雁字搦めの昨日が叫ぶ

 霧下遙華(きりしたはるか)の人生は、母である霧下慈(めぐみ)によって歪められた。
 そして、妹である霧下梨華(りか)によって正当化されている。

「ん……ふ……ぅっ!」

 時刻は午前7時を過ぎたところ。
 冬の澄んだ空気が満ちる静かなマンションの一室で、遙華は一人、声を押し殺していた。

「は……ぁ、ん……ぐ……」

 長い黒髪を真っ直ぐに下ろし、慎ましく唇を噛むその顔立ちは、見る者に清純という印象を与える。少しふっくらとした身体はむしろ女性らしさを強調し。滲み出る、押し倒してくださいと言わんばかりの気の弱さは、異性に劣情を抱かせるのに十分だった。
 そんな遙華は今、上気した息を吐きリビングに白を足していく。立ち上る熱は薄く消え、身体の震えは寒さからか。

「おはよう、お姉ちゃん」
「お、おは、よう……梨華ちゃん……」

 やがて、廊下からの足音がリビングへと辿り着く。同居人である妹の梨華が、気怠い様子で姿を現した。
 その見た目を一言で言えば、活発な美少女だろう。ショートで整えたマロンカラーの髪に、寝間着で隠れてはいるが細身でキュッと締まった身体。背は低いものの、それも彼女にかかれば武器の一つでしかない。少し勝ち気でコケティッシュな顔立ちは彼女の性格をよく表しており、最近は落ち着いてきた、とは担任である先生の談だが、遙華からすれば未だやんちゃな妹だった。

「今、何回?」
「6回……」
「えー!? 全然溜まってないじゃん! 時間ないんだからもっと頑張らないと!」
「う、うん……ごめんね……」

 そんな梨華が、遙華の報告に声を荒げる。妹に叱られる姉というのも情けないものだが、今の遙華にとってそれは些細な問題だった。
 少なくとも今、本当に辛いことは別にある。自分が握っているものと、その格好が原因だ。

「謝る暇があるなら、さっさとその家畜チンポしごきなさいよ!」
「あうっ!?」

 遙華の後ろに回った梨華は、急かすようにその剥き出しの尻へ平手を放つ。容赦ない一撃はバチッと甲高い音を響かせ、白い肌にモミジを作った。
 一糸纏わぬ姿で四つん這いになり、自らの股間に生えたペニスを握る。そして牛や馬のように追い立てられ、その手を早め、自慰をする。そんな哀れな動物が、今の遙華だった。

「あんたはそのぶっといチンポから出る汁しか価値のない家畜なんだから!」

 ふたなり。それが遙華の背負った業だ。
 女性でありながら、男性器を持って生まれたことにより、遙華の人生は歪んだ形で決定付けられた。
 幼い時よりそこにあったその器官が、本来女性に付いていないものだと教えられたのはいつだったか。
 それでも幸か不幸か、遙華が自らの性について悩むことは少なかった。否、悩む余裕など与えられなかった。

「もういい、あたしがやる! 貸しなさい」
「あっ……や……んぁ!」

 業を煮やした梨華が、遙華の手からペニスを奪い取る。そしてまるで牛の乳を搾り取るが如く、容赦なく握り、擦る。

「あ、んっ、あ! あ……ふあっ!?」
「よがってないで、もっと、出して……!」

 吹き零れ始める、カウパー氏腺液。いわゆる我慢汁が、口から溢れる涎と同じように、下を向いた鈴口から床に向かって雫を垂らす。

「あ、ああっ! だ……め、もう……!」

 数分もしない内に、遙華が苦悶の声を上げる。限界が近づいたペニスはよりいっそう硬度と大きさを増し、今にも暴発しそうになる。
 そして、射精までもう一擦り。もう耐えられないと、遙華が身体に力を入れた瞬間。

「っと、危ない危ない」
「うあっ、あ、あ、ううぅ~!」

 発射寸前で、梨花の手は無情にもその動きを止める。
 それは偶然ではなく、明らかに計算された動き。梨華は、最初から遙華に射精をさせるつもりはなかった。

「や……だぁ……」
「はい、落ち着いたでしょ。もう一回いくよ」

 しかし、ペニスを責めることは止めない。開始された手淫に遙華は再び悶え始める。
 先ほどよりもさらに敏感になった怒張は、少し擦られただけですぐに射精への準備を整えてしまう。しかも、自分ではない、妹の手による刺激は新鮮であり、また予測できない動きはもどかしさを越えた興奮を与えてくれる。
 何より容赦のない、荒々しい動きは遙華の被虐心を突き、早々に音を上げてしまう。

「あ、あ、も……ああっだ……!」
「ちょ、もう! 早すぎ!」
「ああああ! や……ああ、とめ……ないで……!」

 それでも、最後まで辿り着くことはない。姉妹ゆえの共鳴か、長い日常ゆえの経験か。梨華はまるで遙華の感覚を全て把握しているかのように、いつも射精寸前ギリギリで動きを止める。
 ごまかしやフェイクも効果がない。巧みな動きに、遙華はただただ翻弄されるだけ。

「もう一回」
「あ、ん! ひあ、あ、あ、あああ!」
「……」
「うあっ……! そん、……も……とおおぉ……!」
「もう一回」
「いぃ、のおおおっ! そ、れ……あ、あ!」
「ほんと、学習しないんだから」
「やあああああああ!? なん……もう……も……ぉ!」

 イキたい。気持ちいい。イケない。もどかしい。つらい。
 手の温もりを離れたペニスが、ビクンビクンと脈打ち、鼓動に合わせて跳ね回る。その度しとどに溢れた我慢汁がつつと流れる。
 イケない。イカせてもらえない。こんなにチンポがおねだりしているのに。頭の中が射精のことでいっぱいになる。

「あああ……」

 いつまで経っても辿り着けない至福の解放。しかしそれは、遙華自身の手による自慰でも同じことだった。
 どんなに射精を望んだとしても。
 瞬間的になりふり構わない獣のようになったとしても。
 遙華は決して射精をしない。否、出来ない。例え、どれだけ自由に自慰に耽けることが出来たとしても。

「駄目。分かってるでしょ。あくまでこれは、あんたの『我慢汁』を溜めるだけの作業なんだから」

 何故なら、求められているのは、精液ではなく、ましてや遙華の快楽でもない。
 あくまで遙華が苦しんだ証である、粘液。射精できると期待して、結局裏切られ続ける、哀れな先走り汁。
 梨華は遙華のペニスの下に置かれた、透明の粘液が溜まったグラスを覗きこみ、量を確認する。

「早く溜めないと、間に合わなく……!」

 このグラスに、いっぱいの我慢汁を。それこそが、遙華に課せられた日課。
 それを達成できなければ、自分は……。
 梨華が、焦りを隠さず喚き散らそうとしたところで。

「何が間に合わないの、梨華」
「あ、お、お母様……っ!」

 タイムリミットが告げられた。
 二人が気付かぬ内に現れた、慈という母親の手によって。

「あ、あの……」
「なあに?」
「ごめ……なさい……まだ……」

 その姿を見て、顔面蒼白で怯える梨華。
 そんな我が子を見て、慈は優しく微笑む。
 微笑みながら、鋭く足を振り抜いた。

「が、は……っ!」
「梨華ちゃん!?」

 その柔らかい横腹に突き刺さる足。ボールのように飛んだ梨華はテーブルの脚に背中をぶつけ、けたたましい音とともに止まる。そして腹を抱えて丸まったまま、幾度か痙攣した。
 遙華が思わず声を上げるが、それを聞く者は誰もいない。痛みに悶える梨華の側に腰を下ろした慈は、ふわふわとした髪を強引に掴み上げ、顔を引き上げる。

「朝起きたら、『おはようございます』。常識よね?」
「あ、……あ、お、は……よ……ござ……んっ……ま……」
「……何あんた。腹蹴られてよがってんの。責め過ぎて脳みそ壊れちゃった?」

 暴力を受け、苦悶の表情を浮かべる梨華。なのに、意志とは関係なく漏れだす悦びの吐息。それを見付けた慈は面白がるように侮蔑を吐き捨て、手を離した。
 梨華の反応は一般的に見て正常とは思えないものだったが、それこそがこれまで受けてきた『躾』の結果なのだと、遙華は戦慄した。

「で、あんたは何してんの」
「ひっ……!」

 梨華への興味を失った慈は、遙華へ向き直り問いかける。
 それは決して威圧的な言い方ではなかったが、遙華は潜在的な恐怖を感じ、怯えを隠せなかった。

「『コップいっぱいの寸止め我慢汁』。あんたの朝の日課よね」
「は、はい……」
「何でまだなの?」

 あくまで慈は優しげだ。優しく微笑み、首を傾げる。
 化粧気のない顔に、ぼさぼさの髪。よれたシャツにジーンズというだらしない男性のような格好。それでもサマになってしまう抜群の美貌と、二人の年頃の娘がいるとは思えない若々しさ。未だに男を手玉に取り喰らいながら生活する魔性の女が微笑めば、同性でもドキリとするような魔力がそこにはある
 だが遙華にとってそれは文字通りの魔性であり、慈はまさに魔女と同義であった。

「あ……の、さむ……くて……」
「寒くて?」
「いつもみたい……に、いか……なくて……」

 そう言う遙華の口調は弱々しい。だがそそり勃つ怒張はそんな遙華の意に反して膨らみを増し、その鈴口から再び涙を零し始める。

「言い訳?」
「ち、ちが……!」
「そ。でも、膨らんでるじゃない、それ」
「あ……これ、は……」
「なあに?」
「おかあ、さまに……見られて……」

 湧き出した我慢汁は重力に従い、床に置かれたグラスに落ちる。粘液が糸を引く様は恋人同士のくちづけのようでいて。実際は獣のように四つん這いになった少女が吐き出した汚水だ。
 自慰により自らを責め立て、しかし決して絶頂せず。妹の責めに耐え、しかし決して絶頂を許されず。延々と続く寸止めの状態で、吐き出されるカウパー汁をグラスいっぱいに溜めることが、遙華に課された日課だった。

「あたしに見られて大きくしてるの?」
「は……い」
「そう。そう。……ぷっ。くっははははは!」

 そしてそれだけが、慈に許された遙華の人生だった。

「あーおかしい! 最高よあんたら。かたや蹴られただけで。かたや見られただけで。この『あたし』の全てに反応して、己の性が疼くのを惨めに曝け出すの!」
「……」
「甲斐があるわ。『作った』甲斐がね。女として、人としてではなく、糞にも劣る畜生として生きる玩具。最高じゃない!」

 嘲笑が響く。高く。長く。それは狂気『じみていた』。
 その姿を見て遙華はじっと俯き、ただその手を動かす。
 羞恥がないわけではない。むしろ人一倍羞恥を感じるように躾けられてきた。畜生と言いながら、勉学で人より劣ることを許されず。学園でも模範生で在り続けている。
 だからこそ、性の家畜として飼われる現実との落差に、震える。植え付けられた被虐が心を責め立てる。理性に反してペニスは大きく膨らみ、理想とのギャップに涙を零す。決して射精できない悲しみとともに。

「……さて。あんたはいつまで寝てんのよ」
「ごふっ!?」

 慈の足が再び梨華へと刺さる。
 軽く呻いた梨華は、しかし先程よりはマシだったのか、痛みを堪えふらふらと身体を起こす。

「そろそろ溜まりそうだから、あんたも準備なさい」
「あ、う、あぁ……」
「返事は?」
「ひぁ、はい……!」

 姉に見せていた強気はもはやどこにもない。梨華はすっかり牙を折られた獣のように、唯々諾々と寝巻きを脱ぎ捨てる。その作業はすぐに終わり、下着を着けていない素肌があらわになった。

「ほうら、おいで梨華ちゃん」
「は……い……」

 生まれたままの姿になった梨華を、赤子を呼ぶように慈が引き寄せる。
 抵抗する気力もない梨華は座り込んだ慈の股の間に収まり、同じく腰を下ろす。同じ方を向き、慈が梨華を抱き包む、それは一見するとまさしく親子のような光景だった。

「自分で足を持ちなさい」

 しかしそれもお互いの笑顔があればこそだろう。
 恐怖に引き攣った梨華は言われるがまま自らの足を抱える。
 それは梨華に対する拘束だった。慈は拘束具の類を使わない。あくまで自らの手で自らを押さえ込ませ、拘束とする。それは忠誠心を確認する意味合いもあるのだろう。二人にとってある意味、拘束具による強制よりもつらいものだった。

「うんうん。梨華ちゃんは今日もちっちゃいですねー」
「……っ」

 そうしてあけっぴろげにされた股間。その中心に鎮座する小さなペニスを、慈は優しく弄ぶ。
 遙華と同じ、生まれついてのふたなり。しかしそのサイズは姉の怒張と比べ、まるで幼い少年のように小さく、可愛らしい。
 それは体質もあったかもしれない。だがそれ以上に、幼いペニスを覆う器具が原因だった。

「やっぱりこのおちんちん矯正具のおかげかな」

 梨華のペニスの周囲には、銀色に光る三つのリングがあり、それぞれが縦に走る四本の柱によって固定されていた。
 根本、竿、亀頭の先を締め付けるリングはペニスの膨らみを阻害している。柱は鈴口に至ったところでリングの内側へと角度を変え、それぞれが尿道の奥深くまで抉り込んでいる。つまり装着時に四本の柱をプジーのように差し込みながら、この矯正具はペニスに嵌め込まれているのだ。
 加えて柱は尿道を拡げるためそれぞれが離れており、外側に引っ張られた尿道はぽっかりと口を開けている。ただしそこにプラグが押し込まれ、抜けないよう施錠されているため、今はその空洞を見ることは出来ない。
 ペニスを外と中から型に嵌め込むこの矯正具のため、結果として梨華のペニスは大きく育つことはなかった。成長期に入る前からずっと変わらず装着されていたため、纏足のように成長を許してもらえなかったのだ。

「お姉ちゃんに感謝しないとね」
「……っ!」

 そしてそれは、遙華が犯したたった一度の過ち。
 寸止め地獄に耐えられず、思わず射精してしまったことに由来する。
 
「お姉ちゃんが『粗相』したから、梨華ちゃんはこんな素敵な矯正具を着けてもらえるんだもんね」

 度重なる快楽と、もどかしさ。頭がおかしくなるような射精欲求に逆らえず。過去に一度だけ、遙華は精液を吐き出したことがある。
 そのあまりの快楽と解放感、天にも昇る心地を未だにはっきりと憶えているが、その後の後悔と絶望もまた、記憶から消すことが出来ないでいた。

「お姉ちゃんが射精なんかしちゃうからね」
「……そうだ! 全部、全部お前のせいだっ!」
「……っ」

 煽るような慈の口調に乗せられ、それまで鳴りを潜めていた梨華の感情が爆発する。

「お前が射精なんかするから! 一人だけ気持よくなろうとして、猿みたいにそのチンポ擦るから!」
「そんな、ちが……!」
「お前なんか一生射精出来ずに悶え続けて苦しめばいいんだ!」

 梨華の中に潜む感情。遙華のせいで、自分が苦しんでいるという理不尽。憎悪。
 それは、慈によって『作られた』本音だった。
 それでも、悲しいかな本音には違いない。心から発せられた声はあやまたず遙華を貫き、傷付ける。
 それゆえ遙華は射精しない。射精できない。例え自由と許可が与えられようとも、絶対に。

「あーあ、可哀想に」
「……」
「大丈夫。お姉ちゃんは一生射精出来ないから。ずっと。ずーっと。あの時の快感を忘れられないまま、寸止め地獄で苦しむの」

 決められた人生。変えられない関係。膨らみ続け、しかし決して楽にはならない劣情。
 遙華の手の中で、ピクリ、ピクリとペニスが鼓動する。

「でも、梨華ちゃんへの罰も終わることはない。お姉ちゃんの罪はそれだけ重いの。一人で苦しむだけでは足りないの」
「やだ……やだ……!」
「さぁ梨華ちゃん、喉が渇いたでしょう?」

 俯いた遙華の目の前から、グラスが消える。いつの間にかいっぱいに溜まっていたカウパー汁は、グラスに注ぐにはあまりに卑猥で。
 だからだと感じた。慈がそれを持つ姿は妙に似合っていて。遙華は思わず、ああ私はこの人のためにあれを捧げたのだ、と思ってしまった。

「さぁジュースですよ」
「いやああああっ!」

 グラスに針のない注射器、浣腸器を入れ、吸い上げる。浣腸器としては小さいが用途は似ている。吸い上げられたカウパー汁を片手に、慈の指が小さな鍵を使いプラグと矯正具を繋ぐ南京錠を外す。物理的な枷が外れたプラグは、内部圧力により徐々に上昇し、その内部に溜め込まれたものの存在を知らせる。

「あら、あんたも溜まってんの?」
「うううぅう……!」
「そ。まぁ出させてあげないけど」
「うぎゃああああっ!? あ、あ、ああいぃああああ!」

 その濁流を、押し込める。浮き上がろうとするプラグを奥へと捩じ込み、逆流させる。
 梨華の口から少女のものとは思えない咆哮が上がった。第三者が見れば、ぽこりと膨れた腹が見えたはずだが、慈は構わない。元よりそこを蹴り上げられて悶えるような娘だ。そう『作った』のだ。遠慮する気はない。

「はい、我慢我慢」
「ぎぎぎぎ……! あがっ!」

 十分に押し込んだところで、ズルリとプラグを抜き去る。大人の指さえ入りそうな空洞がそこに出現する。否、それは実際に慈の親指すら飲み込む。小さなペニスに似つかわしくない穴は、慈が丹精込めて掘り続けたトンネルとして、その目を喜ばせた。

「さ、たんと召し上がれ」

 そして濁流が再びせり上がってくる前に。慈はその哺乳瓶の口のような浣腸器の先を差し込む。尿道に対して太すぎるそれが、ミチミチと音を立て沈み込み、裂けてしまいそうな圧迫感にまた一つ咆哮が上がる。

「いいい!? いだいいだぃあああああ!」

 まるで楽器のようだと慈は思う。丁寧に磨き作り上げた、自分だけの楽器。ここまで成るのに時間はかかったが、その甲斐はあった。先ほど本人たちに告げた本音をもう一度確かめつつ、慈はその手の浣腸器の押子を押す。

「があああああああっ!!」

 痛みか。苦しみか。その両方か。防音対策のなされた高級マンションの一室で、悲鳴という名の調べが鼓膜を震わせる。
 溜まっていた尿どころか、精液まで逆流するかのような苦痛。大嫌いな姉が惨めな思いをして必死で溜めた我慢汁を、自らの体内に注ぎ込まれる嫌悪感。そしてそれらすらも、快感へと変えようとする浅ましい身体への絶望。
 梨華の頭は処理が追いつかず、ただ用意された感情に縋る。脂汗や涙、鼻水に涎と、身体中のあらゆるところが壊れたように液体を垂れ流し始めた。

「あらあら、もうお腹いっぱい?」
「あ……ぅ……」
「なら残りは水筒に入れておくから、お昼に飲むのよ」

 やがて押し込むことも出来なくなった頃。限界と見た慈は浣腸器を抜き、溢れる前に素早くプラグを差し込む。そして南京錠でロックして、梨華のペニスは荒れ狂う地獄を抱えたまま封印された。汁が少し漏れて床に零れたが、慈は優しく、仕方ないなと笑う。どうせ舐めて綺麗にするのは梨華の仕事だ。

「さ、あとは遙華ね」
「は、ひっ……」
「いつもの持って来なさい」

 ばたりと倒れこむ梨華を尻目に、慈は遙華に命令する。遙華は梨華の惨状に顔を青くしていたが、それが自分のせいだと知っているだけに下手な同情もできず、ただただ、かつての己を悔やみながら床を這いずる。
 そして手にしたのは、貞操帯。股を割くシールドの内側にペニスを入れる筒が付いた、男性用だ。
 先ほど脱いだ、一日の大半を共にするそれを再び手に、遙華は慈に向き直る。

「まだ小さくならないの、それ」
「ごめ……なさ……い」
「妹が苦しむ姿を見て興奮してるのね。変態」

 心ない言葉が刺さる。それすら興奮剤にしかならないのは、慈も知ってのことだ。だから一向に収まらない怒張を前に、苦笑すら湧いてくる。あくまでこうしたのは自分だ。それは呆れとともに嬉しくもある。

「ほら、これで小さくなさい」
「はい……」

 慈は冷凍庫から蓄冷剤を取り出すと、遙華に投げて渡した。遙華はそれを受け取ると、未だ脈打つそれに押し当てる。

「う……」

 カチカチに凍ったそれは、瞬く間にペニスを萎ませていく。同時に部屋の寒さも思い出し、遙華の頭の中も冷めていった。
 といっても冷静になるわけではない。あくまでかろうじて正常な判断ができる、日常生活を送れるギリギリの知性に戻るだけだ。それだけ遙華への寸止め責めは過酷で長期間に渡っており、今や恒常的に発情していると言っても過言ではない。
 
 強いて平静だと言える時間があるとすれば、それは教室にて講義に集中している僅かな時くらいかもしれない。でなければ、慈の課すもう一つの命令を果たせないからだ。

 いっそ狂ってしまえたらいいのに。
 遙華は狂えないことがこんなにつらいとは思わなかった。

「小さく、なりました……」
「なら着けなさい」
「はい」

 すっかり縮んだペニスは、それでも成人男性の平均と同じだけの大きさはあった。それを再び膨らませてしまう前に、遙華はまず貞操帯の腰ベルトを巻いた。そして垂れ下がった股間部ベルトを後ろから引き上げ、ペニスを筒の中へ収める。これで自然とペニスは下を向き、勃起することはなく、結果射精することもない。

 それでも、筒に与えられた『遊び』は、ペニスを僅かに膨らませる程度の余裕はある。筒の中でペニスが擦るように動いては、切ない快楽を常に与えてくる。生殺しの状態が続き、装着者をもどかしさで泣かせるのだ。

 幾度となく感じてきた苦悩を思い出しながら、震える手で正面中央、腰ベルトと股間部ベルトが合わさる部分に錠を掛ける。これでもう鍵がなければ脱ぐことも叶わない。
 さらに鍵をタイマー式の金庫に入れ、時間をセットする。次に開けられるのは、一日後。つまり、明日の日課の時間まで、僅かに触れることすら出来なくなる。

「あ、んぁ……っ!」

 加えて、四つん這いから起き上がったことで、遙華の女性部分が「忘れるな」と言わんばかりに責め立てられる。
 遙華のそこは、閉経手術により月のものはなく、さらに外性器自体も手術によって閉じられていた。いわば女性器を失った状態だが、膣や子宮といった器官は未だ健在である。
 そこに残された『遺留品』。それは膣道を押し広げる円筒型のフレームと、いびつな棘が付いたいくつもの玉。
 それらは空洞となった膣の中に留まり、遙華が姿勢を変える度に動き回っては膣壁を跳ねる。それはまるでいくつもの指で掻き回されているようで、慣れないうちはまともに動けなくなったほどだ。
 意地が悪いのはそれが子宮内にまで及ぶことであり、もはやそれは快感とは程遠い苦痛でしかない。だが身体というのは慣れるもので、今では膣と同じように悩ましい快楽を与えてくる。
 否、慣れるしかなかったのだ。もはや自らの手では取り出すことなど出来ず、一生付き合うしかないものなのだから。

「何、またよがってんの?」
「うぅ……」
「ま、そこは数少ないあんたの女性としてのアイデンティティだもんね」

 身体を震わせる遙華を、慈が優しく抱き締める。
 それは身も心も引き裂くような、母親の優しさだった。

「でもあんたはそこでも充足を得ることはない。決してイクことのない刺激だけ与えられて。女性器でも、男性器でも、寸止め地獄が続く」
「んあっ……は……ぁ……!」
「どうせイケないなら、いっそ忘れたい。そんな救いすら与えられない。常に餌をぶら下げられて。空腹の状態を維持させられて。でも絶対に与えられない。満たされない」

 慈が詠うように言う。それは幾度となく繰り返された死刑宣告。

「救われることはないの。永遠に」

 いや、本当に死刑となるのなら、どれほど楽だったろうか。遙華に与えられるのは死などという安楽ではない。無限の苦しみを抱えたまま生を全うする地獄だ。

「まぁ、死にたければ止めないけど。その時は、どうなるか分かってるわよね」

 そして、唯一の逃げ道とも言える自死は、しかし遙華だからこそ選べない。
 何故ならそれは、今受けている苦痛を、梨華に背負わせることになるからだ。
 どんなに嫌われても、憎まれても。自分だけは、梨華を裏切ってはいけない。
 今やそれは遙華の最大の存在意義であり、最後にして唯一の縋る柱だった。

「こんなに嫌われてるのに。妹思いのお姉ちゃんで、ママは嬉しいわ」

 いっそ共策して心中しようか。そんな考えはしかし、とうに失われてしまった。
 徹底的に自分を嫌うように『作られた』梨華は、決して自分の声に耳を貸さない。遙華の諦観もまた『作られた』ものであったが、それ故に強固に、絶対の摂理としてその心に刻まれていた。

「さ、もう学校の時間でしょう。遅れるわよ」

 そして、朝の日課を終えた二人は、世間の母親のそれと同じように促され、それぞれの学校へと登校していく。

 妹は荒れ狂う腹痛に耐えながら、それでもにこやかに。
 姉は狂いそうなもどかしさの中、それでもしとやかに。

 他人にバレればどんな罰が追加されるか分からない。そんな恐怖に怯えながら、二人は今日も受難をその身に刻み続ける。
 いつ終わるか分からない。そもそも終わるかどうかも分からない。そんな無間地獄の中で。

「……あんたたちが、そんなものを付けて生まれなければ……」

 誰もいない中立ち尽くす、母親の姿を最後まで知らぬまま。

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