづきながら、頭を股間へ押し付けるようにくわえ込んでいた。

「えぐっ……ごふっ……ん……ふうぅ……!」

 涙が出るほど咽頭反射を繰り返し、必死で鼻から呼吸を確保し、涙を流しながら、それでもペニスを受け入れ続ける楓が愛おしく、たくましく、俺は気遣いの言葉を飲み込んだ。

「んっ……そろそろ出るぞ……」
「ほぶっ……ん……ふぁい……このまあ……だひへ……くらはい……」

 楓の言葉に甘え、このまま出すことにする。
 俺は楓の頭を掴み、そのまま腰を使ってピストンを開始した。

「おごぉっ!? ごあっ……おぅっ……!」

 初めは驚いた様子の楓だったが、すぐにそれも治まり、今度は先ほどとは違い俺のなすがままにペニスを受け入れ始めた。

 ゴフッ……ゴポッ……!

 楓の口から、本当に膣内に挿入しているような粘液の泡立つ音がする。
 あらためて、本当に調教されてきたんだな、と実感する。
 まるで物、オナホのように無抵抗に喉を犯されている楓を見ると、否が応にも興奮度は高まる。

「くっ、出すぞ……!」
「ろう、ぞ……んむっ……!」

 ビュっ! ビュルッ!

 先ほどの楓と比べれば少量だが、それでも結構な量の精液が楓の口の中に注ぎ込まれる。

「んくっ……ごく……ん……」

 その全てを一滴もこぼすことなく、楓は全て飲み干して見せた。

「ぷあっ……はふ……ご主人様、精液を恵んでくださりありがとうございました」

 そして、深々と土下座して感謝の言葉を紡ぐ。

「ああ。俺も、気持ちよかった。ありがとな」
「……はい」

 そういって頬を撫でてやると、本当に嬉しそうにその手に頬擦りをした。

▼

「……さて、服もそろそろ乾いただろ。さっさと着替えて帰るぞ。俺はいい加減腹が減った」
「私も……です」

 枝にかけてあった服もすっかり乾き、ワンピースを楓に投げ渡してから自分の服をとる。
 そうしてズボンをはいていると、

「私、ワンピースだけでよかったかも……」

 それ一枚だけなのでさっさと着替え終わった楓がつぶやく。

「何でだ?」
「だって、今のご奉仕でイッちゃって……。お股、グチョグチョ……」
「洗って来い」

 すっかり暗くなってきた森の中、洗って濡れた楓の秘所を、冗談半分で幼児のオシッコポーズのまま焚き火で火責め、もとい乾かしながら、恥ずかしがる様子を楽しんだ。

 その後すっかり怒ってむくれた楓を乗せて沈黙の帰路についた。

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