薫陶

「貞操帯なんて初めて見ました」
「ああ、そっか。使ったことなかったっけ」
「パソコンの画面越しには見たことありますけど……」

 この町は本当に田舎で、何もないところだと小さい頃から思っていたけど、実際に大きな都会の街に繰り出すとますますその思いが強くなった。
 そりゃあ申し訳程度にコンビニやスーパーや小さな町工場くらいはあるけど、でもそれだけで、そんなものはどこにでもあって。あんなに背の高いビルや、迷子になりそうな地下鉄や、デートに使えそうなランドマークなんてものはない。
 あるとすればせいぜい毎年同じ景色を見せる水田や畑ばかりで、別にそれが嫌なわけじゃないけど多少退屈な風景ではある。

 そんなわけだから家なんかもポツポツといくつか点在するばかりで、モンゴルの大草原とはいかないけどなかなかに見晴らしだけは良い。
 夜は夜でその数少ない家から漏れ出る灯りか、遠くにあるロードサイド店や山の上のスキー場の灯りくらいしかなくて、空を見上げると教科書に載っていた何とかの大三角も綺麗に見える。
 ただロマンチックなのは上を向いている時だけで、街灯もまばら、というか農道にそんなものがあるわけもなく、人気のない夜道を一人で出歩くのは勇気のいる行為だったりする。
 まぁこんな田舎に住んでいる人間はそんなこと気にしたりはしないけど、最近は近くで空き巣が出たとかいう話を聞いたし、根が臆病者の私は、とてもじゃないけど夜一人で外なんか出歩けない。

 でも、たくさんの灯りで溢れていたあの街も、たくさんの人がいたのにちっとも安心できなくて。
 何かに怯えながら歩くという意味では、結局は見えているか否かの差でしかないのかもしれない。

「じゃあ今度買ってみようか。貞操帯。……あ、でもサイズ測ったりしないといけないんだっけ。既製品でぴったり合うと楽なんだけどなぁ……」
「安い買い物でもないですしね」
「まぁ現時点では出番がないだろうし。将来的にはって感じかな」

 ただでさえ夜は早く寝てしまう高齢者及び農業従事者の多い地域だ。日付が変わろうかというこの時間帯に外を出歩く人などまぁいない。
 たまに抜け道として利用する車が通り過ぎることもあるけど、それも一時間に一台いればいいほうだ。
 まして水田や畑の隅にポツンと建つ小さな物置小屋なんて、よほど酔狂な人でも近寄らないんじゃないだろうか。
 少なくとも私なら意識することすらしない。

 そんな所有者以外用事のない小屋に、密かに作られた地下室なのだ。
 私たちがいくら日常ではしづらい会話をしていたとしても、それを知る人間や咎める人間なんているはずもない。

「まぁでも、楽しかったのね。旅行自体は」
「はい。そのお店以外にもいろいろ巡りましたよ。この間完成したタワーとか」
「ああ、何とかツリーってやつね。そういえばまだ実物見たことないなぁ。あたしも行ければよかったんだけど、家のほうがうるさくてさ」
「また集会ですか」
「そ。本家もいろいろ大変なのよ」

 いかにも大変だという表情を作りながら、本当に大変だという本音を少し混ぜて彼女は言う。
 普段、『表』では見せないような腕組み仁王立ちの格好で溜息を吐くその姿。それは力のある細い目にスッと鼻筋の通った綺麗な顔立ちから想像するような、冷たそうと思われても仕方ない見た目に反して、砕けた雰囲気を隠そうともしない『隙のある』ものだ。
 私はそんな柔らかい彼女が好きだった。
 なにより、彼女がそんな姿を見せる数少ない相手の一人だという、自尊心をくすぐるような立場にいられるこの状況こそが、私にとってとても大切なものになっていた。

「その分、仕事は終わらせてきたから。しばらくは時間取れるわよ」
「それはよかったです」
「あなたとしてはあたしなんか忙殺されていたほうがよかったんじゃないの?」
「本気で言ってます?」
「……冗談」

 とりあえずは時間を気にする必要はない。
 そもそも私たちが今いるこの小屋だって彼女の持ち物で、それはつまりこの辺り一帯の土地が彼女の持ち物で。
 光すら漏れないここが見つかるわけもないんだけど、仮に見つかったところで大地主の娘である彼女に意見できる人間なんてこの町にいるはずもなくて。
 私だって今でこそこうやって彼女とお話しているけど、もし彼女の家に『雇われ』なかったら、この町の大部分の人間と同じように声を掛けることすらできていない。
 そういう意味では、私は幸運だったのかもしれない。

「……さてと」

 空気を換えるようにポツリ。彼女は呟く。

「とりあえず、出してあげましょうかね」
「いい子にしてましたか?」
「いつも通り、ね。あなたもそうだけど、この子も本当にいい子よ」
「……はっきり言われると、少し照れます」
「付け加えるとすれば、少しばかり罪悪感を覚えるほどの、なんだけど」

 少し小さくなった最後の声、それをさらに掻き消そうと鍵の音。
 手のひら大のリングに連なるそれらが、ジャラリジャラリと歩を進める彼女の足音とでも言わんばかりに狭い地下室に響く。
 消えかかる言葉尻を追いかけるように、私は正座していた身体を起こし彼女の後ろへ。

「何日目でしたっけ」
「あなたが旅行に行く前の日からだから、六日目かしら」

 振り返らず答える彼女から半身ずらして見える先には、二つの檻。
 特に何の変哲もないその檻は、正六面体の五面が格子に覆われ、床と接する一面だけが平らな板面になっている。
 小振りとはいえそれが頑丈な作りなのは見れば分かる外観。檻と言えば真っ先にペットを飼うそれを思い浮かべる私にとって、物珍しさとともにどこか恐怖を覚えるフォルムでもある。
 猛獣ですら安心して入れておけるようなこれを見て、犬や猫を入れる簡易な檻と同等の強度だと連想する人はいないと思う。

 どちらかと言えば刑務所を思い起こさせるその檻は、事実、人間を閉じ込めるために作られたものに違いなくて。
 そして現在進行形で人間を閉じ込めることで、まぎれもなく檻としての機能を十二分に発揮していた。

「こうして見ると、改めて背徳感に浸れるわね」

 立ち上がれない程度の高さ。横になるには窮屈な幅。
 そんな限られた空間の中に囚われた、少女。
 少女と分かるのは、その育ち切っていない控え目な胸と、隠すこともできず露わになった股間部が目に入るから。

「本当、可愛いわよ、あなたの妹」

 それと、その少女が、正真正銘私の妹だから。

「私もそう思います」
「……。どちらの意味で?」
「どちらの意味?」
「いえ。優等生の回答ありがとう」

 しばらく振りの妹の顔は、アイマスクによって大部分が隠れて見えない。
 両の手首、足首に巻かれたベルトは、枷となってそれぞれ右は右、左は左というように、手首と足首をそれぞれ繋がれ、拘束されている。
 枷の周辺の肌が赤くなっているのが経過した時間を想像させて、小刻みに震える様子が連続する不自由な姿勢への屈服を感じさせた。

 肌の上には汗がにじみ、室内を照らすLEDの灯りをてらてらと反射する。
 暑くはないはずの地下室を鑑みるに、それは長期間の拘束による脂汗なのだろうと思う。
 妹のようにまだ学校に通うような年齢の子ならば、汗をかいた身体は健康的なイメージを抱きそうなものだけど。目の前のこれはただその裸体を淫靡に飾るエッセンスにしかなっていなくて、その幼児体型な身体と合わせて酷く背徳感を誘う容姿になっていた。

 隠すべき秘所は大きく開かれていて、私と同じく生涯毛の生えることのない恥丘が、周囲と同じように白くハイライトを飛ばす。
 『育てている』と聞いているクリトリスはキャップにより外気に触れず、真空に近いのか限られたそのスペースの中でギチギチと肉を膨張させている。
 その下には普通なら病院でしか見ないようなカテーテルが通り、たまにちょろちょろと管の中を黄色い液が通ることから、尿道に刺さり排泄を管理されていることが分かった。
 カテーテルの先は檻の側面、妹から見て左側へと出ていき、檻の横に置かれた私にはよく分からない機械群のうちの一つへと繋がっている。きっとこの中に溜め込まれているんだろう。その機械群からはさらにいくつかのコードが檻の中に向かって伸びていた。

「……。……、…………」

 近寄って初めて気付く、小さな口から漏れる吐息。
 口枷なんて咬まされていないのに、そこから聞こえるのは助けを呼ぶ悲鳴でもなければ、凍えるような恨み節でもない。

「……じゅう、します。わたし……は、おもちゃだ……から……。ご……めい、れい……どおり……なんでも……」

 うわ言のようにブツブツと呟くその正体を、私は知っている。
 それを発生させているのは妹の耳に入れられたイヤフォンで、さらに言えばそこから聞こえてくる催眠音声だ。

 催眠なんて眉唾ものだと、以前の私だったら思っていた。
 テレビで見るようなショウとしての催眠術しか見たことのない私にとって、それはあくまでパフォーマンスであり、そういう『娯楽』だと思っていた。
 だけど、どんなことにも『本物』というものはあって。
 そしてそれは私にとって、妹にとって意外に身近に存在していて。
 つまりは目の前にその術者がいて。

 無垢で彼女に懐いていた妹は、それはそれは御しやすい獲物だったろうと思う。
 奇しくも姉妹揃って『雇われた』当初、勝手も分からず、周りは知らない大人ばかりで。姉である私ともしばらく離れて生活していたから、唯一の知人で明確な味方の彼女に懐くのは必然だったと言える。

 私は彼女からの話でしか知らないけど、『それ』はすぐに、だけど焦らずゆっくりと、始められたらしい。
 彼女の家に『雇われた』人間は学校にも行かないから、幼い妹は義務教育代わりに彼女に教えを頂いていた。
 学校で教わるような、常識、当たり前。それに少しずつ、彼女の恣意的な思想を混ぜ込んで。
 存分に構築された信頼感と依存心を媒介に行われる、術者に都合の良い心の再構築。教育という名の洗脳。

 それは、権威ある人間の論述のように。どこかの国のプロパガンダのように。
 それは、まだ幼い妹にとっては抗い様のないもの。根幹から塗り替えられ、『本当』になるもの。

 決して焦らない。少しずつ、少しずつ。
 頼るもののない心に、それは宗教上の神のように。
 言葉が絶対になる。常識が改変される。

 術者に、絶対服従するように。思うがままになるように。
 何層も何層も、ミルフィーユのように暗示を重ねて。
 トレーニングを積んで何かができるようになるように。
 何層も何層も、バームクーヘンのように催眠を重ねて。

 それを、あの日から今まで五年間。休みなく。ずっと。延々と。妹は作り変えられていった。取り返しのつかない状態まで。
 いや、創り上げられていた。一生付き合うその価値観を。
 もはや創られた今こそが妹にとって『本物』で、『元本物』はどこにもいない。

 いや、もしかしたら、心の奥底、光の届かない深い場所で、その人格は眠っているのかもしれない。
 だけど『その妹』が出てくることは、この先きっとない。
 定期的に催眠音声を聞かないと極度の不安を抱く暗示を埋め込まれた妹は、今目の前で見せているように、たとえ誰かの命令がなくても、自らイヤフォンに手を伸ばし、その催眠をさらに深く刻み込む。
 囚われたのは、アリジゴクか底なし沼か。決して逃れることのできない催眠のループの中に、妹はいる。
 妹は一度死に、そしてもう一度生まれたのだ。

「そろそろ『今日の分』が終わりそうね」

 彼女の声からしばらくして、妹の口から漏れる声が、途切れた。
 今日もまた妹は一段とその刻印を身に深く刻み、自らの手で外に繋がる出口を破壊していく。

 その妹が忠誠を捧げる先、飼い主様たる彼女は、迷う様子もなく鍵束から一つの鍵を手に取り、妹を閉じ込める檻の扉にぶら下がる堅牢な錠を外す。
 ガチン、と重く響く金属音。ゴスン、と悲鳴を上げる床。微かにキィと鳴いて、扉は開かれた。

「元気にしてたかな~」

 誰に聞かせるでもなく、彼女は呟く。
 あえて言えば妹に聞かせる言葉だろうけど、イヤフォンをしたその耳に届くはずもない。
 それでも彼女は私の憶えている限りこういった言葉を欠かすことはなくて、おそらくそれはもはや『手順』の中の一行為に過ぎなくて。
 隠している宝物に久しぶりに対面するときに思わず口にしてしまうような、様式美とでも言えるものなんじゃないかと勝手に思っている。

 そんなことを考えている間にも、彼女は粛々とその拘束を外す。
 壊れ物を扱うように丁重に、愛おしそうに、優しく。
 そうして拘束具を外される感覚が、今妹が抱いている感情が、私も少し分かる。

 ビクッと震えたのは、火照った身体に冷たい指が触れたから。
 身体中が弛緩したのは、拘束が外される感覚に安堵したから。
 口が笑みを作るのは、彼女に、飼い主様に『会える』から。

 アイマスクを外された妹の視線は定まらず、笑顔のまま呆けている。
 両手足の枷が外される間も、暴れもせずじっとしていて、尿道に刺さるカテーテルを外された段階でようやくこちらの存在に気付いた。

「飼い主様! それと、お姉ちゃんも!」

 少し掠れ気味だったけど、生来の元気の良さからくる楽しげな声が室内に響く。
 そこに負の感情はない。
 むしろ飼い主様である彼女と久しぶりに顔を突き合わせるのが嬉しくて、カテーテルを外してもらったばかりの尿道から、少量ながらおしっこを漏らしてしまうほどだった。

「元気そうね。どこか辛いところはない?」
「うーんと、大丈夫! あ、でもお尻がちょっと痛いかも」
「分かったわ。あとでマッサージしてあげる」
「わーい」

 お互いの口から出るのは、ただ仲の良さを表す言葉ばかり。酷い目に合わせていた人間と、合わされていた人間がする会話じゃない。
 だけど二人にとってはそれこそが普通で、それこそが彼女の教育の賜物で。
 嬉しそうに拘束期間中の感想を報告する妹の姿が、私には哀れに映り、同時に羨ましく映った。

「お姉ちゃんも帰ってきてたんだね」
「うん。夕方くらいにね」
「楽しかった?」
「楽しかったよ。お土産も買ってあるから、また渡すね」
「やった!」
「でも、いい子にしてた子にしかあげないからね」
「えー。ボクいい子にしてたよー? 昨日なんか飼い主様の声を聞きながら、くちゅくちゅなしで犬アクメできるようになったんだから!」
「あら、できるようになったのね。いい子じゃない」
「でしょー?」

 会話に入ってきた彼女に、妹はにへらと誇らしげな笑みを作った。
 おそらく妹が言っているのは、催眠音声に紛れた刷り込みトレーニングのことだろう。基礎調教が済んだ妹は、今はこうして彼女の求める『芸』を勉強中だ。

「じゃあ練習の成果を見せてもらおうかしら。『おすわり』」
「わんっ!」

 この犬の芸を覚えたのも、いつ頃だったろうか。
 元々顔見知りにはベタベタするタイプだったから、初めから犬っぽかったと言えばそれまでなんだけど。
 何せ学校における体育の授業の代わりと言わんばかりに、ドッグトレーニングその他諸々を受けてきたのだ。その所作については熟練競技者のそれのように身体の奥底に染みつき、堂に入った動きだった。
 一生忘れることが無いほど、深く。自然で。当たり前に。

「『お手』」
「わん!」
「『伏せ』」
「わん!」
「『ちんちん』」
「わん!」
「よしよし。ちゃんとできてえらいわね」
「わんわんっ」

 こういうものにプロやアマなんて分け方があるのか知らないけど、もしあるなら妹のそれは間違いなくプロ級だと思う。
 昔、気まぐれに見せてもらったエッチなビデオに映っていた女の人の、毒にも薬にもならないような下手くそな演技とは比べ物にならなくて。妹のそれはもちろん滑稽なんだけども、どこかモノマネ芸の大御所に抱くような、感心し称賛する気持ちすら湧いてくる。
 完成度でいえば、参考資料として見せられた、海外で本物の犬と一緒に飼育されている少年少女たちのほうが上だけど。あそこまで人としての知性を失っていない妹のほうが可愛げがあると思ってしまうのは身内びいきだろうか。

「じゃ、ご褒美」
「わん」

 彼女の手が頬を撫でるたび、本当に嬉しそうにそれに擦り寄る。
 このときばかりは冗談抜きでその身体に犬の魂が憑依しているんじゃないかと思ってしまう。
 そしてコツンと額を合わせた二人は、視線も合わせ、彼女は妹の頭を抱くように腕で覆い、ただ一言。

「『アクメ』」

 と言った。

「わ、う、きゅぅっううううううぅぅ!!!」

 一拍後に響く、妹の鳴き声。
 その表情は彼女の頭に隠れて見えないけど、まだ発展途上の身体がビクビクと痙攣し、『ちんちん』のまま足の爪先がプルプルと震えているのは確認できた。

 宣言通り、妹が『アクメ』している。
 さっき言っていた通り、「くちゅくちゅしなくても」絶頂を迎えている。
 その催眠音声を聞いたことはないけど、きっと彼女の『アクメ』というキーワードがトリガーなんだろう。
 その言葉を聞いただけで、絶頂してしまえる身体になったんだ。その事実に、少し震える。
 彼女はただテレビのリモコンを操作するように命令すればいい。そうすれば妹はその通りの反応を示す。その対応チャンネルが、また一つ増えた、ただそういうこと。とても単純で、恐ろしく惨めな習性。

「ちゃんと絶頂できたわね。えらいえらい」
「わ……ん、んぅう」
「いいわよ、戻っても」
「ふやぁあ、ありがと……ござい、ました」
「気持ちよかった?」
「はぃ、ふわふわしてますぅ……」

 地下室という密室空間。日常から乖離した軟禁生活。長期に渡る調教、洗脳。そういう条件があってのものかもしれないけど。
 妹は確かに彼女の望み通り、人間としての尊厳を放棄する芸を習得した。

 また一歩、妹が玩具に近づいた。
 妹も、彼女も喜んでいた。

「さて、それじゃあ次は貴女ね」
「あ、お姉ちゃんの拘束、ボクにやらせて?」

 そして次はきっと、私。そこに恐れがないといえば嘘になるけど。
 それでも理解している。納得している。覚悟している。
 彼女のことは好きだ。たった一人の家族である妹を見守るのも、私の役目。もはやここ以外に生きていく場所も無い。迷いも躊躇いも、権利すら潰えて。
 私たちは、この世に取り残された私たちは。これからの全てを、彼女に、捧げ尽くすのだ。

 ああ、それはなんて、……素晴らしいことだろう。
 漏れた吐息は、熱く空気を撫でた。

「今日からは本腰入れて堕とすわよ」
「よろしくお願いします。飼い主様」
「次は一緒に犬アクメしようね!」

 そうして私は自ら檻に入り、楽しげな妹に厳重に拘束され、飼い主様に頭を垂れて。

「手間だし、なかなか一朝一夕とはいかないけど。それだけ貴女を好いているのよ。だからこそ、とても素晴らしいものになるはず。人格融合したとき、貴女はたくさんの矛盾をその身に抱えて、バラバラになりそうなほど苦しんで、それでも服従を選ぶ。この子のように盲目的じゃない。反発しあう心が負けて、ボロボロになって。そうやって――」

 朗々と彼女の声は頭の中で乱反射して、単なる音として響き。

「――グチャグチャになった貴女の顔が見たいの」

 その意味を無くす。

「楽しみね。『偽者さん』?」

 やがて彼女の『言葉』を聞いて。聞いて。聞いて。染み込んで。
 急速に意識は覚醒して、そして。

 『本来』の、私が――。

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